第79回
進化するインドと日本の同盟関係:深まる安倍・モディ首相の親密度(前編)
浜田和幸
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相次ぐ北朝鮮のミサイル発射という挑発行為に対して、国際社会は右往左往するばかりだ。国連の安保理が決定した名ばかりの経済制裁と中国頼みの圧力では、一向に金正恩の暴走に歯止めをかけることはできそうにない。
これらはアメリカの対外的な指導力の低下をはじめ、中国やインドの台頭など、アジア、世界を取り巻く政治、経済、安全保障環境が目まぐるしく変化していることの結果に過ぎない。こうした情勢変化を冷静に把握しておかねば、政治的決断はもとよりビジネス上の経営判断もうまく下せないだろう。
どの国と、あるいはどの企業と連携すべきか。国家や企業の命運を左右するのは目に見える部分に惑わされず、見えない部分の動きを正確に理解する力があるかどうかである。今こそ、北朝鮮問題の暴発を抑えるためにも、ピョンヤンと経済的結びつきの太い欧米諸国、特に英国、そしてロシア、中国、インドなどとも創造的な外交を展開すべき時代だ。
日本の近未来に大きく影響するに違いない動きが各地で見られる。例えば、近年、南シナ海に面するベトナムではカムラン湾で国際港の開港式典が挙行された。
わが国では南シナ海といえば、中国による岩礁の埋め立てと軍事拠点化に関する報道が主流であるが、一方の主役であるベトナムについての情報は限られている。
アセアン経済の牽引車ともいわれるベトナムは既に1億人近い人口を擁し、日本との関係強化に一際熱心である。
カムラン湾の整備拡張についても、日本との交易増加を見込んだもの。今後は外国の軍艦、民間船いずれも使用可となる。
実は、カムラン湾はベトナムきっての軍事要衝に他ならない。
これまで外国軍艦の寄港を厳しく制限してきたものだ。
しかし、日本とベトナムは2015年11月、海上自衛隊の艦船の寄港で合意した。
また、初の海軍合同演習を実施することでも合意に至った。
日本ではほとんどニュースにならなかったが、世界からは注目を集めたものである。
この合意を受け、日本の海上自衛隊の護衛艦がカムラン湾を訪問。外国の軍艦としては第1号となったため、ベトナムでは盛大な歓迎式典が挙行された。
日本の誇る潜水艦「うずしお」と駆逐艦2隻が先ずはフィリピンを訪問し、その後、ベトナムへ向かった。
わが国の潜水艦がフィリピンに寄港するのは過去15年において初めてのこと。
まさに日本とアジア諸国との信頼関係の強化を象徴する動きといえよう。
海上自衛隊の両国訪問の主たる目的は南シナ海における中国の急速な軍事拠点化へのけん制にあることは誰の目にも明らかである。
一方、中国の反応も気になるところだ。
中国外務省は早くも警戒感を露わにしている。
曰く「第二次大戦時、日本はスプラットリーを占領した。
今回の動きはその再来か」といった具合である。
南シナ海では「フィリピン、べトナム対中国」といった対立の構図が急浮上している。
もちろん、台湾やブルネイ、インドネシアも傍観しているわけではない。
なにしろ、南シナ海は年間50億ドルもの貿易通商ルートである。世界の海上輸送の3分の1を占めるほどの重要な航路だ。
しかも、往来する船舶の大半は日本の貨物輸送に係っている。
エネルギー資源の輸入や「メイド・イン・ジャパン」製品の輸出にとっての生命線である。このシーレーンを確保できなければ、日本は生きていけない。
日本政府はフィリピンに対して、「ビーチクラフトTC-90キングエアー」の供与を申し出た。
海上での警戒警備能力を高めるのが支援の目的だ。
「リバランス政策」と称して、アジアとの関与を強めたオバマ前政権より安全保障の分野でより深くコミットする形である。
というのも、アメリカは中国に配慮してか、領土、領海問題に関しては、「一方に与しない」との姿勢を取っていたからだ。
これではフィリピンにしてもベトナムにしても心もとないと思うのも当然であろう。トランプ政権の誕生により、アメリカの対中政策も変化する兆しは見えるが、北朝鮮問題の発生により、中国の対北朝鮮圧力を期待するトランプ大統領は言行不一致が目立つようになった。
「アジアの時代」といいながら、オバマ政権は指導力を発揮できないまま終焉を迎えた。
鳴り物入りで大筋合意したとされるTPPも、トランプ大統領の鶴の一声で廃案に。
「アメリカ・ファースト」の掛け声の下、アメリカは内向きの姿勢を強めている。
対外的な軍事コミットメントも以前ほど期待できない状況が生まれている。
米海軍のイージス艦なども相次ぐ事故で同盟国からの信頼を失いつつある。
その意味では、日本はアメリカ以上にフィリピン、ベトナムからの要請に応じる形で、これまでになかった軍事面というレベルで支援する方針を明確に打ち出したといっても過言ではない。
日本外交にとっては「新たな時代の幕開き」ともいえるもの。
アメリカの存在に直ちに取って代わるわけではないが、アメリカの限界を見極めた上で、アメリカの力を生かしつつも独自の対アジア戦略を構築する第一歩を踏み出したのである。
とはいえ、注意すべきリスクも生まれつつある。
というのも、日本の動きは結果的に、警戒感を強める中国とロシアの接近を加速させているからだ。
具体的には、ロシアは中国に海上発射の巡航ミサイルを提供することになった。
急速な軍の近代化を進める中国ではあるが、海軍力においてはアメリカや日本にはまだまだ及ばない。
そこで、ロシアとの急接近となったわけだ。
要は、日本の動きをテコに、ロシアから最先端の武器を調達しようということである。これこそ中国式交渉力といえよう。
ロシア外交筋によれば、「中国はロシアの支援で太平洋にて、今後はより積極的な軍事展開が可能となる」。
現在、中国に近代的な軍事技術を提供できる立場にあり、実際、そうした動きを加速させているのはロシアだけである。
こうしたロシアからの援助や協力がなければ、中国はアメリカやその同盟国との軍事的な対立には勝てる見込みはない。
本音の部分ではロシアと中国はともに世界的な覇権を目指している国同士。
時にライバル視するも、時に同盟国にもなる関係といえよう。
アメリカ一辺倒できた日本とは大違いだ。
以下、次号「第80回」に続く!
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