私の履歴書 NY編 ビジネスインテリジェンス事始め
2023年8月8日 中川十郎
(4)スエ―デン・ルンド大学 ステバン・デジエル博士との運命的な出会い
1990年9月に翻訳に苦労してダイヤモンド社から出版した『CIA流戦略情報読本』の著者H.E.マイヤー氏(元米国国家情報評議会副議長、ウイリアム・ケーシー元CIA長官直属補佐官、元「フォーチユン誌」副編集長)から10月にパリで世界情報会議を開催する。日本代表として参加し、日本総合商社のビジネスインテリジェンス活動について講演して欲しいとの要請があった。パリではベルリンの壁崩壊で情報に対する関心が沸き立っていた。
講演で「私の情報逓増理論」を発表した。その情報理論とは「情報は物と違い、相手に与えてもなくならない。逆に相手からも情報を貰えるので情報を与えることにより手持ちの情報は増える」というものである。参加者はこの理論に非常な興味を持ったようである。
一番前の席で聞いていた初老の参加者が手を挙げた。「この情報逓増理論は独創的で非常に感銘を受けた。自分はスエ―デン・ルンド大学大学院でビジネスインテリジェンス講座を担当している。この講座で貴殿の情報逓増理論を中川情報理論として紹介したい。了承してほしいとのことだった。昼食時になると、意見交換しようと自分の席に筆者を誘ってくれた。
デジエル博士は1972年に世界で初めてビジネスインテリジェンス研究講座をルンド大学大学院に開講した経済経営情報研究の世界の第一人者であることが後でわかった。
一度、ルンド大学に招聘するので中川情報理論と日本の総合商社の国際的な情報収集、活用法について詳しく大学院生に講義してほしい。日本のNEC小林会長のC&C理論(コンピューター通信理論)に関心を持っており、日本の情報産業にはかねてから関心を持って研究しているとのことだった。翌年1991年4月にルンド大学での筆者の講演が実現。
92年2月にはデジエル博士は遠路日本を初訪問し、日本ビジネス競合情報専門家協会発会式で「ヨーロッパにおける競合情報とその管理」と題し基調講演をいただいた。
この出会いが筆者のその後の情報研究でデジエル博士に一生お世話になるきっかけとなった。このご縁により、デジエル博士の紹介で北京、香港、シドニー、チリ、クロアチアなど世界各国での国際情報会議に筆者を講演者として招聘。世界のビジネス情報研究者との人脈確立のお手伝いを頂いた。デジエル博士よりは故郷の風光明媚で世界的に有名なクロアチアのドブロニックの別荘に何回か招待されたが、実現しないうちに博士が2004年に94歳で逝去されたことは誠に心残りであった。
筆者が国際経済経営情報研究に米コロンビア大学に2002~2003年留学したのを機に、ルンド大学の情報学名誉博士号を授与するので論文を執筆するようにとのことで準備中であったが、デジエル博士の急な逝去で名誉博士号が幻となったのは誠に残念であった。