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        五十嵐さん・走る

        中国人留学生4000人と交流した「日本のお父さん」

        その友情と・無償の愛の物語

        企画構成 知識の杜

         

        (主要登場人物)

        五十嵐勝 ・・・ 八百春店主

        〃 フミ・・・勝の妻

        戸塚喜平・・・勝の先輩

        除振華(ジョ・シンカ)・・・中国人留学生(男性)

        屈長海(クツ・チョウカイ)・・・中国人留学生(男性)

        劉暢(リュウ・チョウ)・・・中国人留学生(女性)

        山本咲・・・八百春のアルバイト

         

         

        ①プロローグ

         

        北京での朝、北京へ帰り大成功している除振華の元へ電話が来た、日本へ留学した仲間から、八百春が倒産しそうだと。

        除振華は、留学生仲間へ連絡を取り合った。

        翌日に載るある新聞の記事が全てを変えてしまう、その新聞の記事の見出しはこう。『中国留学生の宿消える』

        五十嵐の元へ中国からある一本の電話が入る、その電話の主の名は除振華。

        五十嵐は除が中国に戻り、大成功を収めたことを知る。

        そして五十嵐のことは中国でもニュースとして取り上げられていたのだ。

        五十嵐の窮状を知った除が五十嵐に援助を申し出るのだった。

         

         

         

         

         

        ②八百春の現実

         

        八百春は追い詰められていた。

        激しい喧嘩の後であろうことを伺わせる部屋、鳴り止まない電話、テーブルの上に山と積まれた督促状、五十嵐は全てを諦めたかのように電話線を引きちぎった、そのタイミングでバイトの咲が五十嵐の先輩、戸塚を連れて戻って来た。一人ではどうにもならないと思い、助っ人を頼んだのである。

        どうしたんだ、五十嵐・・・、戸塚の問いにフミが答える。

        どうしたもこうしたもない、中国に狂って、山のような借金を作っていたというのである。

        もう、終わりだよ・・・、五十嵐はただ一言、ため息混じりに呟くのだった。全てを失っちまった・・・。

         

         

        ③日本へ向かう劉暢

         

        北京から成田へ向かう飛行機の機内。期待と不安で緊張した面持ちで窓の外を眺めている劉暢の姿があった。

        北京空港で見送ってくれた両親の姿が思い出される。頑張るんだぞ、頑張るんだぞ、そう言って送り出してくれた両親。決して裕福な訳ではないことを劉は知っている。

        それなのに何とかお金を工面して、日本へと送り出してくれたのである。

        そして劉暢は将来への期待を胸に成田へ降り立つのだった。

        美人だが、まだどこかあどけなさが残る20代。

        五十嵐が迎えに来ることになっていた。

        しかしその肝心の五十嵐が見当たらない。

        やがて入国ゲート前から人は消え、劉ひとりだけになってしまい、不安に目を潤ませる。

         

         

         

         

        ④五十嵐さん成田空港へ向かう

         

        重苦しい沈黙に包まれる八百春に屈長海がやって来る。今日成田に到着することになっている中国からの就学生を迎えに行くことになっているからだ。

        悪いけど、今日はそれどころじゃないの。

        咲が屈にそう告げるのだが、五十嵐は大丈夫だと言う。何が大丈夫なのかと怒るフミ。しかしこうなってしまってはもうどうにも止まらないのが五十嵐である。自分や家族のことそっちのけで成田へと屈を連れて迎えに行ってしまうのだった。

        とはいえ、五十嵐は八百春の軽トラックを成田に向けて走らせながら、悩むのだった。家庭を崩壊させる訳にはいかない。かといって、中国人留学生への支援をここでやめるなどということも考えられない。

        思わず大きなため息を漏らしてしまう。そして屈はそのため息の理由を何となく察していた。

        自分たち中国人の為に五十嵐さんは何でもしてくれている。野菜だっていっぱいおまけをしてくれている。それも自分一人にではない。誰隔てなく、多くの中国人留学生を助けてくれているのだ。大丈夫な訳がない。

        屈は薄々気付いていたのである。八百春が、五十嵐さんが自分たちを支援しているおかげで、どんな窮状に立たされているのかを。

         

