2024年04月26日発行
世界の最新トレンドとビジネスチャンス
第743回
「マイクロソフトの強かな対日AI戦略」
浜田和幸
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去る4月10日、アメリカのIT大手マイクロソフトは生成AIの需要拡大に向け、今後2年間で29億ドル(約4400億円)を日本事業に投資する方針を発表しました。
生成AIに不可欠なデータセンターを増強するほか、研究拠点を新設するとの内容で、日本への投資としては最大規模になる見込みです。
最先端の「GPU」と呼ばれるAI向け半導体を導入するとも言います。
また、東京都内に研究拠点を新設し、AIやロボット工学の研究を通じて生産性の向上など日本社会の直面する諸課題の解決にも取り組む姿勢を鮮明に打ち出しました。
更には、AIを活用できる技術者の育成にも乗り出し、非正規雇用の人や女性を含めたいわゆる「学び直し」やAIの開発者を対象にした研修プログラムを実施することで、今後3年間で300万人のスキルアップを支援するとのこと。
これらの新機軸に加えて、日本政府との間でサイバー攻撃に関する情報の共有やセキュリティ対策などの分野でも内閣官房との連携を強化すると発表しました。
こうした新たな日本市場への参入強化策はワシントンを訪問していた岸田首相と面談した、マイクロソフトのブラッド・スミス副会長兼社長が直接提示したものです。
これに対し、岸田首相は日本への新規投資の表明に謝意を示し、「デジタルインフラを持つグローバル企業との連携は日本の産業全体にとって重要極まりなく、引き続きの協力に期待する」と応じました。
要は、日米両国が新技術の開発で連携を深めることで同盟関係を一層強化することにゴーサインを出した形です。
その背景にはアメリカ政府からの意向が働いていることは間違いありません。
これまでもマイクロソフトは日本政府のAI政策を事前に把握し、「Azure OpenAI Service」など、先手を打つ形で対日投資を進めてきているからです。
スミス副会長は日本への投資を拡大する理由については熱を込めて語っていました。
曰く「日本は巨大な技術基盤を持っているが、高齢化が進み、人口も減少している。今こそ、AIの力を活用する時だ。日本の未来にとって不可欠な投資になると信じている」。
岸田首相をはじめ、政府自民党の幹部の間でも、しばしば来日するスミス氏への信頼と期待は大きいものがあります。
電子情報技術産業協会(JEITA)によれば、日本国内における生成AIに関するサービスなどの需要は2030年には1兆7700億円と予想され、2023年比では15倍に拡大する可能性を秘めている模様です。
マイクロソフトに限らず、アマゾン・ウェブサービスやグーグルなども日本進出と投資を加速させています。
とはいえ、経済安全保障の観点からも、日本発のデータは日本国内で安全に処理、活用される必要があることは論を待ちません。
そのため、経済産業省では中国やロシアからの不正アクセスを防止する意味でもサイバーセキュリティ対策に力点を置く政策を打ち出しています。
この面でも、マイクロソフトは対日売り込みが極めて巧みです。
その甲斐あってか、岸田政権はこうした科学技術分野での日米協力に積極的な支援を惜しまぬ姿勢を見せています。
学術機関に止まらず、2024年末までには企業、特に中小零細企業におけるAI導入と開発の推進要因と課題の分析に関する総合的な報告書を作成し、G7各国政府とも共有する方針です。
マイクロソフトを筆頭にアメリカのIT企業は続々と日本市場への進出を加速させています。
少子高齢化の進む日本が生き残るには社会のAI化が欠かせないとの売り込みが功を奏した形に違いありません。
しかし、アメリカ発のAIに全てを委ねてしまっていいのでしょうか。
ここは一歩踏み止まって、どこまで日本的価値観を活かしたIT社会に進化させることができるのか、我々日本人自身が新たな活路を見出す努力を強化する時だと思います。
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