第57回
水と空気に秘められたパワーを活かした最新技術(前編)
浜田和幸
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農業にとっても、人体にとっても水は最も重要な要素である。
ところが、近年、世界的な水不足が深刻な問題をもたらし始めてい
る。2008年の住宅バブル崩壊を予測したアメリカの経済学者マイケル・ベリー氏は自らが15年に渡って水問題を調査してきた結果を踏まえ、「水戦争は避けられない」と断言する。
実際、水源を巡る紛争や対立は激化する一方だ。「世界資源研究所」の報告によれば、「2025年までに、世界人口の3分の2は水不足の生活を余儀なくされるようになる」とのこと。
特に、アメリカ、中東、中国が世界3大水危機地域になりそうだ。
アメリカの場合は、意外にも水道水の汚染が深刻化している。
また、隣国カナダとの間で水を巡る対立が激化する一途だ。中国も河川の汚染は世界最悪といわれるほどで、奇形児の発生率は世界1といわれる。
一方、テロ事件が相次ぎ、戦火の収まらないシリア情勢だが、元をたどれば水の争奪戦が引き金であった。
しかし、「ピンチはチャンス」との発想でこの水不足を新たなビジネスと受け止め、技術の力で乗り越えようとする動きも各地で見られるようになってきた。
国連や世界銀行でも水問題の深刻さを訴えると同時に対策に向けての資金提供を開始。もちろん、民間サイドにおける研究開発や商品化の動きも活発化している。
例えば、既に2008年の時点で、オランダで開かれた科学技術サミットにおいてオランダ人の発明家ピーター・ホッフ氏は「ウォーター・ボックス」と銘打った新商品を展示し、栄えあるベーター・ドラゴン賞を獲得した。
欧州を代表する電機機器メーカーであるフィリップスのCEOジェラルド・プレイステーリー氏から「最も将来が期待される革命的な発明」と認定する賞状と賞金を受け取ったものだ。
その後、この新商品は「グロアシス」という名称で知られるようになった。このアクアプロ社製商品は砂漠地帯において木を育てる上で欠かせない技術になるとの期待が高まっている。
すでにサハラ砂漠での実験を通じて、その性能が立証されつつあるからだ。砂地とか岩場という劣悪な環境のもとでも、この装置を使えば大気中から必要な水分を吸収し貯蔵することで、そのボックスに植えられた木が大きく育つようになる。
この発明品の特徴は夜間、水蒸気を吸収し箱の中に貯めておくことができること。もちろん、雨が降れば、その水を貯めておき、必要な水分を埋め込まれた木に与えることができる。
しかも、強い太陽光線や風、あるいは雑草、害虫などから樹木の根を完全に保護してくれる。
1年間そうしたウォーター・ボックスの中で育てられた苗木は、その後、ウォーター・ボックスを取り除かれた後も自力で逞しく成長できるようになる。
サハラ砂漠での実験では、2つのグループに分かれて、この技術の有効性が試された。1つのグループはこのウォーター・ボックスを利用し、もう1つのグループは自然のままに放置され、毎日人が水を与えるという条件に置かれた。その結果、3か月ほど経った時点で2つのグループの成育状況を比べたところ、ウォーター・ボックスに植えられた木は90%以上が順調に育ち、緑の葉を増やしていた。極めて強い太陽の下に置かれていたにも関わらず、すくすくと育っていたのである。
もう1つのグループは毎日水を与えたにも拘わらず、残念ながら90%以上が枯れ果ててしまった。発明者のホッフ氏に言わせると「このウォーター・ボックスを使えば、そして植えるべき樹木の種類を選べば、地球上の砂漠を緑地に変え農地に生まれ変わらせることも可能になるだろう」とのこと。
しかも強気のホッフ氏は「このウォーター・ボックスを使い
20億ヘクタールの森林を育てることができれば、現在人類が放出しているCO2を全て吸収することも可能になる」とまで豪語する。地球温暖化対策にも役立つというわけだ。
「人類が過去2000年の間に伐採してしまった森林を自然の力を利用して取り戻すことが夢だ」と熱く語る。
実は、似たような技術はカナダの発明家も既に商品化している。カナダの「エレメント・フォー」という会社は家庭用の造水機を開発し、すでに市場に投入済みである。
この造水機の特色はやはり空気中の水蒸気を吸収し浄化した後に飲み水として利用することを可能にしたものである。
「ウォーター・ミル」と呼ばれる造水機で、使用する電力は極めて少ない。
一般家庭の壁に装着し、空気中からフィルターを通して不純物を取り除いた後に水を製造する。
最近流行しているインフルエンザなどの病原菌もマイクロ波を照射することで殺菌除去する機能も付いているため、単に水を空気から絞り出すだけではなく、大気中に含まれる雑菌や細菌も除去してくれるというので人気が出ている。
以下、次号「第58回」(3月17日発行)に続く!
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