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        世界の最新トレンドとビジネスチャンス

         

        第83回

         

        未開発状態の日本の医療ツーリズム:東京オリンピックを発展のチャンスに(前編)

         

                                     浜田和幸

         

        ウェブで読む:http://foomii.com/00096/2017100610000041472

        EPUBダウンロード:http://foomii.com/00096-42053.epub

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        2020年の東京オリンピック・パラリンピックまで、あと3年。小池百合子都知事の采配が期待されていますが、突然の衆議院解散・総選挙の流れを受け、国政政党を目指す「希望の党」の党首も兼ねる動きも急浮上。そうなると、「二足の草鞋を履く」ことになり、果たして東京オリンピックや築地市場の移転問題などが、中途半端になるのではないかと懸念されるようになりました。「機を見るに敏」との見方もありますが、「移り気過ぎる」のではないでしょうか。後々大きな問題になるかも知れません。

         とはいえ、そんな永田町発の解散劇とは無関係に、近年、わが国を訪れる観光客の数は鰻登りです。日本経済にとっては頼もしい限り。そこで、日本政府は東京五輪の機会に4000万人の外国人観光客を呼び込もうと、「ビジット・ジャパン計画」などを通じて積極的な誘致合戦を展開中。世界の観光大国フランスは年間6000万人を超える観光客を惹きつけており、政情不安と言われるトルコですら5000万人を呼び込んでいるわけで、「安全・安心なおもてなし」が売り物の日本にとって4000万人の目標は決して達成困難ではないはずです。

         

         ちなみに、2015年に外国人観光客が日本で消費した金額は過去最高の3兆4771万円でした。とはいえ、これだけ多くの外国人が日本を訪れるのですから、彼らが安心して日本滞在を満喫できるような、他では体験できないような「おもてなし」の種類や質を拡大向上させる必要があることは言うまでもありません。

         

         その意味でも、日本の受け入れ態勢には改善の余地が多分にあります。中でも訪日外国人にとって「最大の悩み」とも言われるのが医療の分野でのコミュニケーションでしょう。すなわち、病気や怪我をした場合に、日本の医療機関において必要な意思疎通が十分に行われていないという切実な問題が未解決のままなのです。

         

         人は国籍や人種に関係なく風邪を引いたり、食あたりになったりするわけですから、安心して医療サービスを受けることのできる体制整備は欠かせません。2020年の東京オリンピックの期間中だけで、45万人程度の外国人観光客が日本で医療サービスを受ける事態に直面するとの大手保険会社の予測もあるほどですから。

         

         一方、最近では、日本が誇る最先端の医療技術の恩恵を受けるために、海外の富裕層と言われる人々が相次いで来日するケースも出てきました。いわゆる「メディカル・ツーリズム」です。海外の医療機関で見放されたような重篤な患者が「最後の頼み」として来日するようなケースが少しずつ増えています。日本政策投資銀行の試算では、2020年の医療ツーリズムの市場規模は5500億円に成長する可能性があるようです。

         

         実は、この新たな産業分野では世界の50か国が既にしのぎを削っています。何しろ、その市場規模は全世界で10兆円を超える勢いで急拡大中。特に注目されているのが、医療費の安さや待ち時間の短さ、医療の質的向上の目覚ましいアジア諸国です。

        タイでは140万人、シンガポールでは57万人など、大勢の患者を毎年、受けて入れており、外貨獲得のための国策産業として位置付けられています。

         

         中東のドバイには医療を専門にする経済特区「ヘルスケア・シティ」まで誕生。しかも、法人税や所得税など、あらゆる税を無税とし、外国人雇用の制限もないのです。認定さえ受ければ、外国人医師でも治療に従事できます。

        ですから、日本人の患者には日本人の医師、アメリカ人の患者にはアメリカ人の医師など、自国の医師にお世話になる環境が整えられているわけです。そうなると、言葉や生活習慣の問題も解決されます。

         

         では日本の受け入れ態勢はどうでしょうか。世界一の長寿国であり、健康にいい和食があり、温暖な気候で風光明媚な自然に恵まれ、その上、温泉まであります。その日本が受け入れている外国人の患者数は直近の2年間でたったの300人なのです。信じられないほどの少数です。

         

         こうした状況に活路を見出すべく立ちあがったのが大阪大学医学部の付属病院「国際医療センター」です。この分野の先駆的存在といえるでしょう。2013年4月に新規設立されて日が浅いのですが、内外から患者を引き寄せ、大きな注目を集めています。とはいえ、「最も神経を使うのが言葉の問題だ」といいます。

        通訳を介しての診断、治療の説明、そして手術同意書など重要なインフォームドコンセントなど、十分な理解が得られているのか、常に手探り状態が続くとのこと。

        しかし、現場の経験の共有や海外からの医療従事者の研修受け入れ等を通じて、国際医療のパイオニアを目指していることは注目に値します。

         

         また、わが国では全国で3000人近い医療ボランティアと呼ばれる方々が、さまざまな医療の現場で活動しています。

        例えば、北海道の「エスニコ」と呼ばれるボランティア団体から「MIC神奈川」、「多文化共生センターきょうと」、「伊賀の伝丸(つたまる)」、「みのお外国人医療サポートネット」、「鳥取県国際交流財団」など全国各地の自治体が地元NPOなど市民団体と協力し、市民ボランティアとしての医療通訳従事者の育成に取り組んでいるのです。神奈川県の場合、年間4200件を超える医療通訳を派遣した実績を誇っています。

         

         では、どのような言語の通訳が求められているのでしょうか。神奈川県の場合には、一番需要が多かったのが1579件のスペイン語。次いで1237件の中国語、次が1225件の英語でした。また、387件のポルトガル語や177件のタガログ語など、多言語の通訳が求められているようです。国際的な共通言語は英語ですが、英語の通じない外国人は意外に多いことが、このデータからも読み取れます。多言語通訳の必要性は大きいのです。

         

         しかし、このような医療通訳に対して、神奈川県が支払っている報奨金は1時間で1000円、しかも交通費込みとのこと。専門性の高い仕事であり、人の生命にかかわる大切な役割でありながら、報酬面では極めて厳しい状況といえます。公募を通じて集まってきたボランティアの人達の好意にすがり、ある意味で過酷な仕事を担わせているのが実態といえるかも知れません。身分の保障もなければ、万が一、医師と患者の意思の疎通がうまくいかないことによる問題が生じたときの対応等、国際化する日本の中で医療通訳者の直面する課題は根が深いと思われます。

         

         神奈川県の場合、現在、登録しているボランティア医療通訳の数は180人。全国の約1割の医療通訳者に当たります。要は、これから外国人の数が増えるにつれ、医療通訳者の需要が高まることは避けられないこと。にもかかわらず、1000万人を超えるマーケットに2000人のサービス提供者というのでは、明らかに人材不足です。

         

         

        以下、次号「第84回」に続く!

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

                        

                        

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