第一章 亀裂 ⑤フミの性格 フミも一本気だった。思うことを歯に衣を着せずに相手にぶつける。 そんなところは、勝と申し合わせたように酷似している。 結婚する前の若い二人は、お互いのそんな似た者同士といった雰囲気を好もしく思いあったものだ。 いいかげんや曖昧や、無責任なおべんちゃらやウソ偽りを平気でやりとりする人間ばかりなので、周りの思惑や打算など一切かえりみずに思ったままを喋る人間は清々しく貴重な存在だと、お互に 認めあったのである。 フミは六歳年上の勝を頼もしく思った。 とりわけ、営業マンとして積極果敢に動いて、お得意様を着実に増やしてゆく勝にすべてを賭けてもいいと心に決めたのである。 昭和42年(1967年)の4月、二人はほんのうちうちの友人や仲間に祝福されて結婚した。 忘れもしない、仏滅の日だった。 墨田区民会館で式を挙げた。 会場も仏滅のせいで空いていたし、勝はまるで結婚式のない仏滅の日にやるのだから、費用を値引きしてくれと、こっそり交渉もしたらしい、さすが敏腕の営業マンである。 勝は25歳、フミ19歳、ハツラツとしたカップルだった。 決して豊かではなかったが、どんな困難や苦労にもめげずにいきいきとやっていける健やかな夫婦に映った。 結婚してすぐ、フミは勝が、一本気というよりはかなり強情でガンコ、それでいてかなりのはにかみやであることを知った。 どんな時でも勝は、自分から周囲に気軽に声をかけたり面白いことを言って何とか人を笑わせようとするが、それはある種の自己防衛本能のためではないかと思った。 つまり、むやみと他人を自分の内部に踏み込ませることを防ぐために、あるいは、自分の考えていること、したいことを攪乱されたくないための予防線だということだ。 勝は、ありのままの自分を見られるのを好まない。 そこで半歩一歩と前に出て、相手の関心を自分から逸らそうとすののだ――――。 渥美清主演の映画”寅さん“は昭和44年(1969年)に第一作が 登場するのだが、たちまち勝は周りの者から、「まるで寅さんそっくりだな」と、からかわれるようになるのだ。 でも、フミにとっては、とにかく体をこまめに動かして働きまわる 勝が良いダンナ様であることは確かだった。