道上の独り言
「幼年時代の旅行 第9話 セイロン」
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船はセイロン・コロンボ港(現スリランカ)に向かう。
昔海賊が出たと言う島々をくぐり、大海原に出た。やはり海は怖い。
その先には何があるのだろうかと不安になる。
自分がいかに心配性かと言う事に気が付く。
いや、昔の事で情報が無さ過ぎるせいかもしれない。
今は世界中の若者が同じ格好をして、同じ音楽を聴いて、同じ携帯を持つ。
考えている事もきっと同じなんだろう・・・?どんな情報でもいち早く知ることができる。
そういった事柄が逆に未知の国である日本が外国人を魅了している昨今です。
東京のタクシーはカーナビが有っても目的地に辿り着けない。
ましてや外国人にとって日本ほど分かりくい国は無い。
経済大国の日本。世界最大のメガシティー東京(4000万商圏)、
地図を持って自動車を運転?
道路の標識が分かりにくい。世界中を飛び回っている外国人がびっくりするのが日本だ! それはともかくこれから到着する地は僕にとって別の惑星だ。
セイロン紅茶ぐらいしか聞いた事がない。
港には江戸時代のような荷揚げ夫がいて、重そうな荷物をいくつも抱えて往来している。凄い力持ちだ。小兵(こひょう)だが相撲取りとしてデビュー出来るのではないかと思ってしまったほどだ。当時日本の相撲界は決して大きい人ばかりではなかった。
吉葉山、鏡里、栃錦、初代若乃花など体が大きくなくても活躍した力士も多かった。
初代若乃花も荷揚げをやっていた。だから足腰がしっかりしていた。
そのセイロン・コロンボ港の税関を一歩出ると色んな人がお金を恵んでくれと縋(すが)りついてくる。足が胡坐をかいた状態でくっ付いたままの人、頭から脳みそが飛び出ている人(!)。困ってしまった。
町を歩いているとやたらとサファイヤ、ルビーが安い値段で売られている。
闇で両替をしたお金でサファイヤやルビーを買って大金持ちに成った人は沢山いる。今ほど高くないし今ほど偽物も無かった。
偽物を作るより本物を掘り当てる方がかえって安あがりなのかもしれない。
しかもサファイヤ、ルビーを買うとキャッツアイなどおまけで付いてきた。
バブルの頃キャッツアイは大きいものだと何千万円もするものもあった。今では二束三文でしょうが。
世界でジュエリー(貴石)として認められているのはダイヤ、エメラルド、ルビー、サファイヤ、強いて言えば南洋玉(養殖でない、天然真珠)も入る。
それ以外は半貴石としてしか認められず、アレキサンドライトの様に需要と供給によって大きく値段が変わる物が多い。
そういった事も知らず町を歩き、帰りの税関で捕まっている日本人がいた。
あ!3等の大塚さんだ!いつもベージュの半パンツに下駄を履いている早稲田の大学生。まるでボーイスカウトの半ズボン姿に下駄?
顔も下駄のような顔をした本当に人柄の良い優しい人です。
幼稚園でアルバイトをしていて園児と一緒にちょう~ちょ♪ちょうちょ菜の葉にとまれと両手を蝶々の様に振ると父兄が笑い転げるらしい。
僕はこの人が大好きでいつも彼にくっついていたのがちょっとした隙に!
5万円を元手に闇両替を何カ国かの通貨と繰り返す事で27万円にまでなっていたお金を腹巻に隠していたのがばれたらしく真っ青な顔をしていた。
それが没収されるとマルセイユ(最終港)から日本へ強制送還される。
マルセイユでどれだけお金を持っているか調べられ、一銭も無いとわかると当時は強制送還か外人部隊でした。
当時強制送還ともなれば貨物船の物置にぶちこまれて4週間過ごすことになる。当然食事など出ないから缶詰と水を持ち込んで凌ぐようになります。
外人部隊に入隊するとフランス国籍がもらえます。もらえると言っても、アルジェリア戦争の最前線に送られ九死に一生を得て戻ってこられた者だけの話です。
日本領事館に頼んで領事館員に来てもらったが結構揉めていた。
それに当時としては大金です。ほぼ没収が決定していたところ日本領事館員が5時間ほど頑張ってくれてどうにかなったようでした。
船はその後すぐに出発。冷や汗もんでした。
日本のような品の良い税関員は海外で見たことがありません。
渡航者は目立つ格好はタブーです。僕は今でも捕まるような物は一切持っていませんが、面倒くさくなるのであたかもいろんな国へ行きましたというような、べたべた過去の渡航先のラベルが貼られているようなかばんは使わない。
パリの税関でムッシュ!ムッシュ!と呼ばれても知らないふり、無視して歩く。
すると僕の前に回り込んできてムッシュ!セ ブゥ!(貴方だ)と言われたりする。
僕は目線をその税関員の頭から足元へ、足元から頭へと移動させ、何を言っているの?このアンちゃん、というような顔をして英語訛りで言います。
オ!パルドンムッシュ、ジュヌコンプランパ、ラングフランセーズ(フランス語が分からない) イタリアではフランス語でまくし立てます(フランス人に弱い)。
とにかくしょっちゅう外国旅行をしているように思われると
やたらと調べられる場合がよくあるのです。
続く
【 道上 雄峰 】
幼年時代フランス・ボルドーで育つ。
当時日本のワインが余りにもコストパフォーマンスが悪く憤りを感じ、自身での輸入販売を開始。