奥 義久の映画鑑賞記
2021年4月
＊私自身の評価を☆にしました。☆5つが満点です。(★は☆の1/2)
2021/04/03「旅立つ息子へ」☆☆☆☆☆
自閉症の息子ウリのため仕事を辞め、田舎町で2人の世界を楽しむ父親アハロン。別居中の妻タマラはウリの将来を考え、全寮制の施設への入所を薦める。アハロンは定収がないため、裁判所はタマラを支持してウリに入所が決まる。入所の日、父親と別れたくないウリはパニックを起こしてしまい、アハロンは息子との逃避行の旅に出る。父親役にはイスラエルのベテラン俳優シャイ・アヴィヴィ、息子には無名の新人ノアム・インペルが演じ、二人の好演はイスラエルアカデミー賞を受賞。特にノアムの自閉症の演技は専門家からも高い評価を得て、レオナルド・ディカプリオの再来と言われた。父親と息子の絆は時として過保護に映るかもしれないが、この二人の関係がウリの独立に結びついていく。本年最高のヒューマンドラマ。
「サンドラの小さな家」☆☆☆☆
家庭内暴力に悩んでいたサンドラは貧困に悩みながらもシングルマザーとして明るく仕事をしながら子育てをしている。公営住宅の順番待ちは、いつ自分たちに回ってくるか判らなかったが、ある日周りの人たちに助けてもらいながら自分の家を建てる決心をする。本作は主演のアイルランドの新星クレア・ダンが企画・脚本を書いており、この才能を評価した「マンマ・ミーア」の監督フィリダ・ロイドが参加した。フィリダ・ロイドは大ヒットミュージカルで成功したが、本職は舞台演出家。映画も「マーガレット・サッチャー鉄の女の涙」も撮っており、本作のような現代社会の問題を追求したシリアスなドラマでもその手腕を発揮できることは証明済み。本作の成功はクレアとフィリダの二人の才能の結集といえる。
2021/04/04「シグナル 長期未解決事件捜査班」☆☆☆★
韓国の傑作ドラマを2018年に日本でリメイクした「シグナル」は日本でも高い評価を得た。今回は劇場版として復活するにあたり、オリジナルストーリーで作成。主人公はもちろんTVのメンバー、坂口健太郎、北村一輝、吉瀬美智子が演じる。過去を生きる刑事と現在を生きる刑事が無線機1台で繫がり、事件解決をしていく痛快刑事ドラマは、映画版も面白い。
2021/04/06「ラーヤと龍の王国」☆☆☆
ディズニーアニメーションの最新作。聖なる龍に守られた王国が500年の時を経て５つの国に分裂し、魔物が再び襲いかかる恐怖の時を過ごしていた。〈龍の石〉の守護者の一族の娘ラーヤは最後の龍の力を甦らさせ魔物に対決を挑む。ストーリーからも大人も楽しめるファミリー向き作品とわかる。「アナと雪の女王」と比較すると、音楽とファンタジー性で劣るのは残念。
2021/04/09「21ブリッジ」☆☆☆☆
「ブラックパンサー」で世界のニューヒローとなったチャドウィク・ボーズマンの最後の映画（遺作なNetflix作品）。4年前からステージ３の結腸ガンと闘いながら見事な演技を見せてきたチャドに哀悼の意をささげたい。本作では脚本にほれ込んだチャドがプロデュースにも参加している。内容は8人の警察官を殺した強盗犯を逮捕するため、NYマンハッタン島にかかる21の橋を閉鎖して犯人を追い詰めていく一夜の出来事をスリリングに描いている。チャドと共演しているのは、シエナ・ミラー、テイラー・キッチュ、J・K・シモンズといった芸達者達。夜間のマンハッタンを舞台にした最高のアクションエンターテイメントを堪能してほしい。
2021/04/14「レッド・スネイク」☆☆☆★
ISと闘う女性だけの特殊部隊の実話を基にした戦争映画。父親を殺され弟とともにISの捕虜となったザラは、奴隷市場でISの協力者の性奴隷として買われる。隙をついて逃げたザラを救ってくれたのは女性だけの部隊「蛇の旅団」だった。ザラは生き別れた弟を救うため厳しい訓練に耐え女性部隊の一員となる。コードネーム「レッドスネイク」としてザラは前線に向かう。ザラにはクルド人のディラン・グウィンを抜擢、「君の名前で僕を呼んで」のアミラ・カサールが共演している。
2021/04/15「ザ・スイッチ」☆☆☆
地味で目立たない女子高生ミリーと中年の連続殺人鬼ブッチャーの姿が入れ替わってしまった。24時間内にミリーは刺された古代文明からの短剣で刺し返さなければならない。短剣は警察署、自分の姿は殺人鬼。24時間以内にミリーは自分を取り戻せるか？ミリー役は新進若手女優として注目をあびているキャスリン・ニュートン、殺人鬼ブッチャーにはヴィンス・ヴォーンが扮している。異色ホラー・コメディの誕生だ。
2021/04/16「AVA/エヴァ」☆☆☆☆
「ゼロ・ダーク・サーティ」のジェシカ・チャステインと「ヘルプ～心をつなぐストーリー～」の名匠テイト・テイラーが組んだアクション大作。ジェシカ演じるエヴァは凄腕の美人殺し屋だが、標的はなぜ殺されるのか？と疑問を持ち殺す前に標的に声をかけるようになる。このことが組織の規律違反ととられ、組織から命を狙われるようになる。殺し屋同士の戦いの幕が切って落とされる。エヴァは生き残れるか？エヴァの庇う直属の上司にジョン・マルコヴィッチ、組織のボスにコリン・ファレル、3人の大物スターの競演が人物描写も見事に織り交ぜたアクションエンターテイメントを作り上げた。
