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          第38回

         

         迫りくる水危機と新たなビジネスチャンス(後編)

         

        浜田和幸

         

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         国際連合が呼びかけ「CEOウォーター・マンデート」と呼ばれる世界の経営者を対象にした水問題対策を検討するグループも立ち上げられた。これは国連が掲げる水問題への解決策を企業経営者の立場から支援しようとする組織に他ならない。

        世界の大手企業の経営者たちが地球上の限られた資源を有効に活用し、水問題に対しても積極的に解決策を見出そうとする動きに他ならない。

         

         こうした国連の呼びかけに応じている世界のCEOたちの間では「水こそ企業の生存に欠かせないテーマであり、この問題をないがしろにしては企業の存続もあり得ない。

        地域社会や地球共同体の中で生存する企業である限り、この水問題をいかにして克服するかは最重要の課題である」との認識が広まってきている。

         

         オランダのAPGにおいて、環境サステナビリティーの責任者を務めるボブ・レイク氏曰く「各国の企業が水の地産地消にギアを切り替える必要がある。

        外国の水を輸入したり、海外の水源地をお金の力で独占するような動きは大きなしっぺ返しをもたらすだろう」。

         

         

         

         日本企業も世界市場で生き残っていくためには、こうした国際機関の水問題に対する厳しい姿勢に応える企業戦略を早急に立ち上げる必要があるだろう。

        言うまでもなく、世界の人口のほぼ20%は水不足に直面しており、安心して飲める水へのアクセスが容易ならざる状況の下で暮らしている。

         

         世界保健機構によれば、世界で蔓延する病気の80%は不衛生な水および衛生状態の悪い生活環境に原因があるとのこと。毎年160万人もの子供たちの命がこうした非衛生的な水周りが原因で失われている。言い換えれば、今この瞬間も、15秒に1人の割合で汚染水が原因で子供の命が失われているのである。

         

         2002年に国際連合では「ミレミアム開発計画」を発表した。これは2015年までに安全な水と衛生的な住環境を奪われている人々の数を半分にしようと言う計画であった。

        残念ながら、この目標は達成されたとは言い難い。

        アジア開発銀行でも「衛生問題を放置することは長い目でみればより深刻な経済危機をもたらすだけである」と指摘し、水問題への支援を講じているが、焼け石に水の状況である。

         

         とはいえ、こうした途上国における水問題を解決する上で最も効果的と思われる方法が、実は先進国の消費者がペットボトル水から水道水に飲み水を変えるだけで生まれることに気づかねばならない。

         

         なぜなら、世界の貧しい国々に対し、安全な水や衛生環境を整えるために必要な資金は年間95億ドルで足りると言われているからだ。

        この金額は我々先進国の消費者がペットボトル水を買うために使っている金額の3分の1にしか過ぎないのである。

         

        ペットボトル水に費やすお金の3分の1を世界の水に苦しむ人々のために回すことができれば、国連の目標は確実に実現できたはずである。

        それどころか2025年までには全ての人々に衛生的なトイレを

        供給することも可能になる。

         

         要は水問題や衛生環境問題の解決にとって政治的判断も必要ではあるが、消費者の意識を変えることも極めて重要と言うことだ。

        ペットボトル水の製造販売企業にとっては決して好ましい提案とは映らないだろうが、長い目でみれば、途上国の経済的な発展や安定が確保されることは望ましいシナリオと言えよう。

         

         第一こうしたペットボトル水の企業にとって、頼みの綱である水源地を確保することは年々難しくなってきている現状がある。

        そのため、企業によってばらつきはあるものの、ペットボトル水の25%から40%は水道水を使っている模様だ。そのうえ、使用済みのプラスチックのペットボトルの回収率は全世界的にみれば

        20%に達していない。

        アメリカだけをとってみれば、ペットボトル水のプラスチックを製造するために毎年1700万バレルもの石油を燃やしているのである。我々日本人も意識改革が求められよう。

         

         これほどまでに水不足が深刻化すれば、人間にとって欠かせない水の確保も危うい状態が起こりかねない。

         

         そうした背景もあり、アメリカでは家庭で簡単にできる水の再利用運動が提唱されるようになっている。

        これはいわゆるエコロジー運動の一環として実践され始めているのだが、家庭の台所や洗濯そしてシャワーなどで使った水を植木や家庭菜園に再利用しようとする運動である。

         

         

         アメリカの全国干ばつ監視センターによれば、「過去10年間毎年の如く大規模な干ばつがアメリカ各地を襲っている」という。

        そのため、グレーウォーターと呼ばれる一度使用した水を再利用する方法が真剣に検討されるようになったのである。

        もちろん再利用するためには使用する洗剤やシャンプーを天然由来のものにしなければならないことは言うまでもない。

         

         こうした運動を進めているオアシス・デザインの創業者アート・ルドウィック氏に言わせれば「自然に優しいエコロジカルなライフスタイルが最も経済的だ」とのこと。水不足に悩むカリフォルニア州などでは住民のために簡単に水の再利用ができるマニュアルを作り、希望者に配布している。

        一度使った水でも効果的に利用できるようにすれば、家庭菜園にとどまらず、農業生産にも役立てることが可能になる。

        すでにカリフォルニア州だけで170万軒の家庭でこうした家庭排水の再利用システムが導入され始めている。アメリカ全体でみれば、800万の家庭で利用が進んでいるという。

         

         こうした家庭から出る排水を使えば、果物や花の栽培には全く支障がないとのこと。

        とはいえ、これまではニンジンやレタスなど直接食する野菜にとっては化学物質が悪影響を及ぼすとみなされ、家庭排水の再利用は認められていなかった。

        しかし、最近、家庭で使う石鹸やシャンプーなどに有機素材のみを使ったものが広まるようになった結果、簡単な浄化システムを家庭に設置するだけで排水を再利用する道が大きく開かれてきたのである。

         すでにアメリカでは一般家庭の水の使用量が30%近くも減少するまでになってきた。

         

        こうした各家庭の小さな試みが国全体の水の再利用、有効活用に役立つのである。

        アメリカでは国を上げて水の管理と有効利用に取り組む姿勢を明らかにしつつある。企業にもそうした対応が求められるようになった。日本としても大いに参考にすべき前例と言えそうだ。

         

         

         

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        著者:浜田和幸

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