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        2024年7月28日 

        話のタネ

         トランプ2.0

                元国連事務次長・赤坂清隆

         

        前略、

        7月21日、バイデン米大統領が今年秋の大統領選挙からの撤退を発表して、選挙戦は混沌としてきました。カマラ・ハリス副大統領対トランプの対決の構図が固まりつつあるようです。これまで、たくさんの有識者やメディアが、バイデン大統領との対決を前提に、もしトランプが再選されたら、という「もしトラ」を語ってきました。トランプの再選を望まない「だめトラ」の意見が多く見られていますが、他方では、トランプ再選でも状況はあまり変わらないだろうと見る冷めた見方もあります。今回の「話のタネ」では、そのような有識者やメディアの論調を拾ってみたいと思います。

        そもそも選挙の予測というのは難しいですね。政治外交の世界では「一寸先は闇」の要素が強いですから、専門家による予想や予測が外れることはよくあります。たとえば、2016年の米大統領選挙直前に、フランシス・フクヤマ・スタンフォード大教授が、東京の青山学院大学で行った講演をよく覚えています。「もしトラ」の質問が出て、同教授は、「そんなことにはならないと思うが、たとえ実現しても、イタリアのベルルスコーニ首相のような指導者になるのではないか」と答えました。すなわち、道化役としての指導者であっても、政策には大した影響は出ないのではないかということでした。

        ところがどっこい、実際にトランプ政権が成立して、ずいぶんと大きな変化が起き、その影響は甚大でした。当時の記憶を新たにしてみましょう。

         

        大きな政策転換は、特に外交面で顕著でした。環太平洋パートナーシップ(TPP)協定からの離脱、気候変動に関するパリ協定からの離脱、WHO(世界保健機関)およびユネスコからの脱退、国連人権理事会からの離脱、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に対する支援打ち切り、国際司法裁判所(ICJ)との国際合意からの離脱、イラン核合意の不承認、イスラエルにおける米大使館のテルアビブからエルサレムへの移転、北朝鮮に対する「戦略的忍耐」政策の変更、対キューバ政策の転換など、次から次へと、「アメリカ・ファースト」の名のもとに、国際的な合意や多国間協力体制への攻撃が相次ぎました。国連総会でも、「アメリカ・ファースト」を繰り返し、グローバリズムのイデオロギーを拒絶し、愛国主義のドクトリンを抱擁するとして、多国間協力体制に背を向けました。北大西洋条約機構(NATO)からの脱退もほのめかす始末でした。

         

        思い出すだにぞっとしますが、「トランプ2.0」では、このような政策転換がまた繰り返されるのでしょうか?特に、気候変動に関する国際的な協力の動きがストップすることが懸念されます。わたし自身の経験でも、2001年、アメリカがクリントン民主党政権からジョージ・W・ブッシュ共和党政権に変わったとたんに、気候変動交渉が事実上ストップしたことを思い出します。アメリカ代表が昨日まで同じグループの仲間だったのに、一転、何も語らなくなりました。トランプ前政権は、パリ協定から離脱したわけですが、バイデン政権になって復帰したのに、トランプ2.0はまた脱退騒動を繰り返すのでしょうか?

         

        このような苦い思い出が多くの人に共有されているものですから、「だめトラ」論の舌鋒はするどいものがあります。マルガリータ・エステべス・アベ・シラキュース大学准教授は、アステイオン100で、トランプ政権が2017年にふたを開けると、「まったく倫理観が欠如した大統領であり、

        私腹を肥やすことに熱心で、白人至上主義者らに親近感を

        表明する異常な政権であった」と総括しています。

        そして、今年の選挙には、米国の民主主義の存続のみならず、欧州そして東アジアの安全保障体制の存続がかかっていると警鐘を鳴らしています。

         

