ソムリエの追言 54
「5億本の【ブショネ】と共に・・・」
カビのような刺激を伴う香りのワインに出くわしたことはありませんか?
これが、「コルク臭」
「Bouchonne ブショネ」と呼ばれるものです。
【Bouchon ブション 仏語で「栓」の意味から転じた言葉】
この「ブショネ」
厄介なのは、外観上、全くわかりません。
ワインの色などに変化はまるっきり起こりません。
開けてみて初めて感知できるものです。
ワインらしい香りの中に、どこか、木の香りが強く出すぎているような、「生木」っぽいという、カビくさいような。
言葉で表現するのは、これまた難しい。
そして、また、難しいのは、完全な異臭ではないということ。
この香りを知らない人にとっては、
それ自体が、そのワインの香りと間違えて、飲んでしまうレベルもあるほど。
味わいとしては、飲めなくはないんです。
ただし、その木のような、かび臭い刺激のある香りが、
味わいにも移っていて、後味・余韻にその苦味が残ります。
コルクを抜いて、香りを嗅いだ時点で、「ブショネ」と判断できることもあれば、
ワインを飲んだ時点で初めて判る「ブショネ」と、その状態も様々です。 ソムリエでも、判断に迷う時もあるのです。
この「ブショネ」を感知できるようになるには、
とにかく、数多くワインを開けて飲むか、 「ブショネ」のワインを教えてもらうほかないです。
幸運にも、私は、ワインを飲み始めてから、随分後に出会ったと記憶してます。
「あぁ、これが ブショネ だろうな」と 半信半疑でしたが。
そういう意味でもレストランなり、ワインショップなり、ワインを提供する場は、 もっと、「ブショネ」を知らしめる必要があると強く思います。 (当店では、ワイン会では、「ブショネ」が出たら、「おめでとう御座います!どうぞ、「ブショネ」を確認してください!なんてやってます。)
日本語では、「ブショネ」を「コルク臭」と訳されていますが、
フランス語の意味からすると、「コルク的、コルクのような」。
つまり、コルクそれ自体の香りではないんです。
以前、「ブショネ」の原因を化学反応と説明してますが、突き詰めていくと、発生状況は様々なようで、しかも、しかも!コルクを使ってなくても、「ブショネ」が発生するとか!
TCA(トリクロロアニソール)という成分の発生が、「ブショネ」なのです。 さらに、このTCAは、色々な経由で発生するみたいです。
なんと、鶏肉に「ブショネ」、リンゴにまで「ブショネ」なんて報告もあります。
コルクを使ってないのに何で?
真犯人は、クロロフェノール。
木材の殺菌・殺虫に使われていた成分。(仏では使用禁止になってます) それが、カビによって、TCA(トリクロロアニソール)に変化! 鶏は、木片チップの上で飼育されていたし、リンゴは木箱に入っていた。
そう、コルクがなくても、木材があれば、「ブショネ」が発生する。 恐ろしや。
その他にも、TCA(トリクロロアニソール)を発生させる物質は塩素系殺菌漂白剤、水道水(塩素が入っている)、建材、木製パレット、樽、木箱、 ダンボール箱、輸送用コンテナ・パレット・・・。
塩素と木製素材に関連するものは、とにかく危険。 上に挙げたものなど、ワイナリーにいけば、醸造所内で見かけるものばかり。その上、コルクとワインは、TCA(トリクロロアニソール)を吸着しやすい!
だから、たとえ、コルクに気を使っていても、他からの原因で「ブショネ」になる場合もあるし、 プラスチックの樹脂コルクやスクリューキャップでも、ブショネになる場合もあるのです。 これまた、ビックリです。
コルク自体の漂白を塩素から、過酸化水素や高圧水蒸気に変えたり、 電子レンジやオゾンを使っての洗浄もおこなわれてきていて、 醸造所に置く木材などにも気をつけてなど、対策が行なわれています。 確かに、「ブショネ」は減ってきています。 ただ、完全な撲滅は、難しいようです。
そう考えると、実は、最近のワインより、 古いヴィンテージワインのほうが、「ブショネ」が多い。 熟成して、どんどん美味しくなっているはずなのに・・・・。 これまた、悲しいです。
世界に流通しているワインの数は150億本。
その3~5%が、いまだ「ブショネ」だと推測されているわけです。
なんと、5億本以上が「ブショネ」!?
ワイン業界が努力をしても、すぐにはなくらならい 「ブショネ」。
それなのに、誰も教えてくれない 「ブショネ」。
ソムリエ協会の会報誌に連載を持つ、有名ワイン・ライター (高級ワインや有名ワインをものすごい機会で飲んでいるはずの人です)でさえ、「自分はブショネがわからない」と公言?してます。
初めて、出会ったら、ラッキーと思うか。 (これで、覚えられる!とか 5%の確率に当った!) いや、一度も出会ったことがないという人こそ、ラッキーなんですが。
「ブショネ」を、正しく知ること。
それが、「ブショネとワインと生きる道」です。
【 道上 雄峰 】
幼年時代フランス・ボルドーで育つ。
当時日本のワインが余りにもコストパフォーマンスが悪く憤りを感じ、自身での輸入販売を開始。
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