第69回
日本の未来を開く科学技術イノベーション戦略:米中に勝てるか(前編)
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───────────────────────── わが国は世界最高レベルの知的財産立国を目指す方針を打ち出している。
その実現のため、年間4兆円を超える科学技術関連予算を投入してきた。
これまで長年に渡り、科学技術をベースにしたものづくり大国として国内の雇用を創出し、海外市場において「メイド・イン・ジャパン」の評価を高めてきた日本であるが、今後はそうしたものづくりのベースの上にソフトパワーを加える時代に突入したといえるだろう。
例えば、iPS細胞の医療への応用には大きな期待が寄せられている。これも科学技術イノベーション戦略の成果といえよう。
とはいえ、課題も多い。グローバル化が進む中、日本企業の国際競争力が低下することは由々しい事態である。
成長産業に欠かせない技術の流出を防ぎ、模造品対策を強化するためにも、特許として守るべき技術やアイディアは日本国内の権利化だけでは不十分となっている。
確かに、わが国企業による国際特許出願件数は増加傾向にはある。
しかし、欧米企業と比較すれば、見劣りするばかりだ。なぜなら、自国に出願している特許の内、海外にも出願している比率で見れば、アメリカが53%で、ヨーロッパが47%であるのに対し、日本は29%に留まっているからだ。
しかも、中国や韓国の特許出願数は急増しており、特に、中国はアメリカを抜き去り、2011年には特許出願数で世界1となった。2012年には世界シェアーの4割を占め、その後、今日に到るも、その勢いは止まるところがない。
最近、中国が世界を驚かせたのは、環境技術である。黄砂やPM2.5などによる環境汚染が深刻化している中国。
大気、水源、土壌の汚染が進み、健康被害が広範に報道されるようになった。
政府の環境保護局の報告書によれば、北京だけで毎年100万人もの奇形児が生まれているとのこと。
こうした状況に対して、環境浄化の技術開発が焦眉の急となっている。
汚染大国の汚名を返上すべく、習近平国家主席の大号令の下、環境改善に向けての取り組みが加速。
そこで登場したのがスモッグ吸引装置である。
公害の深刻な地域に実験的に導入が始まった。
巨大な空気清浄機といえるだろう。
注目すべきは、石炭工場や自動車から排出されるガスを浄化するのみならず、集めた汚染物質からダイヤモンドを製造するという関連技術に道筋をつけたことである。
確かに石炭もダイヤモンドも基本元素は同じである。商業化はこれからだろうが、いち早く特許申請がされた模様だ。
また、同じ技術を応用し、自転車を走らせることで、汚染された大気を浄化させる装置も発明されたという。
名付けて「大気浄化自転車」。「必要は発明の母」というが、環境汚染というピンチを逆手に取り、新たな環境浄化技術の発明、開発につなげているのが、最近の中国である。
そうした背景もあり、意匠登録出願件数でいえば、中国は世界1の66万件と圧倒的である。
韓国ですら6万5000件であるのに対し、日本は3万2000件に過ぎず、欧米のみならず、アジアの新興国の後塵を拝する状況に甘んじている。
また、商標登録出願件数でも、中国は140万件とダントツで、日本は10万件に過ぎず、中国の10分の1にも及ばない。
では、どこに問題があるのであろうか。
わが国の知的財産を保護するという観点からいえば、現場の特許庁に働く審査官の数は諸外国と比べて少ないことも一因と思われる。具体的に言えば、わが国の審査官の数は約1700人である。
対して、アメリカは約7800人、中国においても約5700人となっており、特許に関する早期審査体制を確立し、わが国の知的財産を守っていくためには必要な専門家の増強が焦眉の急といえるだろう。
また、これだけ少ない人数で膨大な量の特許審査を行おうとすれば、どうしても無理が生じる可能性が高くなる。
実際、特許が付与された後の異議申立ての現状を見ると驚かされてしまう。
というのは、7割以上の特許が異議申立てにより訂正や取り消しが行われているからである。
2003年次の審査結果に基づく特許制度小委員会の報告書によれば、異議申立て件数が3055件出され、そのうち特許が維持されたものは671件に過ぎなかった。
実は、現在においても、瑕疵のある特許権が高い割合で存在することが指摘されており、この問題を改善するためにも有能な審査官の増員が欠かせないと思われる。
この問題を改善するため、特許法を一部改正する法案が国会での審議を経て成立したところである。
これにより、特許異議の申し立てについても、簡易で迅速な手続きを通じて関係者の調整を図れるような仕組みが新たに加えられることになった。
とはいえ、いくら優秀な人材を配置したとしても、7割以上が覆ってしまうという現状を鑑みれば、今後は人間の能力を補うという意味でデジタル情報の活用が必要になるのではなかろうか。
要するに、特許申請に関する情報をデジタル化することにより
特許の独自性がどこまで確認できるかをスピーディーに判断できるような仕掛けを加える必要があることは火を見るより明らかだ。
こうした対策を講じることで、これまで以上に知的財産立国の名前に恥じない体制が確立するに違いない。
現在も類似の特許案件について、検索できるシステムの構築や特許情報全体をデータベース化する試みも重ねられてきているが、全体的なシステムとして諸々の課題に対応できる水準にまでなっていない。
その一方で、意匠とか商標の世界においては、新たな動きが見られるようになってきた。例えば、「色彩」とか「音」といった新しい種類の商標を保護の対象にしようという動きである。
近年、デジタル技術が格段に進化を遂げ、商品やサービスの販売戦略も多様化が著しい。そのため、企業も自らのアイディアやサービスのブランド化に際し、文字や図形といった従来型の商標に囚われず、これまで試みられなかった「動き」や「輪郭のない色彩」、そして「音」や「位置」という非伝統的商標も用いるようになってきた。
わが国ではヨーロッパでも登録が完了した久光製薬の「ヒサミツー」の音楽コマーシャルが有名だ。
以下、次号「第70回」(6月23日発行)に続く!
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