        成田空港で無事劉と会うことが出来た時には、劉は不安と会えたことの安堵から涙をボロボロと流す。

        そんな劉を見て、不安だっただろう、悪かったと、五十嵐も涙を流すのである。屈はそんな五十嵐を見て、申し訳ない気持ちでいたたまれないような、何とも言えないような、感謝の気持ちで胸がいっぱいになるのだった。

        こんな時にでも五十嵐は屈たちに笑顔を見せてくれる。そんな笑顔を見ると皆勇気づけられるのだった。

        なんとかなるさ。きっと、なんとかなる。

        いつだって五十嵐はそう言った。

        そして今はきっと自分自身に言い聞かせているに違いなかった。

        なんとかなるさ。きっと、なんとかなる。

         

        ⑤船橋寮に着いた劉暢

         

         一方、寮に連れてこられた劉は、これから使う部屋の掃除をしていると、

        一冊の日記帳を見つける。

        それはかつて同じ部屋に住んでいた留学生、除振華が書いたものだった。

        母さん、日本は良い国ですが、大変なこともたくさんあります。

        そんな書き出しで日記は始まっていた。

        劉は掃除を中断して日記を読み始める。

        日記には除の苦労や失望、そして希望や夢が活き活きと綴られていた。

         

        日本に来てはみたけれど・・・何もうまくいかない除。

        金もなく、飢え死にしそうな頃に五十嵐と出会う。

        そして五十嵐が中国人留学生を支援し始めるきっかけが描かれる。

        当時の五十嵐は中国人に対して決して友好的ではなく、ガチガチの商売人。

        しかもやり手である。

        そこへやって来て、野菜を値切れとたどたどしい日本語で言う除。

        冗談じゃないよ、こっちは十円二十円の商売を やってるんだよ

        値切られてたまるかよと、当然のことながら門前払いを食らってしまう。

        しかし除は諦めない。

        毎日のように八百春に通い詰め、五十嵐と野菜を巡る攻防を繰り広げるのである、時にユーモラスに、時に涙ながらに、時には喧嘩までして。

        そんな日々を過ごしているうちに、五十嵐の心は融解していく。

        そしてある日、毎日のように姿を見せていた除が八百春に姿を見せなくなるのだった。心配する五十嵐。フミまで一緒になって心配している。二人にとって除はいつの間にか友達になっていたことに気付き、五十嵐は除の暮らす寮を訪ねる、そこで五十嵐は中国人留学生たちが直面している現状を目の当たりにするのだった。

         

        日記を読んでいたらいつの間に夕方になってしまっていることに気付く劉。

        ノートを一冊買うのだった。

        先輩、今日から私も日本で頑張ります。

        中国は破竹の勢いで発展している国です。

        だけど、私の家はまだまだちっとも裕福なんかではありません・・・。

        劉の日記はそんな文章で始まる。

        劉は除を先輩と呼ぶことにした。

        そして劉はまだ知らなかったのである。

        半年後に寮は取り壊されマンションが建設されることになっているのを。

         

        ⑥八百春の窮地

         

         その頃八百春では戸塚も交えて話し合いが行われていた。

        このままでは店を続けることはおろか、土地も建物も差し押さえられてしまうのである。

        とりあえずは何とか最悪の事態だけは避ける算段をし、中国人留学生に対する支援は一端止めにするべきだというのが、フミと戸塚の意見だった。

        誰だってそう考える、が、そんな常識が通用しないのが五十嵐という男だった。

         

         五十嵐は戸塚に言うのである。

        なぜ自分たちは働くのか? 

        もっと言えば、なぜ自分たちは朝起きて、歯を磨いて、服を着て外に出るのか? なぜこんなにも辛い想いをしてまで必死に生きるのか? 

