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        2024年8月20日 

        話のタネ

        天才と凡人

                元国連事務次長・赤坂清隆

         

        前略、

        今年の夏はパリオリンピックのテレビ放送にくぎ付けになりましたが、天才的な選手といえるような人がいっぱいいましたね。天才というのは、広辞苑によると、天性の才能、すなわち生まれつき備わったすぐれた才能を持っている人のことをいいます。努力のたまものというよりも、凡人には無い天性の才能がある人のことなのですね。エジソンには、「天才とは1%のひらめき(インスピレーション)と99%の汗のたまものである」という名言がありますが、彼は、「世間はわたしを努力の人と誤解しているが、わたしは1%のひらめきがなければ、99%の努力は無駄になると言ったのだ」と語ったエピソードが残っています。そのひらめき(インスピレーション)がある人が天才なのでしょう。今回は、この天才にまつわる最新の驚くべきニュースを「話のタネ」にしたいと思います。

         

        この世の中には、古今東西、凡人がどう転んでも、どんなに努力を重ねても、まねのできないような素晴らしい才能を持った人というのがいます。前述のエジソン、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ビンチ、ゴッホ、ピカソ、モーツアルト、アインシュタインなどは天才だったでしょうし、村上春樹さんは、今年2月に亡くなった指揮者の小澤征爾さんを「紛れもない天才だった」と評しています。わたしは冗談ではなくてまじめに、今は亡き落語家の桂枝雀も天才の部類に入れたいですね。

         

        テレビのクイズ番組などでも、天才的な才能を見せる人がいます。地球と月の距離を測るなど恐ろしく難しい計算をすらすらとやってのける若者とか、記憶力抜群の人などです。むかし、わたしが直接出会ったある日本人学生は、辞書の各ページをしばらくじっくりと凝視していると、そのまま記憶してしまえるというのでびっくりしたことがあります。黒板に書かれた数多くの数字を一度見ただけで暗唱できるとか、そのような才能を持った人が実際いるのですね。同じように、語学の才能を持った学生にも出会いましたが、彼は、英語、フランス語を簡単にマスターし、次はロシア語に取りかかるとのことでした。

         

        わたしはこれまで、このような天才というのは、特別の才能を持って生まれてきた人だとばかり思っておりました。特別の遺伝子を親から受け継いだか、あるいは、神様に特別に祝福されて、天性の才能をもって生まれてきた人で、その他大勢の、わたしのような凡人とは別個の世界に属する、ごく少数の特別な部類の人と思っておりました。

         

        そういう意味では、人間を天才と凡人に区分する2分類論で、わたしはどう考えてもその後者に属しますから、「仕方がない、少しなりとも努力して、なけなしの才能を向上させるしかない」と考えて、これまで長い間生きてまいりました。広辞苑の編集者だった新村出(しんむら いずる)の短歌「小器われ晩成もせず永らえて 凡器を抱き安らかに生く」に、この上なく共感を覚えて、人生とはそういうものだと達観し、凡人ながらもようやく安堵して終末を迎えられる境地に至ったと自分勝手に思っていたわけです。

         

        ところが、今年6月13日に放映されたNHK番組「あなたの中に眠る天才脳」を見て、心底びっくり仰天しました。なんと、その番組は、具体例を示して、わたしたちの脳には人類進化の過程で備わった「天才的な能力をあえて抑え込む仕組み」が存在し、実は、わたしたち誰しもの脳に天才的な能力が眠っている可能性があるというではありませんか。これまで浜の真砂のごとき凡人と自らあきらめてきたわたしも、たぶんあなたも、誰もかれもが、脳の中に天才的な才能を秘めているというのですから、なんという驚き、ビッグニュースでしょう!

         

        NHKが示したその具体例というのは、(1)見た風景を一瞬で記憶し、写真のように正確な絵を描くことができる少年、(2)難しい曲も一度聴いただけで記憶し弾くことができる盲目のピアニスト、レックス・ルイス、(3)円周率2万2514桁を5時間ぶっ続けて暗証できたダニエル・タメット、(4)奇跡の作曲家デレク・アマート、(5)世界が注目する数学者ジェイソン・パジェットなどです。特異な才能や能力を持つ人々を研究してきたアメリカの専門家の話では、そのような人々は、「特別な記憶力」や「特別な芸術的才能」を持った人、さらには計算能力に長けた人が多いようです。

