奥 義久の映画鑑賞記
2024年1月
*私自身の評価を☆にしました。☆5つが満点です。(★は☆の1/2)
2024/01/05「コンクリート・ユートピア」☆☆☆★
大災害で廃墟となったソウル。唯一崩落しなかったマンションに住民と近隣から逃げ延びて来た人々がいた。やがて住民と避難民の対立、食糧危機等から住民たちは避難民排除を決める。住民代表にはある事件をきっかけに職業不明の中年男ヨンタクが選ばれる。権力者になったヨンタクは独裁的になっていくが、不信感を抱いたミョンファは男の正体に気づく。極限状態の中で見せる人間の本性を描いた意欲作。難役のヨンタクには韓国のトップスター、イ・ビョンホンが演じている。ミョンファにはパク・ボヨン、ミョンファの夫には「梨泰院クラス」で人気スターとなり、「マーベルズ」でハリウッドデビューしたパク・ソジュンが扮している。災害シーンはない人間ドラマ重視のディザスター映画の傑作との高い評価を得ている作品である。
2024/01/07「エクスペンダブルズ ニューブラッド」☆☆☆
消耗品軍団といわれる最強の傭兵部隊のシリーズ第4作。サブタイトルのニューブラッド通り新しいリーダーと新しい仲間が加わってリーダー・バーニー・ロスの仇と奪われた起爆装置での核攻撃阻止に動く。新チームから外されたクリスマスのジェイソン・スティサムと新リーダーのミーガン・フォックス、冒頭で戦死?するバニー・ロスにシルベスター・スタローン、他にドルフ・ラングレン、アンディ・ガルシアが出演している。しかし、シュワルツェネッガー、ブルース・ウィリス、メル・ギブソンなどがいなくなり、小粒なメンバーになってしまい、映画もB級作品になってしまった。
2024/01/13「アクアマン 失われた王国」☆☆☆★
DCコミック映画の最新作。はるか昔に封印された邪悪な海底王国が、何者かによって封印が解かれようとしていた。海底の平和と陸に住む人々の脅威を取り除くためアクアマンが立ち上がる。見てて楽しい作品だが、マーベラスとDCのアメコミ映画が多くなりすぎ、消化不良気味。但し、本作は海中アクションということで目新しさもある。アクアマンは、前作同様ジェイソン・モモアが演じている。
2024/01/14「IL VOLO in 清水寺」☆☆☆
2022年夏に行われた古都・京都清水寺でのイル・ヴォーロ一夜限りのライブ映像。オペラの名曲「誰も寝てはならない」から始まり、ミュージカルの名曲「マリア」、カンツォーネの名曲「オー・ソレ・ミオ」、大ヒット曲「グランデ・アモーレ」等々の全25曲を圧巻の歌声で感動させる。清水寺の立地条件から撮影条件等も難しく、観客の姿もない。幻想的な清水寺を強調したかったのか遠隔での寺の全体映像が多くなりすぎていた感じを受ける。歌声の素晴らしさは言うまでもないが、ライブ映像としては前回の南イタリアの世界遺産マテーラの映像には及ばなかった。
2024/01/15「ある閉ざされた雪の山荘で」☆☆☆★
三重のトリックが仕掛けられている東野圭吾の名作がついに映画化された。舞台は高原の山荘。招かれた7人は全員俳優、4日間の合宿生活の中で謎解きゲームを解明したものに次回公演の主役の座が与えられる。舞台設定は大雪で閉ざされた山荘で起きた殺人事件。いつしかフィクションか本当の殺人事件かわからなくなってくる。7人の出演者は今回単独初主演のジャニーズWESTの重岡大毅、準主演格が間宮祥太朗、中条あやみ、脇を固めるのが、岡山天音、西野七瀬、堀田真由、戸塚純貴。山荘に招待されてない仲間で本事件に関わる元女優に森川葵が扮している。原作者のコメントの中で「ネタバレなしでお願いします。」とあるように、ラストシーンにも驚かされる上級サスペンス映画。
2024/01/16「葬送のカーネーション」☆☆☆
両親を戦争で亡くした少女ハリメは祖父と一緒に、病でなくなった祖母の亡骸を祖父が約束した故郷に埋葬するため棺とともに国境を目指す。トルコの原風景の中で、中東の現実を少女の視点で描いている。ハリメ役のシャム・シェリット・ゼイダンは極端に台詞が少なく映画初出演ながら見事な表情の演技を見せている。将来はプロの女優を目指しているということで楽しみな存在である。
本作の監督ベキル・ビュルビュルは小津安二郎を敬愛しており、本作のワールドプレミアに東京国際映画祭を選んだ、その後モロッコの映画祭でグランプリ、ソフィア国際映画祭で審査員特別賞を受賞するなど作品の評価は高いが一般受けはしないと思う。
