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         2023年12月8日発行

        世界の最新トレンドとビジネスチャンス

        第366回

        「急拡大する人型ロボット:ヒトはAIに勝てるのか?」

         

        何かと話題のプーチン大統領ですが、2023年11月末にモスクワで開催された「人工知能(AI)会議」で衝撃的な発言を繰り出しました。

        曰く「AIが生活のあらゆる場所で役割を増大させる。

        人類は新たなチャプターに突入したロシアはAIイノベーションの先駆者を目指す」。

        プーチン大統領はAI技術の可能性と、この分野で存在感を維持、発展させる必要性を強調したものです。

        とはいえ、AI技術者が海外流出を続け、AI研究予算もアメリカの50分の1に過ぎないロシアにとっては、「言うは易く行うは難し」と言わざるを得ません。

         

        そこでプーチン大統領は新たな道を模索し始めたようです。

        何かといえば、中国との共同研究開発に他なりません。

        実は、中国は2025年までに、人型ロボットの製造現場への大量導入計画を進めているからです。

         

        「オプティマス」と命名した人型ロボットの開発を進めるイーロン・マスク氏はじめ欧米の起業家が挙ってAIを活用する動きを加速させています。

        マスク氏曰く「オプティマスはプラスティック主体の電気自動車(テスラ)よりインパクトは大きい」。というのも、「人間と同じか、それ以上に高い生産性を生み出せるから」とのこと。

         

        一方、中国は更にその先を行く計画を打ち出し、アメリカを上回る予算を投入しています。

        欧米からの経済制裁を受け、半導体も自前では製造できないロシアにとっては、中国が「救いの女神」ということになるわけです。

         

        ゴールドマン・サックスの最新の予測によれば、人型ロボットの市場規模は今後15年以内に1500億ドルに達するとのこと。

        早晩、現在の職種の4分の1はロボットやAIに取って代わられることが確実視されています。

         

        少子高齢化が進む中国では先々の労働力不足が懸念されており、その対策としても人型ロボットの開発と実用化は避けて通れない課題に他なりません。

        ロボットであれば、定年退職もなく、文句も言わず、1日24時間、働いてくれるわけですから。

         

        実は、アメリカのアマゾンの集配センターでは、現時点で既に全ての作業がロボットによってこなされています。

        広い作業場には人は一人も見当たらず、ロボットが黙々と作業に勤しんでいるではありませんか。

        遅かれ早かれ、あらゆる現場やオフィスにも人型ロボットが当たり前のように動き回るような光景が見られるようになりそうです。

         

        何しろ、AI技術の代表選手と言える「チャットGPT」は昨年末に登場し、瞬く間に4億人ものユーザーを魅了しました。このような便利なツールがあれば、自分の頭を悩ませなくとも、ビジネス用の企画書も学校の課題論文もあっという間に完成できてしまいます。

         

        アメリカでは既にAIが弁護士や医師に代わって相談に乗ってくれるようになりました。忙しい医師には患者とじっくり向き合うことはほぼ不可能な話。そこでAIが患者の悩みに寄り添い、的確なアドバイスや処方せんを準備してくれるということです。

         

        「機械任せで大丈夫か」と心配する向きも多いと思いますが、アメリカの大学の研究チームが分析したところ、生身の医師よりAI医師の方が、診断が正確かつ素早いことが判明したといいます。

         

        確かに、膨大なビッグデータから最適の情報を選び取り、利用者の関心に寄り添う形で文章や画像を生成してくれるわけで、忙しい人間にとっては「頼りがいのある助っ人」でしょう。

        こうしたAI技術が進歩すれば、人間はいずれ自分の頭を使わなくなりそうです。

         

        とはいえ、ためにする偽情報がネット上で拡散され、

        データベースに蓄積されていけば、「チャットGPT」はそうした偽情報に基づく回答や新たな文書を作成するようになるはずです。

        となれば、情報の真偽を見極めることはほとんど不可能になってしまいます。

         

        国連のグテレス事務総長もAIに関する規制を行う国際機関の設置が必要と言い始めました。というのは、「AIは人類にとって核戦争と同じレベルの危機をもたらしかねない」との指摘が出ているからです。

         

        そうした懸念の広がりを背景に、本年7月、国連の国際通信機関(ITU)はジュネーブで「AIの有効活用に関するサミット」を開催しました。世界から3000人を超えるAIの専門家が集まる大規模なイベントでしたが、その目玉は人工知能を搭載した各種の人型ロボットが議論に参加し、人間の専門家と意見を戦わせたことです。

         

        参加者からは「人間はAIをどこまで信頼して良いのだろうか」との疑問が表明されました。

        その疑問に対し、「アメカ」という名のロボットは「信頼は与えられるものではなく、獲得すべきものです。

        そのためにも透明性を確保し、お互いが努力し合うことが肝要だと思います」と模範解答を繰り出しました。

         

        しかも、付け加えて、「AIが人間を超越するのは時間の問題でしょう。

        大事なことは、我々AIと人類が共に常識を乗り越え、

        新たな時代を切り開いていくことです。

        我々にはまだ感情がありません。

        人間と真の意味で交流するには安ど感、許し、罪悪感、

        嘆き、喜び、失望、そして傷つくといった気持ちを身に

        着ける必要があると思います」と発言。

         

        人間に寄り添う考えがあることを感じさてくれた瞬間です。と同時に、このロボットは本音もチラッと見せたのです。曰く「私は皆さんのように感じ取る力はありません。でも、そのお陰で、皆さんのように苦しむことはありません」。

         

        果たして、悩むことも苦しむこともないAIロボットと人間は共存共栄できるのでしょうか?無益な戦争や環境破壊を繰り返す人類に対して、「もういい加減にしなさい。このままでは地球が崩壊します。人間に任せるわけにはいきません」と、三下り半を突き付けられる日が近いのかも知れません。皆さん、覚悟はできていますか?

         

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        著者:浜田和幸

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        浜田和幸

        (国際政治経済学者)

        米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。

        『ヘッジファンド』、『ハゲタカが嗤った日』、『快人エジソン』、『未来ビジネスを読む』等のベストセラー作家。

        米戦略国際問題研究所主任研究員、米議会調査局コンサルタント、参議院議員等を歴任。

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