         

        さて、ここからが一番大事なところなのですが、NHK番組によると、このような研究が進む中で、生まれつき特別な才能があったわけではなく、全く普通の暮らしを送ったあと、人生のある時点で音楽や数学の才能が突然芽生えた人がいることが分かってきたというのです。上述の(4)デレク・アマートは、友人とのパーティーでプールに飛び込んだ際に、頭の左側を強打。病院で数日間の昏睡から目覚めた後、それまでピアノを弾いたこともなかったのに、突然ピアノを弾き始め、作曲の才能も芽生えたのです。(5)のジェイソン・パジェットも、暴漢に襲われ頭を負傷したことで、突然自然界の規則性のある構造を見抜く能力に目覚め、その後数学を勉強して大数学者になったのです。

         

        生まれながらの天才は、脳の右半球の働きが強いというのが共通の特徴とのことです。しかし、10人に1人は、脳の損傷で突然才能が芽生えるケースで、この人たちには、「脳の左半球だけを損傷した」という共通の特徴があることが分かったとのことです。われわれの脳には、その右半球に天才的な能力が備わっているのに、どうも左半球の言語能力などが右半球の才能を抑え込む働きをしているようなのです。それゆえに、脳の左半球だけを損傷すると、もともとの右半球にあった天賦の才能が突然開花するというわけです。

         

        NHKの番組は、認知症の研究から、「言語が視覚的な記憶力を抑え込む」メカニズムが分かってきていると報じています。脳の左半球の萎縮の影響で言語能力が低下する認知症では、一部の患者に、突然絵の才能が芽生える現象が知られているようです。フランスの洞窟に残る原始時代の非常に写実的な壁画は、人類が複雑な言語を獲得する以前で、高い視覚的記憶力を持っていた時だったからこそ、生まれたのかもしれないとのことです。なるほど。

         

        ここから導き出せる結論は、わたしのごとき凡人の脳にも、右半球には天才的な能力が備わっている可能性があり、それはある日突然開花するかもしれないということです。これは楽しみですね。しかし、そのためには、脳の左半球だけ、その機能を低下させるようなケガとか、認知症が必要だということでしょう。認知症の場合は、せっかく才能が開花することになっても、その時には本人はすでに認知症で、自分では認知できないでしょうから、あまり意味はありませんね。

         

        それでは、わたしたちに残された唯一の道は、脳の左半球だけの損傷ですが、金づちを持ってきて脳の左部分をこつこつとたたいても多分ダメでしょうから、突然の交通事故でも待つしかないのでしょうか?この点、NHK番組は、わたしたちの脳に眠る天才的な能力を人工的に目覚めさせる研究がすでに始まっていると伝えています。脳に弱い電流を流す装置を使って、脳の機能を低下させたり、高めたりする研究で、それによって右半球の機能を高めることができるとのことです。米国防総省の研究機関から資金提供を受けたニューメキシコ大学とか、一般の人の中にもそのような装置を使った研究や実験が目下進行中とのことです。今に、日本でも注目されるようになるかもしれません。

         

        なぜわたしがこの話にこんなに興味をそそられたかといいますと、実はわたし自身、これまで二度にわたって頭を損傷したことがあるのです。一度目は、かなり前ですが、バハマのパラダイス・アイランドに家族旅行をした際、息子相手にプールで飛び込みの美技を見せようとして、素晴らしく上手に飛び込んだのはいいのですが、プール底に頭をガツンと打って目の前が血の海になり、すぐに病院に運ばれ、頭を10針ほど縫ってもらったことがあるのです。二度目はもっと最近のことです。岩手のスキー場で転んで頭を強く打ち、10日ほど後にまっすぐ歩けなくなり、虎の門病院で頭蓋骨と脳との間にたまった血液を取り除く手術を受けました。

         

        この二度のケガとも、わたしの脳への損傷は相当程度あったはずです。しかしながら、その後ピアノが弾けるようになったわけでもなく、相変わらず計算能力は下手くそ、あるいは低下中ですので、秘められた天才的な能力が開花しているということを示す兆候は、これまでのところ全然ありません。おかしいなと思い、今回よくよく当時のケガの状況を思い出してみたのですが、どうも二度とも、わたしの脳の左半球ではなく、大事な右半球を強打していた気がします。いやぁー、惜しいことをしました。たいへん残念な話です。(了)

         

         

         

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