一方、寮に連れてこられた劉は、これから使う部屋の掃除をしていると、
一冊の日記帳を見つける。
それはかつて同じ部屋に住んでいた留学生、除振華が書いたものだった。
母さん、日本は良い国ですが、大変なこともたくさんあります。
そんな書き出しで日記は始まっていた。
劉は掃除を中断して日記を読み始める。
日記には除の苦労や失望、そして希望や夢が活き活きと綴られていた。
日本に来てはみたけれど・・・何もうまくいかない除。
金もなく、飢え死にしそうな頃に五十嵐と出会う。
そして五十嵐が中国人留学生を支援し始めるきっかけが描かれる。
当時の五十嵐は中国人に対して決して友好的ではなく、ガチガチの商売人。
しかもやり手である。
そこへやって来て、野菜を値切れとたどたどしい日本語で言う除。
冗談じゃないよ、こっちは十円二十円の商売を やってるんだよ
値切られてたまるかよと、当然のことながら門前払いを食らってしまう。
しかし除は諦めない。
毎日のように八百春に通い詰め、五十嵐と野菜を巡る攻防を繰り広げるのである、時にユーモラスに、時に涙ながらに、時には喧嘩までして。
そんな日々を過ごしているうちに、五十嵐の心は融解していく。
そしてある日、毎日のように姿を見せていた除が八百春に姿を見せなくなるのだった。心配する五十嵐。フミまで一緒になって心配している。二人にとって除はいつの間にか友達になっていたことに気付き、五十嵐は除の暮らす寮を訪ねる、そこで五十嵐は中国人留学生たちが直面している現状を目の当たりにするのだった。
日記を読んでいたらいつの間に夕方になってしまっていることに気付く劉。
ノートを一冊買うのだった。
先輩、今日から私も日本で頑張ります。
中国は破竹の勢いで発展している国です。
だけど、私の家はまだまだちっとも裕福なんかではありません・・・。
劉の日記はそんな文章で始まる。
劉は除を先輩と呼ぶことにした。
そして劉はまだ知らなかったのである。
半年後に寮は取り壊されマンションが建設されることになっているのを。