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第82回
北朝鮮問題で独自の強みを発揮するプーチン大統領(後編)
浜田和幸
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習近平は2013年、モスクワ大学の講演で次のように述べている。
「中ロ関係は世界で最も重要な2国関係であり、しかも最も良好な大国関係である。双方の20年以上の絶えまない努力によって両国は全面的な戦略協力パートナーシップを築いてきた。歴史が残した国境問題を徹底的に解決し、中ロ善隣友好協力条約に調印し、長期的な発展に強固な基礎を固めた。中ロ関係は終始、中国外交の優先方向である」。これ以上ないと思えるような中ロ関係礼賛の言葉のオンパレードだった。
プーチン大統領も「ロシアは繁栄かつ安定した中国を必要としている。一方、中国も強大かつ成功したロシアを必要としている」と阿吽の呼吸で応えている。更に、プーチン曰く「中国の声は世界に響き渡っている。我々はそれを歓迎する。なぜなら、平等な国際社会を作るという視点を共有しているからだ」。
しかも、注目すべきは、その協力のあり方をアピールする際に、共通の敵としての「日本」を持ち出すという「歴史カード」を切っていることである。何かと言えば、抗日戦争における旧ソ連のパイロット、クリシェンコ氏のことだ。日本では無名の存在だが、彼は中国軍兵士と共に戦い、戦死した軍人に他ならない。彼の残した言葉を今更の如く繰り返すのである。
曰く「私はわが国の災禍を体験するかのように、中国の働く人々が今被っている災難を体験している」。習近平はこのロシア人パイロットのことを「中国人は英雄として忘れていない」と持ち上げる。その上で、「中国人の親子が半世紀にわたり彼の墓を守り続けている」と紹介しているのである。
こうした中ロの政治的蜜月関係や国民レベルでの交流は安全保障の分野にも広がりを見せている。2015年には、地中海はもとより、ウラジオストック周辺の日本海においても、中国とロシアの共同軍事演習を実施。その背景には、この2人の指導者の強い軍事力信奉傾向と、アメリカ主導の戦後体制に挑戦し、新たな政治、経済の仕組みを形成しようとする強い意志が隠されている。
そのため、特に中国は日本やアメリカが主たる出資者となって誕生させたアジア開発銀行(ADB)や、戦後世界の金融体制を形成してきた世界銀行や国際通貨基金(IMF)に代わる、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)の影響力拡大に余念がない。加えて、現代版の陸や海のシルクロード計画にも着手。いわゆる「一帯一路計画」である。はたまた「サイバー空間におけるシルクロード」計画も提唱しているほどである。これらも「シルクロード」という歴史的遺産に新たな価値を吹き込もうとする中国的なアプローチに他ならない。
他方、ロシアは「ユーラシア同盟」を提唱し、ロシアの極東やシベリア方面の開発に、中国も巻き込み、海外からかつてない規模での投資も呼び込もうと躍起になっている。プーチンは「ロシア極東は協力したい人々にすべて開放する」と語気を強める。実はロシアの極東地域は中国との国境線地帯を中心に石油、天然ガス、石炭、木材が豊富に眠っている地域である。また、ロシアの漁業資源の7割を占めているわけで、まさに「資源の宝庫」そのものである。
但し、それだけ資源には恵まれているが、開発に従事する人がいないのが悩ましいところであろう。何しろ、極東地域の人口はロシア全体の5%以下で、常に労働力が不足している。国内の他の地域からも優遇策で労働力を確保しようと工夫をしているが、思うような成果は得られていない。そのため、中国、モンゴル、韓国、北朝鮮といった国々にも働きかけを強め、労働力の確保に必死で取り組んでいるわけだ。
人や物資の移動に欠かせないのが鉄道や高速道路である。ロシアはヨーロッパ方面とシベリア極東を結び、更に南北朝鮮縦断鉄道やサハリン経由で北海道を結ぶ国際輸送回廊計画を提唱中である。今後20年で世界の物流風景は中ロを軸に大きく変貌を遂げるに違いない。中国の推進する「新シルクロード構想」はその発想を具現化するもの。
当然のことながら、今後急成長が期待できる東南アジアや南アジアに対しても、陸のみならず海上輸送路の整備が望まれる。南シナ海での岩礁の埋め立てについても、中国の海洋シーレーンを牛耳ろうとする思惑が透けて見える。グローバルな輸送市場の急展開を想定し、中国とロシアが連携を図りつつ、インフラ整備や安全保障体制の確立に向けてチームワークを組み始めていることは注目に値しよう。
同様にロシアも、北方領土を含め、極東方面における大規模なインフラ整備事業について、日本にも参加を呼び掛けてはいるものの、中国や韓国、北朝鮮といった国々からの投資や合弁企業進出がはるかに速いスピードと大きな規模で進展中である。日本との関係改善を狙うロシアは福島原発の除染や廃炉に向けて、技術の提供を申し出ているが、日本側の反応は遅く、プーチンは日本より中国にシフトする意向を強めているようだ。
言うまでもなく、プーチン大統領は、崩壊した旧ソビエト連邦を自らの手で蘇らせたい、との歴史的野望を秘めているのである。「ソ連崩壊は20世紀最悪の地政学的な悲劇だった」と主張して止まないプーチン。「ユーラシア同盟」の名の下で旧ソ連の復活を模索している。「中国の夢」と称して、4000年、時には5000年の歴史を背景に、中華思想を実現しようとする習近平の路線と共通する部分が多いのも当然であろう。
実際、上海協力機構においては、中国とロシアが旧ソ連邦の中央アジア諸国を含め、テロ対策や安全保障の面から地域の安全と発展を進める動きに加え、ユーラシア同盟との連携も視野に入ってきている。インドやベトナム、モンゴルなども組み込み、合同の軍事演習や資源開発、インフラ整備プロジェクトが相次いで始まりだした。残念ながら、こうした動きに日本は全くと言っていいほど食い込むことができない状態が続いている。それだけロシアや中国の動きに疎いのが日本なのである。
日本とすれば、世界の力関係の変化を冷静に把握し、アメリカの力を活かしながら、中国やロシアとの関係進化を目指す必要がある。その際、大切な視点は指導者の人間力を見極めることだ。強みと弱みはどこか。卑近な例だが、娘思いのプーチンの弱みを見抜き、中国はプーチンの娘を少林寺に招いた。その結果はどうなったか。それまで父親の影響で柔道に励んでいた娘が少林寺拳法に鞍替えしたのである。
一事が万事。外交も国際関係もトップの個人的関心が大きく左右する。中ロ関係を理解するには、こうした面での情報収集と分析も重要だ。とはいえ、これは決して中ロ関係に限って当てはまることではない。政治やビジネスの現場においても同様で、交渉を有利に展開し成功を勝ち取る上では欠かせない視点であろう。常に相手の関心の向かう先を先回りし、共にウィンウィンの関係となるよう道筋を明らかにすること。短く、パンチある言葉で、時には共通の課題や敵の存在に目を向けさせることも有効な手段となるに違いない。
次号「第83回」もどうぞお楽しみに!
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