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        2021年2月5日発行
        世界の最新トレンドとビジネスチャンス
        第235回

        バイデン新大統領は分断が加速するアメリカを立て直すことができるのか?(前編)

        浜田和幸

         

        ウェブで読む:
        https://foomii.com/00096/2021020500000076292
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        日本では新型コロナウイルスの感染が収まらず、「緊急事態宣言」の掛け声も寒空に空しく響くばかりである。支持率も急落し、このままでは、菅政権の命運も早晩尽きるのではないか、との観測が広がる一方だ。医療体制の逼迫も危機的状況に直面しているため、一刻の猶予も許されない。残念ながら、7月の東京オリンピックも開催が危ぶまれる。果たして、強いリーダーシップを発揮し、形勢逆転につなげることができるのだろうか。

         

         

        一方、世界最悪のコロナ感染に見舞われ、40万人以上が命を失っているアメリカでは、1月20日にバイデン新大統領が就任式を終えたが、トランプ前大統領の支持者による反対運動は収まらず、前代未聞の混乱状態が続いている。いまだに、昨年11月の大統領選挙の結果を巡って、両陣営の間では、対立が収拾する兆しが全く見えてこない。

         

         

        両陣営とも史上最高の得票数を得ており、コロナ禍の影響で急増した郵便投票の集計で「不正が行われた。非合法な選挙だった」との主張を緩めないトランプ陣営だ。それどころか、トランプ大統領は1月6日に首都ワシントンで「不正選挙糾弾」のデモ参加者に向け「連邦議会へ突撃せよ」と檄を飛ばした。

         

         

        全米から集まった熱烈なトランプ支持者は暴徒化し、議事堂を一時占拠し、選挙人による新大統領指名投票を中断させようと試みた。正に前代未聞の事態となり、その騒動の中で、6人もの死者と多数の負傷者が発生することになった。民主主義の象徴である連邦議会議事堂がいとも簡単に暴徒に乗っ取られるという不名誉な出来事は歴史に残るだろう。

         

         

        とはいえ、4時間ほどでデモ隊は排除された。しかし、トランプ前大統領は当然のことながら、過激な白人至上主義たちもこれで諦めたわけではない。「最後のチャンス」とばかり、1月20日に予定されていた新大統領の就任式にめがけて、更に大規模な「トランプ支持」のデモを企てていたようだったが、州兵や警察官を大量に動員する厳重な警備体制によって、就任式そのものは無事に終了した。

         

         

        とはいえ、就任式には一般聴衆の参加は一切認められず、代わりに20万本のアメリカ国旗が開場前の広場を埋め尽くすという「バーチャルな演出」になった。しかも、トランプ前大統領は前例を無視し、新大統領の就任式典には出席せず、フロリダの別荘に移動。そして、4年後を見据えた「2024年再選キャンペーン」の一環と見られる「前大統領オフィス」を立ち上げることを宣言。

         

         

        いずれもアメリカ史上初めてのことで、民主的でスムーズな政権移行とは程遠く、「分断、分裂国家アメリカ」を象徴する動きに他ならない。トランプ前大統領は、「バイデンは不正な手段で大統領選挙を盗んだ。こんな違法な大統領を認めるわけにはいかない。4年後に正当な選挙で返り咲く」との演説を繰り返している。

         

         

        こうした状況では、目前のコロナ対策はおろか、国内経済の立て直しも中国との技術覇権争いにも「国家を挙げての取り組み」は難しいだろう。かつての超大国アメリカの威光は「風前の灯火」といっても過言ではない。とはいえ、7400万票を獲得したトランプ前大統領は強気一辺倒で、自らを「キリストの再来」となぞらえるほどの厚顔ぶりである。

         

         

        その影響があるのかどうか、ホワイトハウスの前主治医で海軍少将のジャクソン氏に至っては「トランプ前大統領の寿命は200歳まで保証されている。他方、バイデン氏は精神面でも肉体面でも国軍の最高司令官の任には堪えない」と公然とバイデン批判を繰り出す有様だ。

         

         

        そんな中、第46代の大統領に就任したのが、御年78歳のバイデン元副大統領である。オバマ大統領時代に2期8年にわたり副大統領を務めたわけだが、トランプ前大統領がたびたび批判したように、「長年ワシントンの政界にいたが、これといった実績のない居眠りバイデン」とも揶揄されてきた。巷間、「ジミー・カーター以降、最も弱い大統領になるだろう」と厳しい指摘も受けている。

         

         

        一般国民向けの演説と資金力のある支持者向けの演説では正反対の政策を平然と繰り出すのがバイデン流である。例えば、先の選挙期間中にも一般向けには「トランプ前大統領が行った富裕層対象の減税は撤回し、増税することで中間層への医療費補助を手厚くする」と強調。ところが、富裕層を集めた集会では、「皆さんたちを敵視し、大幅な増税するようなつもりは毛頭ありません。皆さんたちにとって基本的にはこれまでと同じ生活を保障します。心配要りません」と、正に二重人格的発言を繰り返していたのである。

         

         

        バイデン氏が最初に発表した閣僚人事は財務長官ポストにジャネット・イエレン連邦制度準備理事会議長を指名したことである。イエレン議長はトランプ政権時代から一貫して全国民の1%に当たる富裕層向けの政策として、超低金利と国家財政の破綻にもかかわらず市場への資金供給を拡大させてきた。

         

         

        アメリカでは2020年、3800万人強が失業給付の申請を行った。2021年に入っても中小企業の倒産や失業者の数は増える一方である。他方、アマゾンやアップルなど大企業は史上最大の収益を上げている。アメリカの664人の大富豪の資産は2020年だけで1兆ドルも増えたことが明らかになった。こうした経済格差の結果、5000万人を超えるアメリカ人は食料を買うことに困難が生じているようだ。

        無料の食料を配布するフードバンクや政府の発行する食品との交換用のフードスタンプのお世話で食いつないでいる人々が急増しているのである。健康保険に無加入のアメリカ人は5000万人を超え、コロナ禍に直面しても医療サービスを受けられないわけだ。こうした弱者切り捨てといっても過言ではないアメリカ政府の対応をバイデン新政権は改善できるのであろうか。イエレン女史は過去2年間で講演料を700万ドルも稼いできた。そんなスーパーリッチな新財務長官の下で、経済格差の是正策が打ち出されるとはとても思えない。

         

         

        以下、次号「第236回」に続く

         

         

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