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2018/01/05発行
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第94回
朝鮮半島危機の行方を左右する北朝鮮の地下資源利権(後編)
浜田和幸
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2015年4月、北朝鮮のリスユン外相はインドを訪問し、スワラジ外相との間で北朝鮮の地下資源開発と輸出契約の基本合意に達している。インドにとっては、中国と北朝鮮の関係が変化する中、北朝鮮との資源外交を強化しようとの思惑が見え隠れする。
要は、国境紛争やインド洋への影響力を強めつつある中国をけん制するためにも、北朝鮮を懐柔しようとするのがインドの狙いと思われる。
ピョンヤンにあるインドの大使館は北朝鮮の指導幹部に食い込んでいる。
要は、国境紛争やインド洋への影響力を強めつつある中国をけん制するためにも、北朝鮮を懐柔しようとするのがインドの狙いと思われる。
世界各国が北朝鮮の地下資源に関心を寄せていることを若き指導者、金正恩は十分認識している。
なぜなら、権力の座に着くやいなや、「経済と軍事の対等化」宣言を発しているからである。
それまでの軍事最優先の路線から経済発展を同じく最重視する姿勢を打ち出した。
国内の農民に対しても自由度を増す政策を発表。
収穫物の最低3割、場合によっては4割から6割を手元に残すことが認められるようになったという。
工場や商店に対しても収益を上げた額に応じて報奨金を出すことを決定。
生産性の向上を最優先する意向に他ならない。
経済特区の数も当初の25カ所から今や500か所近くに拡大するなど、矢継ぎ早に父親時代を塗り替える政策に邁進している。
その結果、首都ピョンヤンは今では「ピョンハッタン」と呼ばれるほどで、ニューヨークのマンハッタンを模してファッショナブルなブティックやレストランも登場し、携帯電話や自動車の数も急増中。
特に携帯電話の利用者は2016年に360万人を突破し、5年前と比べ3倍超となっている。
韓国銀行の推定では「2016年の実質国内総生産(GDP)は3・9%増加した」という。
20年以上にわたり、国際的な経済制裁を受けていながらである。こうした金正恩体制化での変化を北朝鮮の国民も徐々に感じているはずだ。
こうした現実を見ずして、北朝鮮のミサイルや核開発のみに一喜一憂していたのでは世界の動きから取り残されてしまうだろう。
日本では知られていないが、トランプ政権はニューヨークやジュネーブを舞台に北朝鮮代表と秘密交渉を進めている模様だ。
また、ピョンヤンのスウェーデン大使館はアメリカと北朝鮮の仲介役を果たしている。
アメリカが日本や韓国のために北朝鮮に攻撃を仕掛けるというのは建前に過ぎない。
日本の希望的観測といってもいいだろう。
なぜなら、アメリカにはアメリカの対北朝鮮政策があるからだ。ブッシュ政権以降、オバマ政権まで、日本人としては納得しがたい部分も多かったはず。
その背景には北朝鮮に眠っている地下資源が影響している。
トランプ大統領も表向きの強硬姿勢の裏側で、独自のディールを成立させたいと考えているようだ。
要は、北朝鮮の金王朝の独裁体制を力ずくで崩壊させるよりも、維持させたほうが国益に適うと判断している可能性があるのである。
かつては「北朝鮮にはイラクと違って、めぼしい資源は何もない」とされてきた。
しかし徐々に北朝鮮がレアメタルの宝庫であることが判明。
各国が色めきたつようになった。
レアメタルとは、文字通りレア(希少)な金属のことで、地球上における存在量が絶対的に少なく、かつ産業上においては非常に有用な金属のことを指す。
例えばタングステン。
これは超硬材の切削工具に使われ、軍需産業には欠かせない素材であるが、世界の埋蔵量のほぼ半分が北朝鮮にあるとされる。また、合金に使われるアルミニウムやマグネサイト、潤滑油や電子基盤の材料に使われるモリブデンなども、北朝鮮には大量に眠っているようだ。
それ以外にも、リチウムイオン充電池の電極材料に用いられるコバルトや、超硬材に用いられるチタニウム、更には金、銀などの資源も確認されている。しかも最近では、北朝鮮の西海岸地域には600億バレルもの石油が埋蔵されていることも明らかになった。
もし、北朝鮮の現在の体制が一夜にして崩壊するようなことになれば、中国や韓国、そしてロシアがこれらの地下資源に殺到することは目に見えている。
その前に北朝鮮に眠る地下資源の利権を確保しておこうという動きが、日本以外の6カ国協議参加国で急速に高まってきたのである。たとえ金王朝による独裁体制を維持させることになっても、レアメタルの開発権を確保しようとする戦略にアメリカが傾いてきたということであろう。
北朝鮮の資源をめぐる争奪戦は、既に始まって久しい。
2004年から2011年の間に北朝鮮で合弁事業を開始した世界の企業は350社を超す。
中国以外ではドイツ、イタリア、スイス、エジプト、シンガポール、台湾、香港、タイが積極的であるが、そうした国々よりはるかに先行しているのは、意外にもイギリスである。
イギリスは2001年に北朝鮮と国交を回復し、平壌に大使館を開設。
2006年には、金融監督庁(FSA)が北朝鮮向けの開発投資ファンドに認可を与えたため、イギリス系投資ファンドの多くが動き出した。
具体的には、「アングロ・シノ・キャピタル」社が5000万ドル規模の朝鮮開発投資ファンドを設立し、鉱山開発に名乗りを上げた。
北朝鮮に眠る地下資源の価値は6兆ドルとも見積もられている。そのため、投資家からの関心は非常に高く、瞬く間に1億ドルを超える資金の調達に成功した。
また、イギリスの石油開発会社「アミネックス」社は、北朝鮮政府と石油の独占探査契約を結び、1000万ドルを投資して、西海岸地域の海と陸の両方で油田探査を行う計画を進める。
一方、ロシアは冷戦時代に開発した超深度の掘削技術を武器に、北朝鮮に対し油田の共同探査と採掘を持ちかけている。
この技術は欧米の石油メジャーでも持たない高度なものであり、ベトナムのホーチミン沖で新たな油田が発見されたのも、ロシアの技術協力の賜物である。
2015年4月には、ロシアと北朝鮮は宇宙開発でも合意している。
両国の関係は近年急速に進化しており、ロシアは新たに北朝鮮の鉄道整備のために250億ドルの資金提供を約束している。
北朝鮮から地下資源を運搬するためである。
アメリカからは、超党派の議員団がしばしば平壌を訪問しているが、核開発疑惑が表沙汰になる前の1998年6月には、全米鉱山協会がロックフェラー財団の資金提供を受け、現地調査を行った。その上で、5億ドルを支払い北朝鮮の鉱山の試掘権を入手している。
当面の核問題が決着すれば、すぐにでも試掘を始めたいという。
日本人の大半はそのような動きにはついていけず、発想そのものに抵抗を感じるだろうし、金儲けを最優先する投資ファンドの動きには嫌悪感すら抱くに違いない。
しかし、これが世界の現実である。トランプ大統領の北朝鮮への過激な発言だけに振り回されていては大きなビジネスチャンスを失うことになるだろう。
日本は国際政治経済の動きを冷静にとらえ、北朝鮮に対する戦略を練り直す必要がある。金正恩と韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領がある日、突然手を握る可能性も視野に入れておくべきだ。「想定外」では済まされない。
見た目は大違いだが、金正恩も文在寅も同じ朝鮮族のDNAを引き継いでいることを過小評価するのは危険であろう。
共に反日というミサイルを隠し持っていることも要注意だ。
次号「第95回」もどうぞお楽しみに
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