        つながる為だ、と。

        人とのつながりこそが人生の全てであると。

        結局のところ、人間なんてのは、お互い様なのである。

        自分も困っているからという理由で人が困っているのを無視するなんてことはあってはならないのだ。

         

        戸塚にも思い当たる節はあった。

        敗戦後36年目にして中国残留孤児が日本を訪れた時、その中に戸塚の親戚もいたのである。

        戦後の混乱の中国。

        何らかの理由から中国に取り残されてしまった孤児たちを育てた中国人だって裕福であった筈がない。

        その日を生き延びるのに精一杯だった筈だ。

        それでも彼らは助けてくれた。

        育ててくれた。

        その親戚は今でも中国にいる。

        自分を育ててくれた中国の両親を見捨てることが出来なかったのだ。

        中国に帰る時に、空港で産みの親と固く交わした涙ながらの抱擁を戸塚は今でも忘れることができない。

        戸塚にとっても、中国は特別な国だった。

        いや、全ての日本人にとって、中国は特別な国なのである。 

         

        しかしフミは納得できない。

        言っていることは分かる、もっともである。

        しかし何でも正しければそれで良いというものでもない。

        小さな物置のような八百屋から始めて、必死になって働いて今がある。

        誰もが五十嵐には一目を置く。

        かつての物置のような小汚い八百屋は今では立派な3階建てのビルになっている、それを全て失うことなど到底認められなかった。

        半分はフミの物でもあるのだ。

        話は平行線を辿り、一向に解決策は見つからない。

        そんな状況でも五十嵐はどこか楽観的というか、呑気なのだった。

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

        ⑦屈長海の毎日

         

         屈は日本語学校の授業が終えると街に出る、バイトを探す為だ。

        経済的に発展したとはいえ、中国からの学生の中にはまだまだ貧しい者がたくさんいた。

        屈の実家は中国で林檎農家を営んでいる。

        決して余裕がある訳でも裕福な訳でもなかった。

        にもかかわらず、親戚中から借金をしてまで自分を日本へ送り出してくれた。そんな両親の期待を裏切る訳にはいかなかった。

        しかし金がない。

        仕送りしてくれとも言えない。

        中国からの留学生には一日4時間までのアルバイトが認められてはいたが、中国人を雇ってくれる所は中々見つからないのが現状だった。

        しかももうすぐ寮は取り壊される。

        そうなれば引っ越さなければならない。

        引っ越し費用を稼がなければ路頭に迷ってしまう。

        仮にそれをクリアできたとして、私学の大学に入る為には百万を超える入学金を払わなければならない。

        問題は山積みだった。

         

        そして屈にはもう一つ、街に出る理由があった。

        屈と同じように日本に来て、行方不明になってしまった親友を捜していたのである。

        バイトも親友も希望も見つからない。

        屈は街中で一人深いため息をつく。

        そんな時、足は自然と八百春へと向かうのだった。

         

         

         

         

         

         

        ⑧八百春にて

         

        夜になり、昨日のお礼も兼ねてと、劉が八百春を訪れると、屈も八百春にやって来ていた。

        五十嵐は笑顔で出迎えてくれ、劉と屈に夕飯を振る舞ってはくれるのだが、何となく雰囲気がおかしい。

        笑顔なのは五十嵐だけなのである。

        フミや五十嵐の娘、バイトの男、それに五十嵐の先輩だという男にも笑顔はない。

        屈にはその理由が痛いほどよくわかっていた。

        五十嵐が私財を投げ打ってまで自分たちを支援してくれたせいで、経済的に追い込まれているのだ。

        それだけではない、親友の為に街金から借金までしてくれた。

        そしてその親友が金を返さないまま、どこかへと消えてしまったのである。

         

        五十嵐さん、申し訳ありません!

        食事の手を止めて、屈が突然頭を下げる。

        劉には何のことだかよくわからない。

         

        そんな屈を五十嵐は屈託のない笑顔で慰める。

        屈さんが悪いんじゃない。

        誰が悪い訳でもない。

        屈は涙を流しながら、いつか必ず出世して恩返しをします、と言うのだった。

        五十嵐はそんな屈を見て、かつて同じことを言った男がいたなぁと、かつて

        日本にいた除振華という中国人留学生を思い出すのだった。

         

         

         

         

         

         

         

        ⑨除振華

         

        店に姿を見せないのが心配で寮に除を訪ねた五十嵐が見たのは、中国人留学生たちが直面する現実だった。

        誰もが貧しく、食事もままならない状態で青白い顔をしながら、それでも必死に生きていたのだ。当然除もその中の一人で、栄養失調で倒れてしまっていた。医者に診て貰う金もない。

