屈は日本語学校の授業が終えると街に出る、バイトを探す為だ。
経済的に発展したとはいえ、中国からの学生の中にはまだまだ貧しい者がたくさんいた。
屈の実家は中国で林檎農家を営んでいる。
決して余裕がある訳でも裕福な訳でもなかった。
にもかかわらず、親戚中から借金をしてまで自分を日本へ送り出してくれた。そんな両親の期待を裏切る訳にはいかなかった。
しかし金がない。
仕送りしてくれとも言えない。
中国からの留学生には一日4時間までのアルバイトが認められてはいたが、中国人を雇ってくれる所は中々見つからないのが現状だった。
しかももうすぐ寮は取り壊される。
そうなれば引っ越さなければならない。
引っ越し費用を稼がなければ路頭に迷ってしまう。
仮にそれをクリアできたとして、私学の大学に入る為には百万を超える入学金を払わなければならない。
問題は山積みだった。
そして屈にはもう一つ、街に出る理由があった。
屈と同じように日本に来て、行方不明になってしまった親友を捜していたのである。
バイトも親友も希望も見つからない。
屈は街中で一人深いため息をつく。
そんな時、足は自然と八百春へと向かうのだった。