第74回
世界で広がる新たな戦争:失われる種子と食糧の多様性(後編)
浜田和幸
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あまり知られていないが、アフガニスタンは30年前には農業の輸出国であった。
アメリカ軍はアフガニスタンへの侵攻に際し、「2007年までには同国が再び食糧に関して自給自足のできる体制に引き上げる」とうたっていた。
しかし、今日の状況を見る限り、食糧の自給自足は「絵にかいた餅」に終わっている。
その背景には戦争後の復興計画が進んではいるものの、実際にその恩恵を被っているのは地元の農民や市民ではなくケモニクスに代表されるようなアメリカの援助ビジネスに携わっている企業が中心となっているからだ。
いずれにせよアフガニスタンの農業を復興させるために最も重要な資源は種子である。
アメリカもヨーロッパ各国政府もアフガニスタンにおいて、自国に有利な新たな種子産業を育成しようと深慮遠謀を企てているに違いない。
最終的にアメリカが勝利を収め、外国の企業やアグリビジネスに門戸が開放される際に、最も有利な条件でこの新興市場を押さえようと目論んでいるようだ。
その目的を達成するため、アメリカ政府はわざわざ法律の改正まで行い、アフガニスタンの農民たちが自分たちの種を保存し、次の年に植え付けることができないようにしたのである。
イラクにおける情勢も極めて似通っている。
イラクは「文明のゆりかご」と呼ばれるほどで農業に関しても数千年の長い歴史を誇ってきた。
しかし、イラク戦争が終わり米軍による占領統治が続く中で、今やイラクはアメリカの小麦や米産業にとっては最大のお得意先となっている。
アメリカ政府はイラクを占領することにより、石油だけではなく巨大な市場を手に入れたと言っても過言ではない。
15億ドルに達する食糧マーケットがアメリカの企業に開放されたからである。
短期間でイラクの農業や食糧流通システムはアメリカに全面的に依存するようになってしまった。
米軍はかつてカーギルの役員であったアムスタッズ氏を引き抜き、米軍の対イラク農業支援事業の責任者に据えた。
アフガニスタンで行ったのと同じように米軍はイラクにおいても同国の法律を改正させ、アメリカからの輸入品、特に食糧に関してアメリカ依存を強める政策を徹底的に実行したのである。
要はアメリカの軍事戦略に食糧農業政策が完全に飲み込まれているわけである。
その中で特に重要な役割を担っているのがアメリカのGM種子というわけだ。
遅かれ早かれこうしたアメリカの「食糧軍事一体化戦略」が広がれば、世界の穀物市場はアメリカの思うように牛耳られることになりかねない。
モンサントがGM種子を本格的に広め始めたのは1996年のこと。
それ以来、種子の価格は鰻登りである。
当時と比較して、大豆の種子の値段は325%も上昇、とうもろこしは259%、そして綿花に至っては516%ものアップとなっている。実は、モンサントはドイツの医薬品大手バイエルンと提携することになった。
その結果、世界の種子市場の3分の1を支配することになっている。
オバマ政権下でスタートしたソフトパワー戦略であるが、トランプ大統領も引き継ぐ意向を示しており、日本としても注目する必要があるだろう。
なぜなら、こうしたアメリカ製GM種子はイラク、アフガニスタンに留まらず世界中に売り込まれているからで、日本もその例外ではないからだ。
日本がアメリカから輸入する食糧や肥料にも大量のGM関連が含まれている。
ヨーロッパ諸国と比較し、日本の場合には食品の成分表示が緩やかなため、遺伝子組み換え食品でありながら、そうした実態が確認しにくくなっている。
このままでは日本の誇る食の安全・安心の根幹が崩れる可能性もある。
速やかな対策が欠かせない。日本独自の種子保存政策が求められる。
しかし、現実はその流れに逆行しており、アメリカの強烈な働きかけを受け、わが国は種子法を改正してしまった。
その結果、アメリカ発の遺伝子組み換え種子やGM食材がこれまで以上に大手を振って日本市場に参入できるようになったのである。アメリカでは遺伝子組み換え作物は牛や豚など家畜に与えるもの、と受け止められている。
言い換えれば、日本の消費者はアメリカ政府から見れば「家畜同様」というわけだ。
こうした状況をいつまでも放置しておくわけにはいかない。
なぜなら、このままでは日本古来の種子はGM種子に駆逐され、日本人の食文化そのものが根底から浸食されてしまうからだ。
今こそ、日本人の食生活のリスクを減らす対策を講じる時だ。
次号「第75回」(8月4日発行)もどうぞお楽しみに!
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