        五十嵐にはそんな彼らが他人事には思えなかった。

        自分の若かった頃の姿と被るのである。

        その日を境に、五十嵐は中国人留学生の面倒を見るようになる。

        損得勘定一切抜き、やれることは何でもやった。

        野菜を買いに来る中国人留学生とのじゃんけんは恒例になった。

        誰もが五十嵐はパーしか出さないことを知っていた。

        誰かが病気になったと聞けば、すぐに駆けつけ、金がなくて困てると聞けば

        気前良く金を渡した。

        金だけではない、自転車や服など、持っている物は全て渡した。

        周囲の人間はそんな五十嵐を訝しがり、五十嵐を中国病と呼び、嘲笑った。

        その一方で五十嵐の元には多くの中国人留学生が五十嵐を慕って集まるようになり、狭い部屋に何十人も入り、餃子パーティーをするようになるなど、交流を深めていった。

        誰もが貧しく、苦しかったが、誰もが笑顔だったのである。

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

        ⑩船橋寮の現実

         

        寮のベッドに横になりながら除の日記を読む劉。

        日記には五十嵐に対する感謝、そしていつか必ず中国は世界の経済大国へと発展する、自分はその礎になり、出世して必ず五十嵐さんに恩返しをしたいと書かれてあった。

        日記を途中で閉じ、この同じ部屋にかつて除という人間がいて、色々なことがあったのだと想いを馳せる劉。

        すると屈が部屋にやって来る。

        劉はもうすぐここを出なければならないことを知るのだった。

        寮では学生たちが集まって話し合いが行われた。

        何とか立ち退かなくても済む方法はないだろうか? 

        しかし答えは見つからない。

        こんな時に学生たちが一番に思い出すのが五十嵐だった。

        五十嵐さんだったら何とかしてくれるんじゃないだろうか?

         

        誰ともなく、そんな意見が出始める。それに猛反対したのが屈だった。

        もう五十嵐さんは充分にやってくれた。

        これ以上迷惑を掛ける訳にはいかない、と言うのである。

        結局大家さんに直談判しに行くことになるのだが、むげに追い返されてしまうのだった。

        引っ越すと言っても日本の家賃は高い。

        中国人に貸したがらない所も多い。

        五十嵐に頼るべきではないとは言ったものの、屈たちは追い詰められていた。

        部屋に戻り、買ったばかりのノートを開く劉。

        先輩、私たちは追い詰められています。

        こんな時、先輩だったらどうしますか?と、日記帳に書く劉。

        何か良いアイディアはないものかと考えるが、何しろ日本に来たばかりである。アイディアどころか、日本がどういう国なのかもまだあまり分かっていない。

        結局ベッドに横になり、何かヒントはないだろうかと除の日記を再び開くのだった。

         

        ⑪追いつめられる八百春

         

         除たち中国からの留学生との交流を深めるにつれ、八百屋の商売そっちのけで中国人たちを支援し始める五十嵐。

        そのせいで家庭がうまくいかなくなる。

        フミと喧嘩になるといつだって五十嵐が言うのは正論である。

        五十嵐の言っていること、やっていることは正しいのだ。

        その正しさのせいで余計に家庭はギクシャクし始める。

        それでも五十嵐は中国人留学生たちへの全力の支援を止めない。

        手を抜くということを知らないのだ。 

         

