世界の最新トレンドとビジネスチャンス
第90回
中国の進める現代版シルクロード「一帯一路」に欠ける防災教育(後編)
浜田和幸
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当然のことながら、今後急成長が期待できる東南アジアや南アジアに対しても、陸のみならず海上輸送路の整備が望まれる。南シナ海での岩礁の埋め立てについても、中国の秘めた狙いである「海洋シーレーンを牛耳ろうとする思惑」が透けて見える。グローバルな輸送市場の急展開を想定し、中国とロシアが連携を図りつつ、インフラ整備や安全保障体制の確立に向けてチームワー
を組み始めていることは注目に値しよう。
東南アジアや南アジア諸国にとっては、中国の軍事的な動きは懸念材料となってはいるものの、中国が得意とする「札束外交」とも揶揄される経済援助や世界最大の人口を抱える市場の潜在的魅力にはあらがうことができない。
軍事的衝突を繰り返したベトナムですら、中国との政治、経済的対話の道を慎重に模索しているのも、そのためであろう。フィリピンのディトルテ大統領がアメリカを見限り、中国との関係強化に舵を切ったのも、「チャイナ・マネー」の威力のなせるワザに他ならない。
互いに国際的な非難を浴びることがあるものの、それゆえにこそ、中国とロシアは、かつてないほど強力に依存関係を深めつつあるわけだ。習主席とプーチン大統領の相互依存関係は資源開発やテロ対策を主眼とする「上海協力機構」に止まらない。
中央アジアのインフラ整備に始まり、エジプトの首都移転計画やアフリカ、中東地域においても同様の動きが進んでいる。サウジとカタールの対立が進んでいるが、両方に食い込もうと中国は水面下で働きかけを強めている模様だ。
また、プーチンは「ロシアと変貌する世界」と題する論文の中で、「中国との連携を軸にシリア情勢、イランや北朝鮮の核問題など、欧米とは一線を画す」姿勢を鮮明に打ち出している。
要は、プーチン大統領は、崩壊した旧ソビエト連邦を自らの手で蘇らせたい、との歴史的野望を秘めているのである。「ソ連崩壊は20世紀最悪の地政学的な悲劇だった」と主張して止まないプーチン。
「ユーラシア同盟」の名の下で旧ソ連の復活を模索している。
「中国の夢」と称して、4000年、時には5000年の歴史を背景に、中華思想を実現しようとする習近平の路線と共通する部分が多いのも当然であろう。
実際、上海協力機構においては、中国とロシアが旧ソ連邦の中央アジア諸国を含め、テロ対策や安全保障の面から地域の安全と発展を進める動きに加え、ユーラシア同盟との連携も視野に入ってきている。
インドやベトナム、モンゴルなども組み込み、合同の軍事演習や資源開発、インフラ整備プロジェクトが相次いで始まりだした。
残念ながら、こうした動きに日本は全くと言っていいほど食い込むことができない。それだけロシアや中国の動きに疎いのが日本なのである。
日本とすれば、世界の力関係の変化を冷静に把握し、アメリカの力も活かしながら、中国やロシアとの関係深化を目指す必要がある。
その際、大切な視点は指導者の人間力を見極めることだ。
強みと弱みはどこか。卑近な例だが、娘思いのプーチンの弱みを見抜き、中国はプーチンの娘を少林寺に招いた。その結果はどうなったか。それまで父親の影響で柔道に励んでいた娘が少林寺拳法に鞍替えしたのである。
一事が万事。外交も国際関係もトップの個人的関心が大きく左右する。
中ロ関係を理解するには、こうした面での情報収集と分析も重要だ。とはいえ、これは決して中ロ関係に限って当てはまることではない。政治やビジネスの現場においても同様で、交渉を有利に展開し成功を勝ち取る上では欠かせない視点であろう。常に相手の関心の向かう先を先回りし、共にウィンウィンの関係となるよう道筋を明らかにすること。短く、パンチある言葉で、時には共通の課題や敵の存在に目を向けさせることも有効な手段となるに違いない。
今日、中国最大の課題は幹部の汚職と富の海外持ち逃げである。拝金主義がまん延し、貧富の格差も広がる一方だ。中央、地方を問わず、党や政府の幹部の地位を悪用したビジネスが横行している。このままでは世界との競争に勝てないどころか、内部崩壊のリスクも高まる。環境汚染も深刻であるが人心荒廃はより深刻なもの。
こうした腐敗や汚職を一掃しなければ、中国の未来はない。習近平はその戦いの最前線に立つ指導者とのイメージを打ち立てようと必死になっている。
メディアを通じて「ミスター・クリーン」のイメージを定着させることに熱心だ。仲睦ましい夫妻像しかり、幼い頃の苦労話や身内に対して、ことさら地位の利用を戒めているとの家族会議の様子もしかりである。
習近平はことあるごとに次のように語っている。「実業の世界に入るか、あるいは官僚の世界に入るか、2つの選択肢がある場合、官僚の世界を選んだ限りは、金儲けなど忘れることだ」。
自らに語りかけているようにも見えるが、実際には、彼自身を取り巻く金銭スキャンダルも多々あるようだ。しかし、メディアコントロールが効いているせいか、今のところ、国民からの信頼と期待をつなぎとめている。
巨大な暴走列車と化している中国を操る習近平の日々の動向に無関心でいるわけにはいかない。習近平の掲げる「中国の夢」、その歴史的着地点を見極めつつ、2018年、平和条約締結40周年を迎える日本と中国の未来図を冷静に描きたいものだ。
その際、日本とすれば、独自の環境関連技術や防災ノウハウを最大限に活用すべきである。
過去20年間に限っても、世界は自然災害によって3000億ドルの経済的損失に見舞われ、135万人の命が失われている。その多くが、中国を含むアジア地域で発生しているのである。
マグニチュード7を超える巨大地震の発生も環太平洋ベルト地帯に集中。
人口当たりの地震と台風・ハリケーンによる被害額の大きさで見れば、ハイチが一番だが、第2位はミャンマーで、第3位がスリランカとなっている。
実は、こうした国々では以前から防災用のインフラ整備には多額の資金が投入されてきた。国際機関や先進国からの援助も受け、橋や道路の整備は進んできたが、目に見えない部分への投資は無視されたまま。このことが被害の拡大に結び付いている。要は、防災や避難に欠かせない日頃の助け合いや災害の予兆に注意を向ける教育や過去の災害から教訓を学ぶといった姿勢が根付いていないのである。このことは中国にも当てはまること。現在、習近平政権が進める「一帯一路計画」の中では道路や橋の建設には熱心だが、防災意識を高めるとか、環境保全につながる教育や助け合いのコミュニティー作りには関心が寄せられていない。この分野こそ、日本の出番であろう。
次号「第91回」もどうぞお楽しみに!
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