        英国のファイナンシャル・タイムズ紙は、「欧州はトランプとどのように交渉すべきか」と題する記事(2024年2月25日付)で、トランプはカネの亡者として対応するのが

        良いと勧めています。「トランプは多少のカネのために欧州を売り飛ばすことをいとわない。だが、多少の金を出してやれば、売り飛ばさないよう説得することもできる」「ここにいるのはごく平凡な損得勘定にどっぷりつかった人物だという事実を受け入れることだ。カネで動く人物なのだ。それも法外な金額でなくてもいい」「思考力を鍛えてきた政治階級のひとびとが『権威主義的』とか『孤立主義者』といった

        大仰な用語を使って、実は根がケチなだけの人物のことを論じている」と手厳しい批判の論調を展開しました。

         

        トランプ政権下で国家安全保障担当の大統領補佐官を

        務めたジョン・ボルトンは、同政権とたもとを分かったあと厳しいトランプ批判に転じ、「トランプは独裁者のカモになる」との記事を文藝春秋2024年6月号に掲載しています。彼は、トランプがNATOからの離脱を辞さない構えで、防衛費の増額を同盟国に要求するとともに、ウクライナへの支援も断ち切る可能性があると指摘しています。トランプはおべっかを使われるのが好きで、「ごますりが効く」人物なので、敵対国が彼の無知につけこみ、米国の同盟国に不利益をもたらすことを心配しています。トランプには国のためという発想はなく、自分にとって何が利益になるのかばかりを常に考えているが、独裁者になれるほど利口ではないと、突き放した批評をしています。

         

        佐々江賢一郎元駐米大使は、本年3月8日に日本記者クラブで行った会見で、「もしトラ」の場合のに起きうるシナリオとして、米国の国際的モラル・リーダーシップの劣化(リベラルな国際秩序やマルチ体制へのダメージ)、中露北朝鮮などの権威主義国との緊密な関係、同盟国、とくにNATOとのあつれきを挙げました。トランプが原則、価値を外すときは、日本としても率直に対応する必要があると指摘しました。

         

        キャノングローバル戦略研究所理事・特別顧問の宮家邦彦氏は、「もしトラ」外交は、新モンロー主義であると主張しています。2024年6月13日付の産経新聞紙上のワールド・ウオッチで、トランプ外交とは、衰えを自覚し始めた超大国の米国が、建国当初の孤立主義に復帰しようとする衝動だと見なしています。トランプ外交の対外的関与は、すべて彼の判断による選択的なものとなり、中露イラン等にとっては朗報であろうが、同盟国にとっては脅威となる、米国の同盟国は、その軍事介入を必要とする場合でも、それが「米国」ではなく、「トランプ氏個人」にとって利益となることを繰り返し説く必要があるだろうと慨嘆しています。

         

        このように、「もしトラ」が本当に実現した場合を心配する声は、巷に満ち溢れています。トランプは、台湾を本気で守る気があるのかどうかを心配する声もあります。わたしなどは、国連や他の国際機関への米国の関与が大きく減少することを恐れます。気候変動問題も、前述の通り、トランプ2.0政権のもとでは一切動かなくなるでしょう。COP(気候変動枠組み条約締結国会議)は、死に体となること必至です。すでにウクライナ戦争やイスラエル・ガザ戦争などで機能不全が指摘されている国連を中心とする多国間協力体制が一層揺らぎ、アメリカ独自による、国際法無視の、一国単独主義がはびこることになるのが懸念されます。国際法無視の慣行は、すでに、北朝鮮、ロシア、中国、イスラエルなど増え続けているわけですから、これにアメリカが加われば、法の支配に基づいたリベラル国際秩序が立ち行かなくなります。

         

        他方で、そんなに心配することもないという冷めた論調もあります。

         

        ジャーナリストの会田弘継共同通信社客員論説委員は、バイデンとトランプのどちらが勝利しようが、政策選択の余地は限られるとして、「もしトラ」議論は無意味だとの主張をしています(6月15日付週刊東洋経済)。関税、インフラ、半導体、薬価などの経済や社会政策では、バイデンであろうがトランプであろうが大差がなくなってきているとの指摘です。対立しているのは、不法移民対策、温暖化対策、学生ローン免除策ぐらいですが、大票田たる無党派層を引きつけるためには,トランプ寄りの政策をとるほかないとみています。バイデンをカマラ・ハリスに置き換えても通じる論調でしょう。