        いよいよ追い詰められる五十嵐。

        猶予も消え、万策が尽きる。

        そして追い詰められているのは屈や劉も同じだった。

        劉も何とかバイトを見つけなければと焦るのだが、日本語もまだそんなに喋れない。

        バイトはなかなか見つからない。

        そんな時に手数料を10万支払えばバイトを紹介するという日本人に騙されてしまう。

        一方、屈はバイトを探している時に偶然街中で失踪した親友を見つける。

        しかしその親友は以前の親友ではなくなっていた。

        いかがわしい仲間とつるんで、雀荘に入り浸っていた。

        劉が騙された、屈が親友を見つけた、という二人の話を聞いて、よし俺に任せとけ、と五十嵐は自分のことはそっちのけで外に飛び出してしまうのである。

        まずは劉を騙した日本人の所へ行き、金を取り返す。

        そして屈の親友がいるという雀荘へ乗り込むのだった。

        貸した金が惜しいのではない。

        そんな所で変な連中と付き合って流されていたら人生は取り返しのつかないことになってしまう、何とかしてやりたい一心だった。

        雀荘で屈の親友は五十嵐に言う。五十嵐さんには感謝している、と。

        しかしどうしようもない。

        日本は金が掛かる。

        しかしバイトは見つからない。

        借金が増える。

        借金を返す為に何でもするようになる。

        すると日本語学校での単位が足りなくなり、退学になる。

        退学になれば不法滞在になる。

        かといってこのまま中国に帰ることも出来ない。

        みんな好きでこうなった訳ではない、と。

        五十嵐には返す言葉が見つからないのだった。

        日本も悪い。

        一方的に彼らを責めることは出来ない。

        悔し涙が五十嵐の頬をつたう。 

        無力だ・・・。いや、そうじゃない、もっともっと何かしてやれた筈だ。

        どこかでもう自分は充分やっていると傲慢なことを思っていなかっただろうか?

        五十嵐は自分を責め、屈や親友、劉、雀荘にいる中国人たちに涙を流して謝罪するのだった。

        まだ諦めない。

        まだ何かやれる筈だ、そう熱く語る。

        しかし何をどうやれるのか、その答えはどこにも見つからないのである。

        五十嵐はまだ知らないのだ。

        翌日に載るある新聞の記事が全てを変えてしまうことを・・・。

        その新聞の記事の見出しはこう。

        『中国留学生の宿消える』

         

         

         

         

         

         

         

         

         

        ⑫救世主・除振華(五十嵐さんを助けよう)

         

        翌日に載るある新聞の記事が全てを変えてしまうことを・・・。

        その新聞の記事の見出しはこう。

         

        『中国留学生の宿消える』 

         

        今まで必死に五十嵐が中国人留学生の為に奔走してきたことを紹介する記事だった。

        そして八百春が倒産の危機に瀕していることも。

        八百春の鳴り止まない電話は今や借金の催促ではなく、寄付の申し出の電話へと変わった。

        日本人は中国人を嫌ってなんかいない。

        そのことが五十嵐は寄付よりも嬉しかった。

        八百春は救われようとしていた。

        そんな時、中国からある一本の電話が入る。

        その電話の主の名は除振華。劉が部屋で見つけた日記を書いた本人である。

        五十嵐は除が中国に戻り、大成功を収めたことを知る。

        そして五十嵐のことは中国でもニュースとして取り上げられていたのだ。

        五十嵐の窮状を知った除が五十嵐に援助を申し出るのだった。

         

        破産を免れた五十嵐。個人の力では限界があると思い、集まった寄付で

        「助ける会」を発足させる。

        バイトが見つからないと言っていた屈や劉も八百屋を手伝いながら助ける会で働くことになり、全てが順調に動き出す。

        屈の親友や、寮を出る費用も寄付のおかげで何とかなった。

         

         

         

         

         

         

        ⑬咲の恋心

         

         そしてバイトの咲はいつしか屈に恋心を抱くようになるのだった。

        しかし咲はその想いを屈に告げることがどうしても出来なかった。

        二人はあまりにも違い過ぎた。

        なるべく祖国の両親には迷惑の掛からないようにと、勝手の違う外国で、必死に働きながら勉強する劉や屈、一方で田舎の父親からいい加減年金を自分で払えと説教される咲。

        咲はただただひたすらに自分が情けなかった。

        自分だけではなく、日本の若者たちも情けなく思えてくるのだった。

         

         やがて劉と屈は国立大学に合格、奨学金も得て、勉強に集中できる環境を手に入れる。

        それは決して平坦な道のりではなかった。

        劉はその喜びを中国の両親に伝えようと電話をする。

        そして劉の父親が半年前に心臓発作で亡くなっていたことを初めて知る。

        日本で頑張る娘に心配をかけまいとする母親の配慮だったが、そのことで深く傷ついた劉は帰国を決意、そのことを五十嵐に告げるのだった。

        誰にも知られたくない、劉はそう五十嵐に告げる。

        自分が帰国することは誰にも言わないでくれ、と。五十嵐は頑張って日本に留まって勉強することを勧めたが、最後には劉の想いを受け入れ、日記を大事に抱える劉を成田から見送るのだった。

         

        劉が密かに帰国してしまったことにショックを受ける屈、そして咲。

        このままで良いのか?

