2019/10/04発行
世界の最新トレンドとビジネスチャンス
第175回
世界のパワーバランスの変化に食い込む孫正義の投資戦略(後編)
浜田和幸
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孫正義氏は人類とAIとの関係について独自の見方を
持っている。
曰く「世の中にはホワイトカラーとブルーカラーの2種類が存在する。
しかし、今や、第3の新しいカラーが登場してきた。
それは“メタルカラー”だ。彼らはブルーカラーの職を
奪うだけではなく、多くのホワイトカラーの仕事も代替するだろう。
メタルカラーが進化し、自由に動き、働くようになるのは時間の問題だ。
そうなると、人間の仕事とは何かを考え直す必要が出てくる。更に言えば、われわれの人生の意味も捉えなおす必要があるだろう」。
誰もがうっすらとは想像しているが、真剣には向き合おうとしていない課題である。
そんな「目前に迫る問題」に真摯に取り組もうとしているのが孫正義氏である。
彼曰く、「誰もが考えようとしない、避けて通りたいと思うテーマに挑戦したい。
誰も立ち上がらないから、自分にチャンスがある」。
そんな彼の未来予測に耳を傾けてみよう。
「今から30年経てば、スマートロボットの数は100億台に達する。
ちょうどそのころ、人類の数は100億人だろう。
100億の人間が100億のスマートロボットと共生する時代になる」。
そんな社会が目の前に迫っているというのだ。
そうした現状把握と未来展望に立ち、孫正義氏は
「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を運営し、新たな時代に備えようと意気込んでいる。
彼の「合言葉」は「シンギュラリティ」である。
もともと未来研究者のレイ・カッツウェル氏が提唱し始めたコンセプトで、「2040年までに人工知能が人間を凌駕する」というもの。
無人走行車や宇宙ビジネスで新境地を見出そうとする
イーロン・マスク氏は「AIの進化は北朝鮮より大きな脅威だ」と言う。
しかし、孫正義氏は「シンギュラリティの波に乗ることで、新たな時代を切り開く」という発想を温めているようだ。彼は既に2010年の投資家向けセミナーで「AIやロボットは人類の脅威ではなく、人類をより健康で幸せにしてくれるパートナーだ」と述べていた。
実際、ビジョン・ファンドの投資先は「スマートロボットが人間を凌駕するシンギュラリティを前提にしたニュービジネス」を先取りしたものに他ならない。
このところ毎年、500億ドルもの資金をこうした新分野に投入している。その原資はサウジアラビアからの投資もあるが、ゴールドマン・サックス、みずほフィナンシャル・グループ、三井住友銀行、ドイツ銀行など多様化している。
言うまでもなく、今やその投資先は世界中に広がっている。孫氏曰く「もはや国境には意味がない。国境を超えたビジネス展開を追求しなければ、誰かの後塵を拝するだけのこと。情報革命は止まるところがない」。彼がアメリカに限らず、ロシアやインド、そして中国や中東にも頻繁に足を運ぶのは、そのためである。
そして、今、孫氏は中国の習近平国家主席が進める「一帯一路計画」に対して、静かながら、深く係っている。
とはいえ、そのことはほとんど知られていない。中国のエネルギー大手「ステイト・グリッド」と提携し、「グローバル・エネルギー相互開発合作機構」を立上げ、「一帯一路」沿線諸国へのエネルギー供給事業に取り組んでいるのである。太陽光や風力、そして小型原子力発電へと関心は広がる一方だ。
しかも、この事業にはアメリカもロシアも関与させるという念の入れようだ。オバマ政権時代にエネルギー省の長官を務めた中国系アメリカ人のチュー博士やロシア最大のエネルギー企業の代表であるブガルジン氏を巻き込んでいる。このような事業展開は孫正義氏のグローバルネットワークがあって初めて可能となる仕掛けと言えるだろう。
更に、孫正義氏には強力な「破壊力」も備わっている。
彼の率いるビジョン・ファンドは既に228兆ドルの不動産市場、5.9兆ドルのグローバルな交通運輸市場、
25兆ドルの小売業市場にAIとロボットの技術で「創造的破壊」をもたらそうと動き出しているのである。
もちろん、膨大な資金調達には前代未聞のリスクが付きまとう。格付け会社の評価はまちまちだ。
また、最大のスポンサーでもあるサウジアラビアのムハンマド皇太子への懸念材料も払拭されないままである。
しかし、目前の山が高く、険しいほど、孫正義氏の闘志は燃え上がるに違いない。サウジアラビアが直面する国家存亡の危機的状況も、視点を変えれば、石油依存型経済から脱皮する千載一遇のチャンスになる可能性もある。孫氏の脳みそはフル回転しているに違いない。
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