奥 義久の映画鑑賞記
2024年2月
*私自身の評価を☆にしました。☆5つが満点です。(★は☆の1/2)
2024/02/04「Silent Love」☆☆☆★
「ミッドナイトスワン」の鬼才・内田英治がオリジナル脚本を書き監督した最新作。声を失い、夢もない青年・蒼が光を失った盲目のピアニストの夢を応援する。切なく静かなラブストリーが心を揺さぶる。主演は山田涼介と浜辺美波、人気スターの若手二人が難役を好演している。
「ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人」☆☆☆☆★
18世紀のフランス宮廷を59年間国王として在位したルイ15世の最期の愛人として名高いジャンヌ・デュ・バリーの半生を描いたエンターテインメント大作。ヴェルサイユ宮殿のロケーションやシャネルが製作した美しいドレスやアクセサリーが18世紀のフランス宮廷を再現している。ルイ15世役のジョニー・デップが自身初の全編フランス語で演技を挑んでいる。また、監督と脚本を手掛けているマイウェンが自らジャンヌ役を演じている等々の話題が尽きない作品であり、フランス本国では興収10億円の大ヒットを記録した。デュ・バリー夫人の最後はフランス革命により、ルイ16世、王妃マリーアントワネットとともに処刑され、波乱の人生の幕を閉じたが、本作で描くのは貧民の私生児から国王の愛人にまで登りつめた野心と栄光の物語である。
2024/02/07「ダム・マネー ウォール街を狙え!」☆☆☆
2020年から21年にかけてアメリカの金融マーケットを揺るがした大事件が起こった。小口の投資家たちが倒産間近と言われたゲームストップ社の株を買いさえ、空売りするヘッジファンドに大損害をあたえた。本作はこの実話を映画化したものである。
2024/02/10「梟」☆☆☆☆
朝鮮王朝の第16代国王仁祖の時代、清から戻った世子が病にかかり、命を落とした。全身は黒く変色し、七穴からは鮮血が流れ出しており毒殺のようであった。この朝鮮王朝の実録を大胆なフィクションを交えて製作したのが本作である。本作は2022年に韓国映画史上年間最長上映記録作り、2023年の韓国内映画賞25冠に輝いた歴史エンターテインメントの傑作である。物語は盲目の天才はり師ギョンスが、その才能を認められ宮廷で働くことになる。
ギョンスの能力が認められ御医イ・ヒョンイクとともに世子の治療をすることになる。盲目と安心してギョンスの前でヒョンイクは王の命令で政敵の世子を暗殺する。ギョンスは昼は完全な全盲だが、暗闇では僅かに見える昼盲症だった。ギョンスは真実を告げる為命を賭ける事になる。盲目のギョンスを演じるのは韓国の若手演技派リュ・ジョンヨル、国王仁祖にユ・ヘジンが扮している。
上質な歴史サスペンスが楽しめる作品です。
2024/02/11「夜明けのすべて」☆☆☆
瀬尾まいこ原作小説を「ケイコ目を澄ませて」で各映画賞を獲得した三宅唱監督が映画化。PMS(月経前症候群)で悩む藤沢さんが、会社の同僚山添くんがパニック障害を抱えていると知り、同士のような気持ちが芽生える。自分の病状が良くならなくとも相手を助ける事が出来るのではないかと思うようになる。日々の暮らしを淡々と描いているだけで、大きな事件があるわけではなく、藤沢さんも母の介護のため山添くんと別れる事になるが、人の出会いの素晴らしさを教えてくれている作品である。NHKの連続TV小説で夫婦役を演じた松村北斗と上白石萌音が映画初共演で息の合った演技を見せている。
「カラーパープル」☆☆☆☆★
1985年スティーブン・スピルバーグが映画化し、アカデミー賞10部門にノミネートされた名作。残念ながらアカデミー賞は無冠に終わったが、観客に支持され5ヶ月のロングラン公演の大ヒット作になった。2005年にはブロードウェイで舞台化。本作はそのミュージカル版の映画化である。製作にはスピルバークも参加している。本作の原作は1982年にアリス・ウォーカーが発表した作品で、女性に対する暴力的支配と人種問題をテーマにして、黒人女性として初めてピューリッツア賞を受賞した。物語は1909年ジョージア州沿岸で14歳の少女セリーと妹ネティの姉妹の暮らしから始まる。セリーは父親から(本当の父でないことが最後にわかる)性的関係も強要され、二人の子供を産むが父親が連れ去り、自らはミスターの後妻に売られる。当時の黒人社会は女性を支配し奴隷のように扱っていた。ネティは父親から逃れて姉を訪ねるがミスターの要求をはねのけたため追い出される。セリーの苦労が長く続くが、1936年ミスターの元恋人シュグの力を借りメンフィスへ旅立つ。1947年最愛の妹と子供たちとの再会で大団円の結末を迎えるまでのセリーの半生を描いている。セリー役はブロードウェイでも2007年から8年にかけてセリーを演じたファンテジア・バリーノ、シュグにはタラジ・P・ヘンソン、ミスター役はコールマン・ドミンゴ、少女時代のネティには「リトル・マーメイド」で主役を演じたハル・ベイリーが演じている。他にH.E.R、シアラの人気シンガーソングライターが共演している。1982年の名作「愛と青春の旅立ち」で鬼軍曹役を演じたルイス・ゴセット・Jrがミスターの父親役で出演しているのも私には懐かしかった。最後にミュージカル映画の代表作は「ウェストサイド物語」「サウンド・オブ・ミュージック」が双璧で3位が「オペラ座の怪人」本作を4位、5位が「マイ・フェア・レディ」としました。