        屈に疑問を投げかける咲。仕方ない、自分にはどうすることも出来ない、と答える屈。

        しかし咲は納得できない。屈に更に問いかける。

        ここで諦めてしまっては何にもならないではないか。

        咲は中国まで劉に会いに行こうと提案するが、現実的な話ではなかった。

        それに使えるお金の余裕などないのである。

         

        ⑭中国へ招かれた五十嵐さん

         

         何となく劉がいなくなり、活気を失う屈と咲。

        と、そんなところへあるニュースが飛び込んでくる。

        五十嵐が中国へ招かれたのだ。

        表彰される為に。

        咲と屈は渡りに船と、それに一緒について行くことにするのだった。

        上海国際空港に降り立った五十嵐は中国という国の発展ぶりに思わず目を見張り、感嘆する。

        そして降り立った空港で出迎えてくれたのは、立派に出世を果たした除振華だった。

        熱く抱擁する二人。

        かつての除との日々が思い返され胸が熱くなる。

        野菜を値切ろうと様々な攻防を繰り返した懐かしい日々、ある日姿を見せなくなり、寮を訪ねると栄養失調で医者にも行けず寝込んでいた除、皆で狭い部屋でぎゅうぎゅう詰めで楽しんだ餃子パーティー・・・。

        すっかり世界の経済大国へと上り詰めた上海を目の当たりに、目頭が熱くなるのだった。

        そして表彰式。

        そこには中国の有力者たち。

        それらは五十嵐が支援した、かつて日本で苦学生だった留学生たちであった。

        五十嵐は胸が熱くなるのを抑えきれなかった。

         

        そして五十嵐たちは北京の劉の元へと。

        北京へ飛び、再会を喜び、抱き合う劉と屈、そして咲、五十嵐と除もそれに同行している。

        そして日記の中の先輩、

        除と対面する劉。

        日記を除に返すのである。

         

         

         

        日本へ旅立つ北京空港。

        そこには必ずまた日本に戻ると約束する劉と、そして屈の両親の姿があった。屈は五十嵐に、僕のお父さんです、と父親を紹介する。

        そして父親には五十嵐を、僕の日本のお父さんです、と紹介するのだった。

        屈の両親は五十嵐に丁重に礼を言い、咲を見て、そして彼女はお前の将来のお嫁さんか? と冷やかす。

        赤面してしまう咲だった。

        再び日本に戻り、勉学に勤しみながら五十嵐たちと過ごす劉の姿が描かれる。

        そして屈。フミやその子供たちと咲。

        そして今日も八百春には中国からの留学生が日本のお父さん、五十嵐を頼って訪ねて来るのだった。

         

                     ⑮エピローグ

         

        もしも人生に幸運というものがあるとしたら、それは忘れ難い友人を得ることなのではないでしょうか? 

        しかもその幸運が特別なものであるならば、たとえ互いがどのような道を歩むことになろうとも、どんなに遠くにいようとも、友情の距離が遠くなることはありません。

        私たちの前には大人になるにつれ社会という厳しい現実が立ちはだかり、否応なしに自分を防御する為の壁を何重にも築きます。しかしそんな壁をいとも簡単に打ち砕く友情がそこには存在しました。そのきっかけは何でもないこと。

        リトルヘルプの精神。

        「リトルヘルプ」それは、ちょっと助けてくれないかという意味。

        キャッチボールで後ろへそらしてしまったボールを誰かに拾って貰ったり

        電車で席を譲って貰ったり、その程度のこと。

        その程度のことが後に大きな奇跡を生み出します。

        この物語は、五十嵐勝氏の取材に基づき構成しました。

        最近、自分ファーストに成って来た世界中の人々に、日本人と中国人の間に

        心からの、友情、交流、が今でも有る事を伝えられたらと思います。

         

        リトルヘルプ・優しい心が、世界中に広がります様に。 完

        制作協力企業

        • ACデザイン
        • 日本クラシックソムリエ協会
        • グランソールインターナショナル
        • 草隆社

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