2021/04/17「アンモナイトの目覚め」☆☆☆★
ハリウッドを代表する演技派のアカデミー賞女優ケイト・ウィンスレットと若手ながら4度のアカデミー賞ノミネートのシアーシャ・ローナンが初共演ながら素晴らしい演技でぶっかりあうヒューマンドラマの傑作。ケイト演じる古生物学者メアリーは、かつて一世を風靡した化石を発掘したが、今はイギリスの南西部の田舎町で観光客用のアンモナイトを探して生計をたてている。ある日裕福な化石収集家と知り合い、その妻シャーロットを預かることになる。メアリーは自分と違うシャーロットに惹かれていく・・・。
本作は、最近多いい同棲の愛を描いた作品だが、冒頭に書いた二人の共演が心の痛みと繊細な二人の描写で一流の愛のドラマが出来上がった。
「パーム・スプリングス」 ☆☆☆
砂漠の避暑地パーム・スプリングスを舞台にしたタイムループ・コメディ。友人の結婚式の日にタイムループしてしまう世界に入り込んだナイルズとサラ。毎日が同じ日々の繰り返したが、バカンスを満悦していた。しかし明日の来ない日々の虚しさを気づきサラはタイムループから抜け出そうと考える。B級作品だが、このちょっと風変わりのラブコメがサンダンス映画祭で絶大な支持を得た。個人的にはあまり好きなジャンルではないが、本作の題名で1960年代に「パーム・スプリングスの週末」という映画があったのを思い出した。主演のトロイ・ドナヒューが歌う軽快なメロディ“恋のパーム・スプリングス”とコニー・スティーブンス、ステファニー・パワーズ、タイ・ハーディン共演の青春ドラマが「パーム・スプリングス」の題名で甦ってきた。トロイ・ドナヒューはTVドラマ「サーフサイド６」で日本でもアイドルスターになった金髪のハンサムガイである。話題が横道にそれたが、映画としても本作より、「パーム・スプリングスの週末」を薦めたい。
2021/04/21「約束の宇宙」☆☆☆★
シングルマザーで宇宙飛行士を目指すサラと一人娘ステラとの愛と絆を描いた作品。宇宙へ旅立つと娘とは1年間会えなくなる。娘と二人でロケットを見る約束をするが果たすことは出来るだろうか？サラ役はエヴァ・グリーン、本作ではセザール賞主演女優賞にノミネートされた。娘役には約300人のオーデションから選ばれたゼラー・ブーラン・レメルが可憐な演技で観客を引き付ける。娘を預かる元夫トマスにはラース・アイディンガー、「ダンボ」でもエヴァ・グリーンと共演している。宇宙飛行士のリーダー役にマット・ディロンが扮している。特筆すべきは世界で活躍する坂本龍一が音楽を担当している。
2021/04/22「戦場のメリークリスマス」1983年公開作
大島渚監督最大のヒット作で幻のカンヌグランプリ作が４Kデジタル化でリバイバル上映。デビット・ボウイ、坂本龍一、ビートたけしと本業が映画俳優でない個性的なキャスティング、戦闘シーンのない戦争映画で東洋と西洋の文化の対立と融合。難解なテーマゆえにカンヌ国際映画祭でパルムドールの本命とされたが無冠に終わった。世界の映画人が熱狂した作品と名曲と言われた坂本龍一の書いた主題曲。30年前の作品とは思えない最高傑作である。
2021/04/24「グランパ・ウォーズ おじいちゃんと僕の宣戦布告」☆☆☆
原作は1984年のロバート・キンメル・スミスの小説の映画化で、名優ロバート・デ・ニーロが頑固で意地っ張りのおじいちゃんを演じ、生意気な孫と部屋を懸けた全面戦争というファミリーコメディが誕生した。娘夫婦と暮らすことになったエドは孫のビリーの部屋に住むことになるが、そのあおりを受けたビリーは屋根裏部屋に引っ越し、怒りの収まらないビリーはグランパに宣戦布告。エドの悪友やビリーの同級生を巻き込み争いはエスカレートする。デ・ニーロと争うビリー役に新鋭オークス・フェグリー、エドの娘役はユマ・サーマン、エドの悪友にデ・ニーロと「ディア・ハンター」以来の共演となるクリストファー・ウォーケンが演じる。同じくグランパの友人ダイアン役は「007/死ぬのは奴らだ」でボンドガールを演じたジェーン・シーモア。デ・ニーロとウォーケンの共演は1978年、本作が2020年制作なので４２年ぶりの共演。ウォーケンは「ディア・ハンター」でアカデミー助演男優賞を見事に獲得、主演のデ・ニーロはその後「ゴッドファーザーPARTⅡ」でアカデミー助演男優賞、「レイジング・ブル」でアカデミー主演男優賞を受賞し大スターになった。42年前ベトナム反戦映画のシリアスなドラマで初共演した名優二人が軽妙なコメディで再共演したところを観るだけでも映画ファンには価値ある作品といえる。
「るろうに剣心 最終章The Final」☆☆☆☆
2012年「るろうに剣心」が公開された。スピーディーな立ち廻りのアクションシーンは衝撃的だった。その2年後に2部作が公開され、大ヒット作となった。そして、5年の準備期間を経て最終章の2部作が公開される。最初に最終章The Final。緋村剣心を姉の仇と狙う雪代縁との究極の対決。レギュラー陣は佐藤健、武井咲、青木崇高、蒼井優、江口洋介そして新加入の縁役に新田真剣佑、回想シーンに剣心の妻役で有村架純が出演している。あらすじには触れませんので、映画館で迫力ある殺陣を見てください。
