第41回
習近平とプーチンの共通点:日本の取るべき進路(前編)
浜田和幸
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今日の国際社会において圧倒的な影響力を発揮しているのは
レームダック化したアメリカのオバマ大統領でも、難民問題で苦境に立つドイツのメルケル首相でもない。
政治、経済、軍事といった国力の総和とそれらを最大限に活かした「世界を手玉に取る」演出力という点で評価すれば、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が双璧であろう。
年齢も2人とも60代半ばで、ほぼ同年だ。
また、自らの努力と才覚で党、政府、軍をほぼ完璧に支配している点も共通している。
国内的には両国とも経済格差やエネルギー、環境、人権問題などさまざまな課題を抱えているものの、国民からは表向き絶大な支持を保持している。
共に選挙で政権の座を追われるような心配もなく、有権者の歓心を買う必要もない。
それゆえ、長期的な国家運営が可能だ。
対外的にも硬軟織り交ぜた巧みな交渉力を武器に、ロシアはイスラム国(IS)の台頭という「危機」を逆手に取り、テロとの戦いで主導権を握るなど、動きの遅い欧米を尻目に自国に有利な立場を拡大させつつある。
また、30年余りの改革開放による急成長の結果、GDPで世界第2の経済大国となった中国。
習近平主席の肝いりで「アジア・インフラ投資銀行(AIIB)」等を立ち上げ、新興国を中心にインフラ整備に力を入れ、グローバルなスケールでの「仲間作り」に成果を上げ、存在感はゆるぎないものになっている。
AIIBに関しては透明性が課題だとの批判もあるが、確実に加盟国が増えており、日米が主導するアジア開発銀行(ADB)を上回る勢いだ。
欧米諸国から人権問題に絡んでの批判を受けても、習近平は「どこ吹く風」と言わんばかりで、ユーモアたっぷりに切り返す。
曰く「靴が合っているかどうかは、靴を履いている本人しか分からない」。
厳しい批判にも、中国式の知恵を絡めた自信と迫力で対応する。
オバマ大統領もタジタジとなる場面が多々見受けられるほどだ。
このロシアと中国が最近、多方面にわたり協力関係を強化しつつある。例えば、習近平は2013年、モスクワ大学の講演で次のように述べている。
「中ロ関係は世界で最も重要な2国関係であり、しかも最も良好な大国関係である。
双方の20年以上の絶えまない努力によって両国は全面的な戦略
協力パートナーシップを築いてきた。
歴史が残した国境問題を徹底的に解決し、中ロ善隣友好協力条約に調印し、長期的な発展に強固な基礎を固めた。
中ロ関係は終始、中国外交の優先方向である」。
これ以上ないと思えるような中ロ関係礼賛の言葉のオンパレードだった。
プーチン大統領も「ロシアは繁栄かつ安定した中国を必要としている。
一方、中国も強大かつ成功したロシアを必要としている」と阿吽の呼吸で応えている。
更に、プーチン曰く「中国の声は世界に響き渡っている。
我々はそれを歓迎する。
なぜなら、平等な国際社会を作るという視点を共有しているからだ」。
しかも、注目すべきは、その協力のあり方をアピールする際に、共通の敵としての「日本」を持ち出すという「歴史カード」を切っていることである。
何かと言えば、抗日戦争における旧ソ連のパイロット、クリシェンコ氏のことだ。
日本では無名の存在だが、彼は中国軍兵士と共に戦い、戦死した軍人に他ならない。
彼の残した言葉を今更の如く繰り返すのである。
曰く「私はわが国の災禍を体験するかのように、中国の働く人々が今被っている災難を体験している」。
習近平はこのロシア人パイロットのことを「中国人は英雄として忘れていない」と持ち上げる。
その上で、「中国人の親子が半世紀にわたり彼の墓を守り続けている」と紹介しているのである。
こうした中ロの政治的蜜月関係や国民レベルでの交流は安全保障の分野にも広がりを見せている。
2015年に入ると、地中海はもとより、ウラジオストック周辺の日本海においても、中国とロシアの共同軍事演習の機会が増えているからだ。その背景には、この2人の指導者の強い軍事力信奉傾向と、アメリカ主導の戦後体制に挑戦し、新たな政治、経済の仕組みを形成しようとする強い意志が隠されている。
そのため、特に中国は日本やアメリカが主たる出資者となって誕生させたアジア開発銀行(ADB)や、戦後世界の金融体制を形成してきた世界銀行や国際通貨基金(IMF)に代わる、アジア・インフラ投資銀行(AIIB)の影響力拡大に余念がない。
加えて、陸や海のシルクロード計画にも着手、はたまた「サイバー空間におけるシルクロード」計画も提唱しているほどである。
これらも「シルクロード」という歴史的遺産に新たな価値を吹き込もうとする中国的なアプローチに他ならない。
他方、ロシアは「ユーラシア同盟」を提唱し、ロシアの極東やシベリア方面の開発に、中国も巻き込み、海外からかつてない規模での投資も呼び込もうと躍起になっている。
プーチンは「ロシア極東は協力したい人々にすべて開放する」と語気を強める。
実はロシアの極東地域は中国との国境線地帯を中心に石油、天然ガス、石炭、木材が豊富に眠っている地域である。
また、ロシアの漁業資源の7割を占めているわけで、まさに「資源の宝庫」そのものである。
但し、それだけ資源には恵まれているが、開発に従事する人がいないのが悩ましいところであろう。
何しろ、極東地域の人口はロシア全体の5%以下で、常に労働力が不足している。
国内の他の地域からも優遇策で労働力を確保しようと工夫をしているが、思うような成果は得られていない。
そのため、中国、モンゴル、韓国、北朝鮮といった国々にも働きかけを強め、労働力の確保に必死で取り組んでいるわけだ。
人や物資の移動に欠かせないのが鉄道や高速道路である。ロシアはヨーロッパ方面とシベリア極東を結び、更に南北朝鮮縦断鉄道やサハリン経由で北海道を結ぶ国際輸送回廊計画を提唱中である。
今後20年で世界の物流風景は中ロを軸に大きく変貌を遂げるに違いない。
中国の推進する「新シルクロード構想」はその発想を具現化するもの。
当然のことながら、今後急成長が期待できる東南アジアや南アジアに対しても、陸のみならず海上輸送路の整備が望まれる。南シナ海での岩礁の埋め立てについても、中国の海洋シーレーンを牛耳ろうとする思惑が透けて見える。グローバルな輸送市場の急展開を想定し、中国とロシアが連携を図りつつ、インフラ整備や安全保障体制の確立に向けてチームワークを組み始めていることは注目に値しよう。
東南アジアや南アジア諸国にとっては、中国の軍事的な動きは懸念材料となってはいるものの、中国が得意とする「札束外交」とも揶揄される経済援助や世界最大の人口を抱える市場の潜在的魅力にはあらがうことができない。軍事的衝突を繰り返したベトナムですら、中国との政治、経済的対話の道を慎重に模索しているのも、そのためであろう。
以下、次号「第42回」(11月11日発行)に続く!
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