BIS論壇No.501『ビジネスインテリジェンス事始め』中川十郎25年.11月13日
筆者がインテリジェンスという言葉に出会ったのは、1988年で、たまたまJETRO・NYの大学後輩T部長に、“North East Trade Review”という貿易誌のインタビュウを依頼され、その際、日本の商社は機械などハードだけでなく、丁度小生の勤務会社が、いち早くボストンのAI会社の技術を日本に紹介しており、英日機械翻訳など検討中だと話しました。その記事をワシントンの機械翻訳で英日翻訳を手掛けている会社の社長が目にとめ、同社E企画部長がNYに来て英日翻訳ソフトを日本向け紹介してくれという依頼がありました。商談が終わり、日本食が好きだというE部長をマンハッタンの日本料理屋に案内しました。そのとき日本の商社は情報商社で、情報を基にビジネスを組み立てているという話をしました。するとE氏がカバンの中から、“Real World Intelligence” という本を取り出し、「元米国国家情報評議会副議長が書き、いま評判になっているインテリジェンスの本だ”」 と紹介してくれました。さっと一瞥したところ、情報、インテリジェンスについて理論的に詳述してあり、まさしく情報、インテリジェンスの核心を突いた本であることに感銘受けました。商社に入社し、バグダッド、ベイルート、ニューデリ、リオデジャネイロ、サンパウロ、パナマ、カナダのカルガリー、ニューヨークと海外8カ国に20年駐在。新規事業、新市場開拓に尽力。自己流で情報を収集、活用してビジネス開拓をしてきた者としては、この本がインテリジェンスを理論的に分析していることに強い感銘を受けました。E部長にこの著者の本を日本語に翻訳して同氏のインテリジェンス論を日本に紹介したい。翻訳許可を交渉してほしいと頼みました。ほどなく著者 H.E.Meyer氏より日本での翻訳出版の許可がおり、土、日曜の休みに翻訳に注力。日本でダイヤモンド社から『CIA流 戦略情報読本』―リアル=ワールド・インテリジェンスの世界=として翻訳出版されました。
筆者が「インテリジェンス」という概念に接したのはこの時が初めてです。この本を日本で出版したいと思ったのは、商社のみならず、外務省や通産省など官庁においても、日頃のビジネスや、行政活動においても最も重要な経済情報や行政情報の収集、分析、活用法について的確な指導はなく、それぞれが自己流で情報収集、分析、活用をしてきており。この本はインテリジェンスを理論的に解明していることに大きな感銘を受け、ぜひこの本を翻訳し、インテリジェンス、特にビジネスインテリジェンスの概念を日本に紹介したいと思ったのがインテリジェンスに接したきっかけです。E部長との不思議なご縁に感謝しています。
初版6000冊でしたが、「情報」、「インテリジェンス」関連の本への関心は希薄で、売りさばくのに6年かかりました。日本での情報、インテリジェンスへの関心が官民ともに少ないことに驚きました。
唯一の救いは東芝の重役さんがこの本を読み、もう少し詳しくインテリジェンスについて説明してほしいと電話があり、説明に参上したことです。さらに岐阜県庁からも電話があり、県庁の幹部にインテリジェンスについて講演してほしいと依頼があったのはさすがと思いました。この事情を知った宮崎県庁からも講演依頼があり、筆者がコロンビア大学に留学するまで3年間、夏、秋に講演させていただきました。
名古屋の中小企業大学と、そのあと、東京の中小企業大学からも講演依頼があり、この本をテキストに講義しました。筆者の勤務先の東京経済大学でも社会人も含めて、「ビジネスインテリジェンスとグローバルマーケテイング」と題し秋季講座を行い、2単位を授与しました。
さらに明治大学のリバテイアカデミー講座で社会人を中心に秋10回講座で「ビジネスインテリジェンスとグローバルマーケテイング」講座をコロナで休講にするまで13年間講座を継続。ビジネスインテリジェンスの日本への紹介に尽力しました。
1992年2月に「日本競争情報専門家協会」~現「日本ビジネスインテリジェンス協会」を設立。2025年9月までに195回の情報研究会を開催。国内外の参加者累計17、000人、講師700人に達しています。しかし日本でのインテリジェンスに対する関心は薄く、日本は情報後進国であるとの認識を強めています。
AI、SNS時代を迎え、今ほどインテリジェンス教育の必要性が高まっている時はありません。この機会に官民でのインテリジェンス教育が深まることを祈念しています。
以上