2024/01/20「僕らの世界が交わるまで」☆☆☆★
「ソーシャル・ネットワーク」の個性派俳優ジェシー・アイゼンバーグの初監督作品。DV被害にあった人のシェルターを経営する母エヴリンとネットのライヴ配信で人気の息子のジギー、2人のジェネレーションギャップと理想と現実の食い違いを描いたヒューマンドラマ。昨年のカンヌ国際映画祭で批評家週間のオープニング作品に選ばれた傑作。今、最も信頼あるA24スタジオの作品ということも見逃せない。主役のエヴリンには名優ジュリアン・ムーア、息子ジギーにフィン・ウオルフハード、ジギーの恋焦がれる同級生に新星アリーシャ・ポーが演じている。
「サン・セバスチャンへ、ようこそ」☆☆☆★
名匠ウディ・アレン監督の最新作。2011年の大ヒット作「ミッドナイト・イン・パリ」(オーウェン・ウィルソン、レイチェル・マクアダムス、マイケル・シーン、キャシー・ベイツ、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール、エイドリアン・ブロディ等のスターが競演)、2013年のケイト・ブランシェットがアカデミー主演女優賞を獲得した「ブルージャスミン」(共演アレック・ボールドウィン、サリー・ホーキンス)以降に目立った作品がなかったが、今回は風光明媚なビスケー湾の真珠と呼ばれるリゾート地を舞台にしたラブコメディ。アレン監督の得意分野だけに期待大といえる。主人公モートもアレン自身を投影させ、ヨーロッパの名作へのオマージュを盛り込んでいる。モート役は当初若い男性をイメージしていたが朋友の元キャスティング・ディレクターの推薦でアレン映画の常連脇役ウォーレス・ショーンが抜擢された。ウォーレスの妻スーにジーナ・ガーション、スーの愛人にルイ・ガレル、モートが心をときめかせる女医にエレナ・アナヤが扮している。夢の中の死神役でクリストフ・ヴォルツがゲスト出演している。前述の2作品と比べると出演者が地味で、主演のウォーレスはミスキャスト、座長を務める器ではなかった。アレン作品の魅力は舞台設定+アレン脚本の洒落た会話+豪華俳優陣だが、最後のパーツが欠けてしまったのは痛かった。本作の時にアレンは85歳、俳優たちから参加する魅力ある監督ではなくなってしまったかもしれない。
2024/01/21「ゴールデンカムイ」☆☆☆★
野田サトル原作の人気漫画の実写化。アイヌの埋蔵金を巡り,三つ巴の争いが始まる。203高地の生き残りで不死身の杉元と呼ばれる
帰還兵とアイヌの少女アシリパ、陸軍最強と呼ばれる鶴見中尉率いる第7師団、生きていた元新選組鬼の副長・土方歳三らのサバイバルバトルバトルは見ごたえがある。原作のイメージを壊さず、アイヌの民具、衣装も伝統工芸家のサポートにより本物が使われている。唯一気になったのは、脱獄王・白石のシーンがコメディタッチで、厳しい大自然をバックにしたシリアスなアクションドラマに水を差している。原作を読んだ事がないので、わからないが白石のキャラクターが原作でもそのように描かれているなら仕方ないかもしれない。主人公を演じる山﨑賢人、鶴見中尉の玉木宏、土方歳三の舘ひろし、ヒロイン・アシリパ役の山田杏奈、白石役の矢本悠馬、脇を固める眞栄田郷敦、大谷亮平ら俳優陣のアンサンブルも素晴らしく、誰もが楽しめるアクション。エンターテインメント作品に仕上がっている。今回は序章なので続編も楽しみである。
2024/01/26「哀れなるものたち」☆☆☆☆☆
第80回ヴェネチア国際映画祭近似色賞受賞作、本年アカデミー賞11部門ノミネートの最高傑作。「女王陛下のお気に入り」の名匠ヨルゴス・ランティモス監督が再びエマ・ストーンとタッグを組んで描いたのは、ファンタジーな冒険物語で社会風刺も織り交ぜた作品。物語は、自殺したベラを天才外科医ゴッドが生き返させる。
ベラは成長するにつれて「世界を自分の目で見たい」と放蕩ものの弁護士ダンカンと出奔する。リスボン、アレキサンドリア、パリで人間として、女として成長していく。ベラ役のエマ・ストーンが「ラ・ラ・ランド」でアカデミー賞を獲得したが、本作でも2度目の受賞を得られると確信する演技である。生き返った当初の赤ん坊的な人間がだんだんと大人になっていく成長やお金を稼ぐためにパリの娼館で働くことになったベラの濃厚なSEXシーン等、エマ熱演ぶりはすごい。ゴッド役ウィレム・デフォー、ダンカン役マーク・ラファロのアカデミー賞ノミネート常連の芸達者が共演し、好演している。まだ1月で気が早いが本年ベスト1候補作品。