なぜ中東はわかりづらいのか・・・2
― イスラーム ―
2026.3.02.
位野花 靖雄
なぜ中東は遠く分かりづらいのかを、前回は民俗学の視点から考えてみましたが、今回はイスラーム(教)の切口から考えてみました。
イスラームは宗教なのか?
日本では憲法20条により「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動をしてはならない」として、政教分離の原則を規定しています。
信仰は個人の心の内で問われるべきもので、国家や政治へのつながりをなくすこと、すなわち政教分離が近代化の必要条件であり、社会が進歩すればするほど宗教がはたす役割が少くなると一般的に考えられてきたと思います。
しかし、アラブ・イスラーム諸国では全く逆で、宗教(イスラーム)と政治が非常に密接、時には一体化しているのではと思う場面が多く見られます。
何故なのでしょうか? それはイスラームの教義が関係しているからだといえます。
仏教・キリスト教*が内面的な個々人の宗教信条にとどまっているのに対し、イスラーム教義はもっと広範な権力と支配の分野にも及んでいます。イスラームの教えは、政治・軍事・経済・文化・社会・・・人間のすべての生活・営みをカバーしているのです。政教分離という考え方は存在していないともいえます。
*米国キリスト教福音派は、トランプ政権の岩盤支持層だといわれています。
このようなことから、イスラームは宗教としてのカテゴリー(イスラーム教)ではなく、資本主義・共産主義と同じカテゴリーの「イスラーム主義」として位置付けるべきだとする研究者もいます。イスラーム世界では、すべてはイスラームの傘の下にあるのです
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政治・経済・文化・軍事・司法・
日常の生活・あらゆる営み・・・
イスラーム各国の事情
近年イスラーム諸国では西洋法の吸収が進み、イスラーム法が適用される範囲は狭まっていますが、イランのようにイスラーム指導者が行政・司法・立法三権の上に立ち、国の最高権力を持ち軍の最高司令者でもあり宣戦布告の権力を持つ国もあります。
100年前に政教分離を宣言したトルコでも、現大統領エルドアンはオスマン帝国のカリフ制度への回帰を標榜し、イスラームによる政治統治を目指しています。タリバンが政権復帰したアフガニスタンは、世界で唯一の真のイスラーム主義体制をつくりあげると公言し、イスラームによる厳しい国造りを目指しています。
他方、モロッコ・レバノンなどのでは西欧法の影響が大きく、中東各国により状況は大きく異なっていることも、我々の中東理解を難しくしている面があるのかもしれません。
2月28日、米国・イスラエルの攻撃で最高指導者ハメネイ師および主要側近が殺害されたイラン。従来同様のイスラームを前面に押し出した支配体制が続くのか。強力な反体制組織が存在していないだけに、一層イスラム的な体制を誕生させる可能性もあり、今後の動向が非常に注目されます。
日本との違い
あらゆるものに霊が宿り神がいると信じる多神教の日本。アッラー以外には神はいないとする一神教のイスラーム諸国。日常生活でも大きな違いがみられます。
日本では、受験・就職・結婚・子宝・出産・豊作・交通安全・・・・何事も神様にお願いする「神頼み」の文化が根付いています。
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一方、イスラーム世界では一日5回の祈りが求められていますが、5回の祈りはひたす
らに神に直接近づくための祈りであり、何か具体的に「神頼み」する祈りではありません。
イスラームの悩み
イスラームの教えは、電話・TV・インターネット・AIなどが存在していなかった7世紀に啓示されたもので抽象的です。現代社会に起こっている諸事象をどのように解釈し良きイスラーム教徒として行動すべきかに関し*、イスラーム宗派・学派により考え方が異なります。更に、イスラーム各国のその時々の政権の政治的判断、さらには政府が任命する法学者により大きく影響されます。
*電話ははたしてイスラームを受け入れるべきか否かについて、当時のオスマントルコ政権は、電話でコーランの一節を流し、ありがたいコーランが相手に伝わる便利な道具であるとして導入を正当化しました。
その結果、例えばベール着用にみられたように、イスラーム諸国・宗派・時代・支配者により異なった判断・判例(ファトワ)となっています。ベールだけでなく、教育・就業など広範な分野での女性の立ち位置が異なることになるのも現状だといえます。
このような多様なイスラームが我々の理解を難しくさせ、中東諸国との距離を感じさせているもう一つの要因なのかもしれません。
参考資料:
*イスラームの五行:イスラーム教徒としてやらねばならない義務的実践。信仰の柱
・信仰告白(アッラー以外に神はなし・・・)
・礼拝(一日五回)
・喜捨(貧者への施し)
・断食(ラマダーン)
・巡礼(ハッジ)
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*イスラーム法:以下五つに分けられる。
・絶対にやらねばならないこと
・出来ればやった方が良い
・どちらでもない
・出来ればやらない方が良い
・絶対にやってはならないこと
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