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2018/01/12発行
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第95回
ビル・ゲイツが進める種子バンクに地球温暖化の危機が迫る
(前編)
浜田和幸
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現代版「ノアの箱舟」と呼ばれる種子バンクが存続の危機に瀕している。日本では馴染みが薄い存在だが、この組織の建設は2007年から始まり、その目的は人類がこれまで手に入れてきたあらゆる農業遺産を保護することを目的としている。
具体的には、あらゆる国の農業にとって不可欠の役割を果たしてきた「種子」を未来のために保存しようというのである。この事業の旗振り役はノルウェー政府で、建設費の600万ユーロ(約10億円)を負担したという。
完成した種子バンクはノルウェーのスピッツベルゲン島にある。正式名称は「あらゆる危機に耐えうるように設計された終末の日に備える北極種子貯蔵庫」という長いもの。運営面で全面的な資金協力を行っているのがビル・アンド・メリンダ・ゲイツ基金である。
言わずと知れた、マイクロソフトの創業者が設立した財団である。世界1の大富豪の座を長年に渡り保っているビル・ゲイツ氏。
税制上の規則があるため、毎年15億ドルをチャリティ事業に使わなくてはならない。
これまでもエイズの撲滅やがんの治療ワクチンの開発等に潤沢な資金を提供してきた。
そうした慈善事業の一環として、種子バンクにも資金面での支援を決めたのである。
そのお陰もあり、この貯蔵庫は2008年2月26日、正式にオープンした。
万が一、核戦争が勃発したり、地球環境の激変で、世界各地から農業用の種子が絶滅したような場合でも、未来の人類は、この種子バンクの種子を使い、農業を再生できるようにするというのが謳い文句であった。
想定通りに行けば、実に心強いプロジェクトのはずであった。
そうした趣旨に賛同し、ゲイツ基金の他にも多くの財団や企業が協力を申し出た。
ロックフェラー財団、シンジェンタ財団、モンサント、CGIAR(国際農業調査コンサルグループ)などが結集し、300万種類の植物の種子が世界中から集められた。
この種子貯蔵庫が建設されたのはスピッツベルゲン島のスバルバルという場所。
北極点から1100キロメートルほどの距離にある。
極寒の地であり、周りには誰も住んでいない。
まさに氷に閉ざされた世界といえよう。
島自体が永久凍土の一部を形成しており、マイナス18度が最適といわれる種子の保存にとっては理想的な環境と目されていた。
たとえ、貯蔵庫内の冷凍システムが故障したような場合でも、永久凍土層に位置するため、気温がマイナス3.5度以上に上がる恐れはない。
しかも、地震の恐れも皆無という。
その上、海抜130メートにあるため、グリーンランドや北極の氷床が溶けても施設が水没するような可能性は限りなくゼロに近い。
そして、地下130メートルに完成した収蔵庫は鋼鉄で補強された厚み1メートルのコンクリート製の壁で覆われている。
かつ4重の装甲・気密扉と電子キーで守られるという厳重さ。
核攻撃を受けても大丈夫といわれるほどの堅固な作りが自慢であった。
そこまで厳重な貯蔵施設は世界でも見当たらないほどだ。
ところが、冒頭に述べたように、この人類の未来の生存に欠かせない「ノアの箱舟」に危機が迫っているのである。
日本では全く関心の対象外となっているようだが、実に由々しい事態といえるだろう。
なぜなら、地球上で最も安全なはずだった場所が、意外にももろいということが発覚したからだ。
完成当時には、アメリカの有力雑誌「タイム」が「人類の歴史において6番目に位置する偉大な発明」と絶賛した種子バンクだった。それが、10年も経たずして、このままでは使い物にならないとの烙印を押され、抜本的な設計の見直しが必要となってしまった。
とても人類の未来を託せる代物ではないことが判明した。ビル・ゲイツ氏はじめ関係者も真っ青であろう。
その原因は何か。
答えは追って詳しく紹介するが、想定外のスピードで進む地球温暖化である。
その結果、頼みの綱であった「永久凍土そのもの」が溶けだしてしまった。
これには関係者一同が茫然自失である。
2018年1月時点で、貯蔵庫の建物は健在ではあるが、周囲の氷が猛烈な勢いで溶け始めており、種子バンクが水没する恐れが現実のものになりつつある。
既に貯蔵庫の入り口近くからは大量の水が浸入し、貴重な数百万種類の種子が台無しになるまで水が迫っている。
以下、次号「第96回」に続く!
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