夜になり、昨日のお礼も兼ねてと、劉が八百春を訪れると、屈も八百春にやって来ていた。
五十嵐は笑顔で出迎えてくれ、劉と屈に夕飯を振る舞ってはくれるのだが、何となく雰囲気がおかしい。
笑顔なのは五十嵐だけなのである。
フミや五十嵐の娘、バイトの男、それに五十嵐の先輩だという男にも笑顔はない。
屈にはその理由が痛いほどよくわかっていた。
五十嵐が私財を投げ打ってまで自分たちを支援してくれたせいで、経済的に追い込まれているのだ。
それだけではない、親友の為に街金から借金までしてくれた。
そしてその親友が金を返さないまま、どこかへと消えてしまったのである。
五十嵐さん、申し訳ありません!
食事の手を止めて、屈が突然頭を下げる。
劉には何のことだかよくわからない。
そんな屈を五十嵐は屈託のない笑顔で慰める。
屈さんが悪いんじゃない。
誰が悪い訳でもない。
屈は涙を流しながら、いつか必ず出世して恩返しをします、と言うのだった。
五十嵐はそんな屈を見て、かつて同じことを言った男がいたなぁと、かつて
日本にいた除振華という中国人留学生を思い出すのだった。