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        ソムリエの追言 ㉙
        「ねっとり感が高級感!? ~ワインの粘性~」 
        ________________________________________
        10年以上前、テレビのバラエティー番組での話です。
        テーブルの上には一見同じような赤ワインの入ったグラスが二つ。 片方はごく普通のテーブルワイン、そしてもう片方は高級ワイン。 出演者はどちらが高級(値段が高い)ワインかを言いあてられるか、 という内容です。
        そこになぜか未成年のアイドルが登場。 ワイン好きを自称する大人たちがつぎつぎ正解をはずす中、 傾けたグラスの壁面をつたう雫を見ただけでみごと正解を当ててしまいました。
        私がまだワインに興味を持つ前の話で、 「飲んでないのになぜ?」とその時はとても不思議で、 まるで手品を見せられたような感覚でした。 
        ちなみに高級ワインはシャトー・マルゴー1982年。 当時既に20万円以上していたものです。 
        
        ワインの涙が語るもの 
        このグラスの内側を流れる雫の事をワインの涙(Larmeラルム)、またはワインの脚(Jambeジャンブ)と呼びます。
        

        ワインはタイプや味わいの違いによって、その粘性(とろみ)に違いがあります。 
        
        一般的にはアルコール度数の高いワイン、糖分を多く含むワインは粘性が高く、 エキス分の凝縮した高品質なワインかどうか、一つの指標になると言われています。 
        
        粘性の低いワインは、 グラスを傾けるとばさっと網を広げたような薄膜状の雫になります。 
        それに対して、粘性の高いワインは雫がすらっと伸びた脚のように、 すっと何本かの線を引いて流れていきます。 ワインの脚・・・実に言い得て妙な表現です。 
        
        もちろん、これだけでワインの良し悪しが決まるわけではありませんが、 こうした粘性の高いワインからは、 しっかりとしたボディ、 果実エキスの凝縮感、 熟成によってもっと美味しくなるのかな、という期待感を与えてくれます。 
        
        涙の理由(わけ) 
        糖度はガムシロップと水の粘性を比較すれば分かるように、 糖度の高い甘口ワインが粘性も高いというのは理解出来ます。 
        しかし、残糖のない辛口ワインで、単純にアルコールが高ければ粘性も高いかと言えば、一概にそうとは言えないようです。 
        アルコール度数でとろみが決まるのであれば、 消毒用エチルアルコール(80度前後)は、ねっとりとろとろのはずです。 しかしグラスに注ぐととてもさらさらとしていて、 さすがに飲んで確かめる事は出来ませんが、 外観からは粘性をまったく感じられませんでした。
        
        酒精強化ワインと言われるシェリーの辛口タイプ、フィノ(15度前後)にも目立った粘性は感じられません。 ワインのとろみには、
        単純にアルコールの高低だけではなく、 発酵時に副産物として生成されるグリセリンや凝縮した果実のエキス分が影響しているのです。
        グリセリンは、ギリシャ語のglykys(甘い)にちなんで名付けられた多価アルコールの事で、発酵を低温で丁寧に行なった場合に多く生成されます。 
        果実にたっぷりと糖度がのった葡萄からは、 発酵時にアルコールとともに多くのグリセリンも生成され、自然と粘性が高くなります。 
        
        ボルドーの赤ワインの中には、辛口のはずが後味にじわーっとほのかな甘味が広がる感覚があります。この甘みこそがグリセリンです。 この自然な甘みを強く感じられるワインは、値段や格付けに関係なく良いワインだなと素直に感じます。
        
        熟成よって変化はあるか
        熟成によって粘性が変化するという話は、本やネットには出ていないようです。 
        しかし個人的な経験を述べると、以前会社の忘年会で飲んだ1985年のジョンカード赤ラベルにはものすごい凝縮感、近年のヴィンテージとは比べ物にならない良質な粘性が感じられました。
        

        豊潤なエキス分、 とろっとした質感、 長く心地よいコクと余韻。 その違いが単に天候などヴィンテージの良し悪しによるものなのか、 はたまた熟成によって変化したものなのか・・・。 
        
        気になったので、粘性に着目しながらレギュラー商品の2005年と1998年の赤ラベルを飲み比べてみました。 一般的なヴィンテージの評価では2005年の方が高いと言われています。 しかし1998年の方がワインの脚もしっかり出ていて、 とろっとした質感、果実のコクを強く感じました。 自論ですが、熟成の長さとワインの粘性は比例関係にあるのではないでしょうか。
        
        世界最大のワイン・スキャンダル
        この自然な甘み、とろみを人工的に添加して世間を騒然とさせた事件が、オーストリアの「不凍液混入事件」です。 
        1985年、オーストリアで生産されたワインから、自動車のラジエーターに不凍液として使用されるジエチレングリコールという物質が発見されました。安価なワインにコクと甘み、ゆたかなとろみを加え、高級品に似た味が出せるというのです。
        
        もちろん、ワイン法で認められた添加物ではないので使用は違法です。 この事件はオーストリア国内だけに留まらず、オーストリアワインをブレンドして国産としていたドイツ、イタリア、また日本のワインからも同物質が発見され、世界中でワイン経済の大暴落を招きました。 
        
        当時の混乱は相当なもので、日本では国名が似ているという理由だけで「オーストラリア産ワイン」までも、輸入禁止になったほどです。 それ以降、オーストリアを中心にヨーロッパ全体でワイン作りに関する規制は強化され、試飲・科学分析を行なう調査機関が設けられました。
        
        現在、日本への輸入ワインには日本が指定した分析研究所による成分分析表を提示する事が義務づけられており、国内に不凍液ワインが流通する事はまずあり得ません。どうぞご安心ください。 こうした消費者の健康を無視し利益のみを求める生産者に対して、 それこそワインが涙を流しているのではないでしょうか。 
        
        道上の独り言
        弊社では、 「誰が」 「いつ」 「どこで」 「どのように」 作ったワインなのか、一貫して皆様にお伝えするようにしております。 トレーサビリティ、生産者情報において日本のどの会社よりも徹底しております。 
        
        
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        【 道上 雄峰 】
        幼年時代フランス・ボルドーで育つ。 
        当時日本のワインが余りにもコストパフォーマンスが悪く憤りを感じ、自身での輸入販売を開始。
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