奥 義久の映画鑑賞記
2022年5月
*私自身の評価を☆にしました。☆5つが満点です。(★は☆の1/2)
2022/05/02「不都合な理想の夫婦」☆☆☆
「ファンタスティック・ビースト」の最新作でも存在感をみせたジュード・ロウ主演作品。制作年度は2019年と3年前、今まで公開されなかったのは、心理サスペンスで地味な作品だかだろうか?ジュード・ロウ演じる貿易商ローリーは妻アリソンと二人の子供に囲まれ幸せに暮らしていた。ある日アリソンは馬小屋の工事中止から資産が底をついているころを知る。幸せな生活は虚飾の世界で、夫は事実を隠していたことに気づく。理想の夫婦の崩壊の中で描く夫婦像。主人公とアリソン役のキャリー・クーンの熱演は最高だが、物語の結末が中途半端に感じられる。
2022/05/05「ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス」☆☆☆★
ドクター・ストレンジ主役のシリーズ第2作。今回は無数のパラレルワールドに移動出来る少女を守りながら活躍するストレンジを描いている。今回の敵役は異次元の世界のストレンジ自身とアベンジャーズの仲間ワンダが闇の世界に落ち敵対する。ストレンジ役はもちろんベネディクト・カンバーバッチ、元恋人の医師クリスティーンをレイチェル・マクアダムス、ワンダ役をエリザベス・オルセンのレギュラーメンバーが演じている。時空間のスケールアップしたアクションは見ごたえがある。
2022/05/08「マイスモールランド」☆☆☆★
第72回ベルリン国際映画祭/アムネスティ国際映画賞スペシャル・メンションに輝いた秀作。日本に住むクルド人難民一家が難民不認定となり、普通の高校生活を送り成績優秀だった主人公サーリャも大学推薦が駄目になってしまう。父親は在留資格を失くし仕事の不法就労に問われて、入管に拘留されてしまう。子供たちの未来のために父はある決断をする。国家を持たない最大の民族と言われるクルド人は埼玉県に2000人のコミュニティが存在する。この民族にスポットをあて日本の入管法の問題点を鋭く描いている。主人公サーリャを演じた混血のモデル嵐莉菜が映画初出演と思えない好演を見せている。サーリャと心を通わせる聡太役はデビュー作「MOTHERマザー」で数々の新人俳優賞を獲得した奥平大兼が扮し、前作同様の好演をしている。二人の好演を平泉成、池脇千鶴、韓英恵らの演技陣が支えている。ラストのサーリャは父の想いにどうこたえるのか、観客に答えを投げかけているいる終わり方は本作の評価の分かれるところである。
2022/05/09「オードリー・ヘップバーン」☆☆☆★
1953年初主演作「ローマの休日」でアカデミー主演女優賞を獲得し、世界で一番愛される女優となったオードリー・ヘップバーンの初ドキュメンタリー映画。1950年代はエリザベス・テイラー、マリリン・モンロー、ドリス・デイらが人気女優として君臨していたが、全く違う妖精のような可愛らしさでハリウッド映画の伝説的スターとなった。世界の人々から愛されたオードリーの生涯は誰よりも愛を欲していた女性だった。晩年はユニセフ国際親善大使として貧困に苦しむ子供たちを助けるため生涯をささげた。オードリーの知られざる素顔と子供たちへの深い愛情を描いた、心温まるドキュメンタリーである。オードリーの作品を鑑賞してない世代の人々にも見て欲しい。
2020/05/13「シン・ウルトラマン」☆☆☆
「シン・ゴジラ」の制作陣がウルトラマンを描く。日本に巨大怪獣が次々と現れ、怪獣対策室が出来、5人のメンバーが選ばれる。公安から出向の神永新二は怪獣は爆破された時にウルトラマンと合体する。空想特撮映画と名付けられたように1966年のTVシリーズ構成の作りで、怪獣も漫画的作りだが66年代のウルトラマンを知るものには、昔懐かしい作品となっている。現代の子供たちがどう受けとるかは興味深い。出演者が齋藤工、長澤まさみ、田中哲司、西島秀俊らで、アイドルスターの若手でない点は好感が持てる。
「流浪の月」☆☆☆☆
「シン・ウルトラマン」と同日公開の李相日監督の最新作。話題の2作だが、本作は本屋大賞受賞の傑作を名匠李監督が人間の存在感を掘り下げた本格ドラマであり、「シン・ウルトラマン」のSFエンターテイメントは異なる大人向け感動作といえる。撮影監督が「パラサイト」を手掛けた韓国映画のレジェンド、ホン・ギョンビョで、素晴らしいカメラワークも注目して欲しい。物語は15年前家に帰りたくない少女・更紗を自宅に招き入れた孤独な大学生・文。二人の生活は文が誘拐犯ということで終わるが、運命は再び二人を巡りあわせる。更紗には婚約者、文も恋人がいるが、二人の心の絆は強く新たな人生を送ろうとする・・・。更紗には広瀬すず、文には松坂桃李、それぞれのパートナーに横浜流星、多部未華子が演じており、4人の新境地が見られる。本年NO1の日本映画である。
2022/05/16「マイ・ニューヨーク・ダイアリー」☆☆☆
