第64回
中国の進める現代版シルクロード戦略
「一帯一路」サミットの行方(後編)
浜田和幸
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東南アジアや南アジア諸国にとっては、中国の軍事的な動きは 懸念材料となってはいるものの、中国が得意とする「札束外交」とも揶揄される経済援助や世界最大の人口を抱える市場の潜在的魅力にはあらがうことができない。
軍事的衝突を繰り返したベトナムですら、中国との政治、経済的対話の道を慎重に模索しているのも、そのためであろう。フィリピンのディトルテ大統領がアメリカを見限り、中国との関係強化に舵を切ったのも、チャイナ・マネーの威力のなせるワザに他ならない。
互いに国際的な非難を浴びることがあるものの、それゆえにこそ、中国とロシアは、かつてないほど強力に依存関係を深めつつあるわけだ。
習主席とプーチン大統領の相互依存関係は資源開発やテロ対策を主眼とする「上海協力機構」に止まらない。
中央アジアのインフラ整備に始まり、エジプトの首都移転計画やアフリカ、中東地域においても同様の動きが進んでいる。
プーチンは「ロシアと変貌する世界」と題する論文の中で、「中国との連携を軸にシリア情勢、イランや北朝鮮の核問題など、欧米とは一線を画す」姿勢を鮮明に打ち出している。
要は、プーチン大統領は、崩壊した旧ソビエト連邦を自らの手で蘇らせたい、との歴史的野望を秘めているのである。
「ソ連崩壊は20世紀最悪の地政学的な悲劇だった」と主張して
止まないプーチン。
「ユーラシア同盟」の名の下で旧ソ連の復活を模索している。
「中国の夢」と称して、4000年、時には5000年の歴史を背景に、中華思想を実現しようとする習近平の路線と共通する部分が多いのも当然であろう。
実際、上海協力機構においては、中国とロシアが旧ソ連邦の中央アジア諸国を含め、テロ対策や安全保障の面から地域の安全と発展を進める動きに加え、ユーラシア同盟との連携も視野に入ってきている。
インドやベトナム、モンゴルなども組み込み、合同の軍事演習や
資源開発、インフラ整備プロジェクトが相次いで始まりだした。
残念ながら、こうした動きに日本は全くと言っていいほど食い込むことができない状態が続いている。
それだけロシアや中国の動きに疎いのが日本なのである。
日本とすれば、世界の力関係の変化を冷静に把握し、アメリカの力を活かしながら、中国やロシアとの関係進化を目指す必要がある。その際、大切な視点は指導者の人間力を見極めることだ。
強みと弱みはどこか。卑近な例だが、娘思いのプーチンの弱みを見抜き、中国はプーチンの娘を少林寺に招いた。
その結果はどうなったか。それまで父親の影響で柔道に励んでいた娘が少林寺拳法に鞍替えしたのである。
最近の事例でいえば、トランプ大統領ですら、娘のイバンカに中国とのビジネスを進めさせると同時に、孫娘には中国語を学ばせ、習近平夫妻の前では中国語の歌を歌わせ、首脳会談の場を和ませていた。トランプ大統領の2人の息子たちは中国大陸や台湾での不動産開発に邁進中だ。
また、娘婿で大統領の補佐官を務めるクシュナー氏は中国の大手保険会社との緊密な関係を築いている。
一事が万事。外交も国際関係もトップの個人的関心が大きく左右する。米中、中ロ関係を理解するには、こうした面での情報収集と分析も重要だ。とはいえ、これは決して外交関係に限って当てはまることではない。政治やビジネスの現場においても同様で、交渉を有利に展開し成功を勝ち取る上では欠かせない視点であろう。
常に相手の関心の向かう先を先回りし、共にウィンウィンの関係となるよう道筋を明らかにすること。
短く、パンチある言葉で、時には共通の課題や敵の存在に目を向けさせることも有効な手段となるに違いない。
今日、中国最大の課題は幹部の汚職と富の海外持ち逃げである。拝金主義がまん延し、貧富の格差も広がる一方だ。
中央、地方を問わず、党や政府の幹部の地位を悪用したビジネスが横行している。
このままでは世界との競争に勝てないどころか、内部崩壊のリスクも高まる一方であろう。
環境汚染も深刻であるが人心荒廃はより深刻なもの。
こうした腐敗や汚職を一掃しなければ、中国の未来はない。習近平はその戦いの最前線に立つ指導者とのイメージを打ち立てようと必死になっている。
メディアを通じて「ミスター・クリーン」のイメージを定着させることに熱心だ。
仲睦ましい夫妻像しかり、幼い頃の苦労話や身内に対して、ことさら地位の利用を戒めているとの家族会議の様子もしかりである。
確かに、習近平はことあるごとに次のように語っている。「実業の世界に入るか、あるいは官僚の世界に入るか、2つの選択肢がある場合、官僚の世界を選んだ限りは、金儲けなど忘れることだ」。自らに語りかけているようにも見えるが、実際には、彼自身を取り巻く金銭スキャンダルも多々あるようだ。
しかし、メディアコントロールが効いているせいか、今のところ、国民からの信頼と期待をつなぎとめている。
巨大な暴走列車と化している中国を操る習近平の日々の動向に
無関心でいるわけにはいかない。習近平の掲げる「中国の夢」、
その歴史的着地点を見極めつつ、今年国交正常化45周年を迎える日本と中国の未来図を冷静に描きたいものだ。
加えて、ロシアとの間で北方領土問題を解決し、経済面の共同合作を進めたい安倍政権である。
プーチン大統領とはすでに20回近くも首脳会談を重ねてきた。
しかし、これと言った成果は得られないままだ。
その意味でも、安倍総理の顔が見られないのは残念だが、アジアの指導者が一堂に会する「一帯一路」サミットの結果に注目したい。
次号「第65回」(5月19日発行)もどうぞお楽しみに!
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