世界の最新トレンドとビジネスチャンス
第125回
グーグルが目指すのはロボット革命か延命ビジネスか?(後編)
浜田和幸
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────────────────────────── このダルパが、近年、国家予算の半分近くを占める国防資金の中から、特に強力に研究開発を進めているのが、人体改造計画に他ならない。本来の目的は、戦場で致命的な傷を負った兵士の人体の再生技術や、兵士の運動能力や耐久能力を飛躍的に高めるための細胞研究であった。
たとえ戦場で腕や足が失われたとしても、そうした兵士の肉体を速やかに再生するための技術を開発しようというわけだ。はたまた、1週間、2週間にわたり飲まず食わず、睡眠をとらなくとも判断力や決断力に影響を受けないような、人間の意識改革と生命力の強化に細胞研究の成果を応用しようとするものである。
インターネットの開発を成功させた勢いに乗り、ダルパでは無人偵察機「プレデター」の開発も成功させた。現在、ダルパは「新たな人類を創造する」という未知の分野に本格的に取り組み始めている。その背景には、アフガニスタンやイラクの戦場で、多数の米軍兵士が命を落とし、また、身体障害者となって本国に送り返されているという悲惨な現実がある。
確かに、もともと人間は幹細胞をベースに生まれてくるわけで、腕や足などの部分的な人体再生は極めて簡単なことかもしれない。ダルパの専門家たちにとっては、「可能かどうかは問題ではなく、どのようにして、その夢を実現するか」が具体的なテーマとなっているのである。
「失敗しても構わない。失敗を恐れて挑戦しないことが問題だ」。これがダルパの哲学となっている。ダルパで新技術の開発責任者を務めたドゥーガン博士はグーグルを始め民間企業との研究連携にも熱心だった。「自分たちの手にない技術は民間に発注し、できた技術を買い取る」。この割り切り様はアメリカ政府ならではといえよう。ちなみに、ドゥーガン博士はその革命的な発想と指導力を買われ、グーグルに移籍することになった。
毎年開かれるダルパの研究開発展示会には、政府の開発資金で研究が進む「開発途上」の未来技術が紹介される。その中から民間企業や投資家の関心を引くものがあれば、その場で技術移転の契約が結ばれる。こうしたオープンな技術展示会は世界でも類を見ないものだ。ここにも官民の技術交流の可能性にかける自信と期待がうかがえる。
更に興味深い研究がある。このところダルパの研究者たちはイルカやクジラが決して眠らないことに関心を寄せている。というのも、彼らはいずれも人間と同じ哺乳類である。もし彼らが人間と同じように眠る必要があれば、海の中でおぼれてしまうに違いない。彼らが溺死しないのは、たとえ睡眠中であっても、常に覚醒しているからである。
脳の一部は睡眠状態に入っているとしても、他の部分は常に警戒態勢になっているからこそ、クジラもイルカも睡眠中におぼれることがないのである。
彼らは、脳の眠っている部分と起きている部分をスイッチ一つで交換することができるに違いない。こうした哺乳類たちの脳の構造を人間に当てはめることが可能かどうか、その研究が現在進められているわけだ。
近未来の戦争はコンピューターを使った情報心理戦の側面が強くなると考えられる。戦場においても、24時間、常に神経を覚醒させていなければ、敵との戦いに勝てない。そのため、人間の脳の一部だけを睡眠させ、他の部分は常に警戒体制にあるような、いわば「睡眠を必要としない兵士をいかにして生み出すか」が緊急の課題になってくる。
こうした技術をアメリカが世界に先駆けて開発することに成功すれば、兵士の戦い方が今日とは大きく様変わりすることは間違いない。一日24時間、週7日間、一睡もしなくとも戦い続けることのできる兵器が間もなく誕生しようとしているのである。
また、ダルパでは兵士たちが空腹や疲労、恐怖心などを克服するために必要な薬の開発にも取り組んでいる。開発責任者に言わせれば、「映画『スパイダーマン』の主人公を作ろうとしているようなものだ」とのこと。人間のあらゆる細胞をコントロールすることにより、兵士たちにメタボリズムをオリンピックのメダリストのレベルまで引き上げようという考えである。
人間の身体は60兆個といわれる膨大な数の細胞から成り立っている。しかし、元をたどれば、一つ一つの細胞は極めて小さなものに過ぎない。そこで、この一つ一つの細胞のメタボリズムを飛躍的に高めることにより、人間全体の運動能力を強化しようという発想が底辺に流れている。
戦場で多くの兵士が命を失う最大の理由は体力を消耗し、空腹に苛まれ、誤った判断を下してしまうからである。
そのような状況から兵士たちを救うために、ダルパでは少なくとも年間400憶ドルの研究費を、このような兵士の人体改造計画に投入していると言われている。
そこまでいくと、既に人間なのか、ロボットなのか、境界線があいまいになりつつあるようにも思われる。しかし、現実には我々の想像をはるかに超えるスピードで人体のサイボーグ化が進んでいることは間違いなさそうだ。
このようにアメリカでは、官民を挙げて夢を現実のものにしようとする研究が、確実に動き始めている。グーグルの共同創業者の1人であるラリー・ペイジは、ヘッドハンティングをしたカッツウェル博士とともに、2045年を目標に、「人間の頭脳を現在より10億倍強化する計画」を温めている。
言い換えれば、人間の頭脳をビッグデータ化するとともに、人間の肉体や生命を永久化しようとする試みといえよう。人間とマシーンの合体である。これを単なる空想の産物と笑い飛ばすのか、あるいは、科学的なニューベンチャーとして真剣に受け止めるのか。どちらの視点に立つかによって、人類と地球の未来が大きく左右されることになるに違いない。自然との調和を大切に、旬の食材や周囲との絆を長寿の源としてきた日本的なアプローチでは、125歳あたりが限界といわれる。しかし、最新の医学研究や科学技術の恩恵を活かせば、グレイ教授が提唱するような、桁違いの「寿命1000歳」も可能になるかも知れない。
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