作家を夢見るジョアンナは老舗出版社の編集アシスタントとして働き始める。ジョアンナが担当する仕事はJ・D・サリンジャー宛に届くファンレターの対応。定型文を返送することだけにとどまらず、自らの言葉での返送を始め、目的に向かって進んでいく。主人公ジョアンナを演じるのは、マーガレット・クアリー。上司役のシガニー・ウィーバーの存在感は大きい。
2022/05/18「グロリアス」☆☆☆★
女性解放運動のリーダー、グロリア・スタイネムの半生を描いた作品。若き日のグロリアをアリシア・ヴィキャンデル、40代以降をジュリアン・ムーア。アカデミー賞女優の二人がリレー形式で演じるというユニークなキャスティング。すべての年代の女性にグロリアの勇気ある行動を見て欲しい。
2022/05/20「フォーエバー・パージ」☆☆☆
1年に一晩だけ殺人を含むすべての犯罪が合法となる悪法パージ法を描いた人気シリーズの最新作は、ついにパージが終わりのない無限パージとなる。舞台はテキサス、人種差別主義の過激派がパージの終了を無視して無限パージに突入、メキシコ人や黒人を抹殺していく。メキシコ政府は6時間に限り国境を開放する。牧場主一家とメキシコ移民のカウボーイ夫婦はメキシコ国境を目指す。
今迄のパージ・シリーズ4作は闇夜の闘争だったが、本作は昼間の撃ち合いでカウボーイスタイルなので、B級西部劇映画を見ているような感覚になる。“パージ牧場の決闘”が楽しめる。
2022/05/22「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」☆☆☆☆★
名匠チャン・イーモウ監督の最新作。ニュースフィルムの中にたった1秒写された娘の姿を見る為、田舎町の映画館にやってきた逃亡犯、そこで知り合った孤独な娘は貧しくとも懸命に生きようとしている。文化大革命の時代を背景に映画へのオマージュを感じさせるイーモウ監督の力作。逃亡犯を演じる名優チャン・イーの演技と次世代中国のスターと思えるリウ・ハオツンの新人離れした演技は必見。
2022/05/24「シング・ア・ソング 笑顔を咲かす歌声」☆☆☆★
名作「フル・モンティ」のピーター・カッタネオ監督が実在の軍人の妻合唱団の誕生秘話を映画化。2009年戦況が激化するアフガニスタンに派兵されたイギリス兵の妻たちは、基地で待ちながら心配するストレス解消のため合唱団を結成する。合唱団の歌声は毎年開催される戦没者追悼イベントへの招待状が届く。支えあう仲間たちの感動あふれるドラマが誕生した。合唱団誕生を支えた大差夫人役にクリスティン・スコット・トーマス、合唱団のリーダー特務曹長夫人にシャロン・ホーガンが扮している。
2022/05/25「大河への道」☆☆☆★
日本地図を完成させた偉人・伊能忠敬の地図誕生秘話の映画化。千葉県香取市は郷土の偉人の大河ドラマの作成を企画し、総務課主任の池本がプロジェクトリーダーに決まる。池本は知事指名の脚本家を口説き落とすが、伊能忠敬の秘密を知ることになる。令和と江戸時代の二つの世界で描く痛快エンターテインメント。主演は池本と幕府天文方の高橋景保を中井貴一、脚本家に橋爪功、北川景子、松山ケンイチ、草刈正雄、平田満ら豪華メンバーが脇を固める。
2022/05/28「トップガン マーヴェリック」☆☆☆☆★
1986年製作の名作「トップガン」の続編が2022年5月劇場に帰って来た。若きエリートパイロットの訓練と青春を描いた名作はトム・クルーズをトップスターに押し上げた。トムはこの映画の続編制作権を持ち続け、満を持して世に送り出した。続編では既に引退の年齢でありながら昇進も断り一パイロットとして過ごしてきたミッチェル大佐の最後の仕事を描いている。かつての同僚で将軍となった親友からのオファーであり、新世代のトップガンたちの教官として極秘任務遂行のための特訓だった。そこには、かつての友人の息子も参加しており、ミッチェルとの確執もあった。主人公はもちろんトム・クルーズ、親友の息子にマイルズ・テラー、前作の恋人でシングルマザー役にジェニファー・コネリー、さらには名優エド・ハリスとヴァル・キルマーがゲスト出演している。前作に劣らない究極のスカイ・アクションが誕生した。
2022/05/30「帰らない日曜日」☆☆☆☆★
ノーベル賞作家カズオ・イシグロが絶賛した恋愛小説の傑作「マザリング・サンデー」の映画化。英国の美しい田園風景が広がるティザトン。そこに住む仲良し3家族、シェリンガム家、ニヴン家、ホブディ家の4人の男性は戦死し、唯一残ったポール・シェリンガムはホブディ家の娘エマとの結婚式を控えていた。3家族のランチの時間にポールはニヴン家のメイド・ジェーンと秘めた愛の時間を過ごしていた。遅刻しながらもランチの場所にポールは向かい、ジェーンは一糸まとわぬ姿で屋敷の探索をして時間をつぶしてニヴン家に戻る。そこでジェーンには思わぬ知らせが待っていた。主人公のジェーンを演じたオデッサ・ヤングの演技は高く評価された。ポール役は若手の演技派ジョッシュ・オコナー、ジェーンの雇い主のニヴン家の夫婦役でコリン・ファースとオリヴィア・コールマンのアカデミー賞コンビが脇を固めており、素晴らしい役者たちの演技が愛のドラマの傑作を生みだした。