2024/02/17「ボーはおそれている」☆☆☆☆★
世界的第ヒット作「ミッドサマー」の奇才アリ・アスター監督の第3作はユーモアと悪夢の傑作。母親の突然死の連絡に帰省するボーだが、途中のアクシデントから思わぬ展開に導かれていく。優柔不断な男ボーを演じるのは「ジョーカー」でアカデミー賞を獲得し、「ナポレオン」で英雄を見事に演じたホアキン・フェニックスが今度は情けない男を怪演している。ボーの帰省の旅が観客をファンタジーワールドに連れて行く。
「レディ加賀」☆☆☆
加賀温泉町おこしプロジェクトは若女将たちのタップダンス。10年前に加賀温泉を盛り上げるために結成した女将たちのプロモーションチーム「レディ・カガ」をヒントに企画されたエンターテインメント作品。人気絶頂の小芝風花が主人公を熱演している。
2024/02/23「コヴェナント 約束の救出」☆☆☆★
「シャーロック・ホームズ」シリーズ、「コードネームU.N.C.L.E.」等のアクションエンターテインメント、実写版「アラジン」のガイ・リッチー監督が今までの作風とは変わった戦争映画に挑戦した。キンリー曹長は部隊を率いて爆破物製造工場破壊に向かうがタリバンの罠にはまり、仲間は殺されてしまう。重傷を負ったキンリーを抱えて通訳のアーメッドが命がけで米軍基地まで連れて行く。7週間後キンリーは米国の妻子の下に戻ったが、アーメッドがタリバンのお尋ね者として命を狙われている事を知り、彼を救うため単身アフガンに戻る決意をする。本作は実話にインスパイアされたフィクションだが、実話通り、キンリーとアーメッドの信頼関係、暗黙の約束を実行する固い絆を描きながら上質な社会派サスペンスに仕上げている。主人公たちを演じたジェイク・ギレンホールとダール・サリムの好演も見逃せない。この出来事から数か月後米軍はアフガンから撤退し、タリバン政権が出来る。残されたアフガン通訳とその家族3000人が裏切り者とされ、処刑された事実が悲劇として生まれている。映画同様とは言わないが、何故米軍撤退時にこの協力者たちを救えなかったのだろうか、残念な結果である。今、世界平和の不安はロシアの暴走、中国共産党の動きが注目されているが、タリバン政権の恐怖も考えるべきである。本作を鑑賞して少しでも知って欲しい事実がここにあります。
2024/02/24「ネクスト・ゴール・ウィンズ」☆☆☆★
2001年のワールドカップ予選で米領サモアチームは31対0の大差の惨敗をした。2014年のブラジル大会予選で初勝利するまでのエピソードはドキュメンタリー映画になったほどの奇跡の事実である。この実話を「ジョジョ・ラビット」でアカデミー賞を獲得した奇才タイカ・ワィティティ監督がスポーツ・コメディとして作りあげた。主人公のサッカー・コーチ役でマイケル・ファスベターが出演している。家族で楽しめる作品である。
「マダム・ウェブ」☆☆☆★
マーベル作品の新シリーズ、マダム・ウェブの誕生の物語である。これまでのマーベル作品のヒーローものとは異なり、ヒーローとして戦う能力が優れているわけではない。主人公キャシー・ウェブは救急救命士として働く普通の女性だが、ある事故が原因で予知能力を持つ事となり、その能力と聡明な頭脳で作戦を立てて悪と対決する。本作ではマダム・ウェブの仲間となる3人の少女との出会い、その3人を狙うウェブの最初の敵との戦いを描いている。ウェブを演じるのは、「フィフティ・シェイズ」シリーズでブレイクしたダコタ・ジョンソン。面白いシリーズが誕生した。
2024/02/27「瞳をとじて」☆☆☆☆☆
歴史的名作となった「ミツバチのささやき」をデビュー作で発表したビクトル・エリセは、その後10年毎に「エル・スール」「マルメロの陽光」を発表した。3作目から31年後に本作を自身の集大成の作品としてカンヌ国際映画祭で発表。映画は主人公の映画監督ミゲルが22年前の失踪した俳優フリオの情報を得て、フリオらしき人物のいる高齢者の養護施設を訪問する。フリオは記憶喪失でミゲルの事も覚えていなかった。ミゲルは施設に留まりフリオと向き合う決心をする。エリセ監督の人生と映画愛が詰まった傑作である。「ミツバチのささやき」の主人公アナ・トレントが本作で50年ぶりにアナという女性を演じているのも話題と言える。
2024/03/29「落下の解剖学」☆☆☆☆☆
第76回カンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作である。今年のアカデミー賞作品賞候補にもノミネートされているサスペンスの傑作である。雪山の山荘で男が転落死する。事故死と思われたが妻のベストセラー作家サンドラが殺人犯として捕えられる。現場に居合わせたのは、視覚障害のある一人息子だけ。検察は裁判で夫婦の秘密や嘘を暴いていく。憎らしいくらいに容赦ない検察の追求は、見ごたえがあり、後半は上質な法廷サスペンス劇となっている。サンドラ役のザンドラ・ヒュラーの静かな演技と自我を爆発させる熱演は本年アカデミー主演女優賞の有力候補であり、賞レースはエマ・ストーンとの一騎打ちであろうと思える。観客も真実がわからなくなるストーリー展開にも引き付けられる。本年のベスト作品の1本である。