         

        杉山晋輔元駐米大使は、文藝春秋本年5月号の「トランプ前大統領は気配りもできる」との記事で、トランプは「ディール」にこだわりが強く、ビジネスマンのように損得勘定を前提として外交に臨む、と指摘しています。日本に対し、「農産物を買ってくれ」と迫ってくる可能性はあるが、関税面では2019年に締結された日米貿易協定があるので、過度に心配する必要はないと述べています。7月22日付の日経新聞上でも、杉山大使は、トランプは国際協調を軽視する面があるが、同盟国に求めているのは、米国に甘えず、責任を果たせということであり、こちらがやるべきことをやればトランプは防衛義務を果たすはずだと見ています。

         

        渡部恒雄笹川平和財団城跡フェローも、7月2日付ニッポンドットコム記事「『トランプ政権2.0』となった場合の日米関係は?:同盟の行くへに不安材料見えず」(https://www.nippon.com/ja/in-depth/d01013/#)の中で、トランプ再選の場合でも、米中対立の中で日本の地政学上の重要性は増しており、現状では同盟の安定を揺るがす材料は見えないと指摘しています。トランプ自身は、米国の軍事力にただ乗りする同盟国に厳しい態度をとる傾向があるが、彼はビジネスマンらしく、相応の負担を分担する同盟国については、それほど厳しくないので、岸田首相がすでに表明した日本の防衛費の対GDP比2%目標は安定材料だとの見方をしています。

         

        このように、 「もしトラ」を極度に心配する声もあれば、「そんなに心配することもない」との声もあるわけですが、11月5日の投票のカギを握っているのは米国人で、わたしたち日本人は、事態の推移を見守るしか手はありません。そして、わたし自身の見るところ、仮に「もしトラ」が実現することになったら、いろいろと影響は多方面で出てくるでしょうが、わたしたち日本人がパニックになったり、うつ病になる必要もない気もしないではありません。そう考える理由は以下の通りです。

         

        第一に、米国大統領の任期は4年で、憲法修正第22条で、何人も2回を超えて大統領の職に選出されてはならないと規定しています。ですから、「トランプ2.0」が実現しても、今後4年間だけ臥薪嘗胆すればよいわけです。4年間というのは、長いようで実際は極めて短い期間ですから、あっという間に過ぎるでしょう。そのあとがどうなるか? ― そこまで心配するのは、天が崩れ落ちてきはしないかと心配するような杞憂というものでしょう。

         

        第二に、日米関係についてはおおむね心配しなくてもよさそうです。これは前述の渡部氏の記事にもそうありますし、杉山大使も楽観論を述べていますね。

         

        第三に、マルチ外交面での悪影響は心配ですが、なんとか努力すれば、被害を最小限にとどめることができるでしょう。気候変動や、ユネスコやWHOについても、すでに過去の例があるわけですから、ダメージを極力抑えることができるでしょう。この点、日本が、アメリカの暴走を抑え、欧州諸国などの同志の国々と協力して、国際秩序を守るという役割が増すでしょう。日本の外交力の底力を見せてほしいものです。

         

        第四に、トランプはビジネスマンですから、金もうけにつながらない戦争は回避しようとするでしょう。すでに、ウクライナ戦争などはすぐにでも停止させると豪語しています。習近平を相手に高飛車に出て、中国の台湾侵攻を思いとどめさせてくれるかもしれません。この世から戦争をなくすることに成功すれば、ノーベル平和賞を彼に授与してもいいでしょう。彼の自尊心をくすぐる手はいくつもある気がします。

         

        そして最後に、不確実性を一層増しつつある国際情勢ですから、将来は何が起こるかわかりません。ロシア、中国、北朝鮮、インドなど、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する時代です。このような不安定な時代を生き抜くために、トランプのような野武士の出番が期待されているのかもしれませんよ。(了)

         

         

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