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         2020年9月4日発行

        世界の最新トレンドとビジネスチャンス

        第216回

        新型コロナワクチンの開発に成功したと豪語するプーチン大統領と世界の反応(前編)

        浜田和幸

         

        ウェブで読む:https://foomii.com/00096/2020090410000070462

         

        ──────────────────────────

        このところ世界中で新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大が続き、その数は既に2500万人に達した。

        死者もうなぎ上りで、まもなく100万人を突破しそうな

        勢いである。

        とはいえ、感染者の数を誤って130万人も余計にカウントしていたイギリスの健康保健省や死因を新型コロナウィルスと報告したにも係わらず「94%が別の原因であった」ことを認めたアメリカのCDC(疾病対策センター)の不正確な事例が相次いで発覚するようにもなっており、戸惑うことも多い。

         

        一体全体、どこまで各国政府の発表するデータを信じてよいものか。やたらと不安感を煽り、ワクチンの開発と接種を急がせるための「製薬メーカーの陰謀ではないか」といった声まで出始めている。

        とはいえ、日本でも世界の多くの国々でも、感染に歯止めがかかっていないことは否定のしようがない事実だ。

         

        いずれにせよ、一刻も早く治療薬やワクチンの開発が求められている状況には変わりがないだろう。

        そのため、アメリカを筆頭に日本、中国、台湾、ベトナム、キューバなど各国の研究者や100社近い製薬メーカーが開発レースでしのぎを削っているわけだ。

         

        そんな中、ロシアのプーチン大統領が世界に先駆けて

        コロナ用のワクチン「スプートニクV」を完成させたという記者会見を行った。8月上旬のことである。

        実は、ロシアはアメリカ、ブラジル、インドに次いで世界で4番目に多い、感染者数100万人を抱えている。

        プーチン大統領とすれば、国内的な不安感を払しょくしなければ、政権の維持にも暗雲が立ち込めるとの危機感にさいなまされているに違いない。

         

        そうでなくとも、地方経済の落ち込みが深刻で、ロシアではこのところ反プーチン運動が加速する傾向を見せている。その反プーチン政治活動の中心人物が地方空港の待合で毒を盛られたとの疑いが出ているが、過去にも似たような毒殺や未遂事件が頻発するロシアである。

         

        国民の間に広がるアンチ・プーチンの動きをけん制するためにも、プーチン大統領とすれば「世界発のワクチンを希望者全員に提供する」との前向きなメッセージが必要だったのではないか。

        記者会見に臨んだプーチン大統領は自信満々で、「自分の娘にもこのワクチンを投与した。1回目の投与直後に少し熱が出たが、翌日に2回目の投与を行うと平温に戻った。

        安全性には問題なさそうだ。

        これから増産体制に入り、10月から医療関係者や学校の先生たちに優先的に投与したい。

        年明けには希望する国民全員に提供できるだろう」と「世界初の快挙」に力を込めた。

         

        とはいえ、ビル・ゲイツ氏でさえ「完成は早くて年末か年明け」と予測しているワクチンである。

        世界中が驚くと共に、「本当に大丈夫なのか」と半信半疑の声が出ているのも当然であろう。

        実際、このロシア製ワクチンはWHOが注目する治験薬6種には含まれていない。

         

        というのも、名前は世界初の人工衛星「スプートニク」に因んだ勇ましいものだが、短期間の開発で、治験者の数も38人と少なく、しかもワクチンを開発したとされるモスクワのガマレヤ研究所や協力したロシア防衛省の中央研究所からは実験データの開示が一切されていないからだ。

        そのためか、ドイツ、フランス、スペイン、アメリカなどの医療関係者の間では「にわかには信じがたい」と首をかしげる反応が専らだ。

         

        しかし、強面のプーチン大統領は「ロシアにはウイルス研究20年の歴史がある。治験者の数は少なくても大丈夫」と余裕しゃくしゃくである。

        ロシア直接投資ファンドが5400万ドルの開発費を投入した結果と言われる。実際、この記者会見の影響は大きく、世界20か国以上から既に10億錠を超える注文が殺到しているという。

        中でもフィリピンのドゥテルテ大統領は自ら「最初に投与をお願いしたい」と積極的な反応を見せている。

        フィリピンは東南アジア諸国の中では最も感染状態が深刻で、ロックダウンを実施したにもかかわらず、感染の拡大が収まらない。

         

        そのためか、ドゥテルテ大統領曰く「ワクチンのサンプルが届き次第、自分が治験者の第一号になる。国民の見る前で投与を受けるつもりだ。自分に効けば、フィリピンの国民全員に効くはずだ。来年5月までにはフィリピンでの予防接種を実現したい」。実に、積極的で「プーチン大統領は自分にとってヒーローだ」とまで、「プーチンよいしょ」に余念がない。

         

        フィリピンの大統領府によれば、「ロシアはフィリピンでの試験的投与に関する費用を負担してくれる。10月から治験をはじめ、来年4月までには食品医薬品局のお墨付きも得られるだろう。そうすれば、フィリピンでもワクチンの共同製造が可能になる」とのこと。同じような動きは今後、他の地域でも加速しそうだ。実際、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、インド、ブラジルも治験に参加することを検討中という。

         

        更に、この分野の研究では最先端を走るイスラエルでも「効果を確認した上で導入したい」と前向きな対応ぶりである。イスラエルには旧ソ連から移住したユダヤ系の研究者も多く、これまでもITや医療の分野を軸に人的交流が積み重ねられていた。そうした人的交流の長い歴史も影響しているものと思われる。

         

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        著者:浜田和幸

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