第43回
日本の目指すべきエネルギー開発の道:なぜベトナムは日本の原発を拒否したのか(前編)
浜田和幸
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アメリカではドナルド・トランプ新大統領の誕生が決まった。
想定外という声も聞かれるが、ホワイトハウスをクリントン家とブッシュ家でたらい回しするような政治に対する国民からの「NO!」が突き付けられただけの話である。
アメリカの主要メディアはこぞってヒラリー・クリントンを支持していたが、これこそ驚きだ。
有権者の意識を全く理解していないわけで、かつて「第4の権力」とまで言われたアメリカのメディアの終焉を印象付けたものである。
何しろ、アメリカの平均的家庭の収入は2000年から低下する一方で、4000ドル以上も減少している。輸出産業の凋落ぶりはすさまじく、年間8000億ドルもの貿易赤字を記録。
国家財政も火の車で、オバマ政権の下で財政赤字は倍に膨らみ、今や19兆ドルを超えてしまった。
医療保険を賄うオバマケアーと言っても、財源の当てがなければ制度破たんは避けられないだろう。
いわゆる1%のスーパーリッチと99%の貧困層という前代未聞の格差社会となったアメリカ。2010年以降、アメリカのGDPがもたらす利益の97%は社会の最上層に位置する1%の超富裕層のみを潤すようになった。
こうした社会の不公平感は犯罪を助長しているに違いない。
見捨てられたに等しい大多数の国民の怒りがヒラリーに向けられたわけだ。
なぜならワシントンの支配層の象徴的存在がヒラリーだったからである。
本来、ヒラリーに投票すると見られていたラテン系アメリカ人(通称ヒスパニック)や白人女性が棄権する道を選択してしまった。
これからトランプ大統領の下で、アメリカは経済再生を果たすことができるのだろうか。
そのカギを握るのは、中国を含むアジア・太平洋地域との信頼関係にあるだろう。
「アメリカ第一主義」を掲げたトランプ氏だが、アメリカ経済は日本経済と同様、急成長を遂げるアジアとの連携なくしては維持できないはずだ。
大統領選挙期間中、トランプ候補はTPP(環太平洋経済連携協定)については反対の意向を明らかにし、「自分が大統領に就任した当日、TPP交渉から離脱宣言をする」と述べていた。
アメリカ抜きのTPPでは他の交渉参加国も「話が違う」とばかり、交渉離脱に動く可能性は「無きにしも非ず」といえよう。
少なくとも、不透明感の増すTPPに固執せず、新たな地域間の経済連携の道を探る動きが活発化するに違いない。
オーストラリアやニュージーランドでは、既にそうした予兆が見られる。
実は、このTPPの交渉で大きな経済的、また通商上の利益を確保しようと動いてきた国の一つがベトナムである。
日本では注目されていないが、ロシアなどはベトナムに自動車工場を建設し、ベトナムからアメリカに自動車を無税で輸出する計画を進めていたほどだ。
それ以外にも、ベトナムは海外からの投資の受入れを加速させているが、その謳い文句は「ベトナムから世界に輸出を」というもの。
現在、ベトナムは人口が1億人に近づき、国内市場も急速に成長を遂げている。
ASEAN諸国の中では、タイやマレーシアを抜く勢いで、市場の活性化と国際化が進んでいる、そのため、外国からの投資や技術移転も順調に推移してきた。
正にTPPは、その流れを一層加速するものとして、ベトナム政府としてはTPPに極めて積極的な姿勢でかかわってきたものだ。
しかしTPPは今後2年以内に交渉参加国の国内総生産(GDP)合計の85%を占める6か国以上が協定を承認しなければ、発効しないという決まりになっている。
最大の経済力を誇り、GDP合計の60%を占め、交渉を先導してきたアメリカが本当にこの協定を批准するかどうかは、トランプ大統領の誕生によって難しい事態に立ち至ったことになる。
そんな中、これまで交渉に前向だったベトナム政府が、アメリカの動きを察知してか、突然の如く、TPPの問題点を指摘するようになり、「現状のままではベトナムにとって必ずしも望ましい協定とは言えない」「見直しも必要だ」「国内の法的整備が間に合わない」といった慎重論が急浮上するようになってきた。
その最大の懸念材料は、海外企業が進出先の政府を訴えることができるというISD条項にある。
この条項に関する懸念については、筆者も以前から指摘してきたことだ。
日本では、残念ながら、TPP協定の交渉経緯や合意文書の中身が公表されていない部分もあり、その全貌が明らかになっていない。そんな中で、国会での討論が進められたわけだが、政府提出の文書が「秘密交渉」を理由に黒塗りだらけでは、まともな議論は期待できなかった。
ところが、ベトナムにおいては、このISD条項が悪用された場合への予防策が講じられていないことへの不信感が高まってきた。例えば、海外企業がベトナム国内で想定していた利益が確保されなかった場合に、ベトナム政府の規制緩和が不十分であるという理由で、その補償を政府に請求できるなどというのは問題だ。
それを可能にするようなISD条項をこのまま認めてしまえば大変な経済的損失を被ることになる。
そうした危険性が明らかにされ、「現状のままでは受け入れるべきではない」という議論が急速に浮上してきたのである。
その急先鋒に立っているのが、ベトナム商業産業会議所(VCCI)に他ならない。
現在、ベトナムは経済成長を維持するために、インフラ整備や環境に配慮した社会基盤造りに積極的に向き合おうとしている。
これまで、日本からのODAを通じた、空港や橋梁の建設事業が進められてきたベトナムである。
以下、次号「第44回」(11月25日発行)に続く!
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