季節のご挨拶2026年春 ・鈴木貴元・株式会社丸紅経済研究所
いかがお過ごしでしょうか。北京在住の鈴木貴元です。半年ぶりのご挨拶となります。 北京暮らしも9年半が過ぎました(こちらのご挨拶は22年目となりました)。この半年間は、おそらく1番忙しい時期ではなかったかと思います。
ここ半年の経済観察
この半年間について、最初の1カ月ちょっとの間(7月~8月前半)は、いろいろな場面において「いい感じ」でした。中国経済に関しては、7月中旬に発表された上半期のGDP成長率が+5%を超え、うまく行き過ぎた成長をみせていました。2025年上半期は、春節前の「DeepSeek」登場、春節頃からのアニメ映画「ナタ2」のヒット、家電・デジタル製品買い替え促進政策下の「スマートウオッチ」や「スマートグラス」の注目、春以降のPOPMART「ラブブ」人気の表面化(コロナ禍前から人気はあったが)などが、中国の経済・社会に自信や明るいムードをもたらした一方、1月に米大統領に再任したトランプ氏が相互関税を導入し、3月から4月にかけて米中間で制裁・報復合戦を起こしていたので、5、6月は米中停戦へと向かったが、経済・社会における懸念は燻り続けました。これに対して2025年下半期の開始は、GDP成長率のうまく行き過ぎた成長に加えて、日中関係も絡めて見れば、大阪万博の中国の日の成功、ロボットマラソン、ロボット博など、中国にとっての良い流れが広がっていきました。この時期から、抗日戦争80周年行事に対する懸念が日本側では広がっていきましたが、7月末公開とみられた映画「731」の公開が延期されたことで、ひとまず安堵したのを覚えています。下半期の開始の時期は、2025年で最も良い時期だったのではないでしょうか。
その後は、米中関係は安定化。国内のムードの極度の悪化ないし日本のような長期低迷は「ない」だろうという程度の安心が出ていたと思います。9月から11月前半にかけて中国中で大型の展示会や国際会議が開かれたり(11月の上海輸入博では、最大の外国の出展国が米国と分かり驚きました。出展への手続きや用意は9月までに動いていないと間に合いませんから、多くの有力米国企業や団体は、夏場に米中の十分な手打ちを見越していたことが確認できます。米国大豆協会や半導体メーカーも参加していました)、米国の先端半導体を代替する国産品を搭載した商品が出て来たり、人型ロボットや自動運転、物流ドローンといった新技術が身近にどんどんみられるようになったりと、経済成長率もさることながら、中国の国際的活動の活発さや、関心と関与の高さ、取り組みの先進性と生産・生活への応用可能性などが、安定・安心の材料になっていたと思われます。これは、日本で言えば、2000年代初め前後に、デフレ基調の中で、NTTのiモードやユニクロのフリース、吉野家の250円牛丼が普及していった、また、WTOに加盟した中国への直接投資やアジアでの自由貿易協定(FTA)に関心が高まっていった時の雰囲気に似たものを感じました。直近は、不動産不況や「内巻」と言われる過当競争によるディスインフレが強まっており、景気は下向きとなっていますが、政府やメディアからは様々なポジティブ材料、特に、2026年から始まる第15次5カ年計画に関わる新興産業や未来産業が、「中国に取り組めないことはない」というような雰囲気を作っていました。ムードは下降線だが、経済・社会の下支えを確認していたように思います。
昨今、卓を囲んで景気の話をすれば、市場評価が借入残高を下回った不動産、フードデリバリーより安くなった大卒事務職の賃金、価格とデザインで勝てなくなった外国製品など、身近なところの景気は中国人にとっても、外国人にとっても「不況だ」というところが幾つも出てきています。経済見通しを詳細に作ってみると、「生産能力拡大と物的な生産性向上の速さ」が、「稼働率の下押し圧力と価格の下落圧力」を通して「企業収益の伸び悩み」と「労働者賃金の抑制」をもたらしていることが観察されます。買い替え補助金(特定商品に対する消費券みたいなもの)がなければ、2025年の+5%近い成長は無理だったでしょう。実際、補助金の対象外である雑貨などの軽工業品は、対米輸出関税がどーんと上げられ、新市場の開拓などにも限界がある中で、コスト引き下げのための自動化投資は早々と一巡し、業界全体が調整局面に入っています。2026年はその延長線上ですので、景気の落ち込みが全く「ない」とは論理的に考えにくいのです。米国のデジタル企業は、デジタルサービスの世界を独占する中で、国内だけでは採算が合いそうにないデジタル投資を続けられている一方、中国の企業は、財の生産で優越的な条件(高い生産性と比較安価な生産要素)を享受する中で、国内需要だけでは採算が合いそうにない財への投資を続けていた(主に機械産業ですが)。しかし、財という商品は米国のデジタルサービスのようにサブスク商品にはなりにくい(自動車や携帯電話を何台も定期的に買う人はいませんね)ので、足元、投資の伸びがコロナ禍来の拡大の当面の天井にぶつかると、調整局面に入ってきたと思われます。
「投資をもっともっとやろう」という声は根強いです。EV、鉄道車両、造船、ドローン、太陽光・風力発電、サービスロボットなどが世界生産の5割以上を占め、世界1位となっており、これを実現した傾斜投資モデルは、内巻、貿易摩擦、デフレ圧力などの問題をはらみながらも概ね「うまくいっている」という評価が出ているからです。特にEVの自動車市場席巻は、米国のイエレン財務長官(2024年4月当時)が「過剰生産能力では?」と懸念を表明したことに対して「過剰ではない」とし、そこから1年以上中国EVの快進撃が続き、集中投資による「勝ち逃げ」を実現しました。加えて中国が各種産業で世界1になることで経済の物的な安定と共に、安全保障におけるけん制、安全弁ができたという自信が「どことなく」できました。これが「投資をもっと」の誘因になっています。しかし問題もあります。ゼロカーボンの目標で、欧米が開発に消極的になったのは、中国技術がEVや再エネで圧倒的に強く、世界的に開発を進めることが欧米の競争力を低下させるという危機感が出たからと言われています。ゼロカーボンの推進のために中国が今後どのような対応を欧米などに取ってくるのかは、温暖化対策と技術摩擦、安全保障摩擦、世界経済の主導権争いなどいろいろな変数が関わるのでよく分かりませんが、「世界がゼロカーボンを推進しないで良い」ということは中国にはないでしょうから、中国が今後どのように世界、特に先進国と競争と協調のバランスを取っていくのかは大きな課題です(中国は投資ペースを落とす、技術移転を図るなどが求められるのですが、、、)。
2025年下半期は、中国は経済の調整圧力や斯様な問題意識に直面していたのですが、中国の中では景気のムードを悪化させる、合理性(論理性)が十分でない経済論評ができない環境にあったのと、9月は抗日戦争勝利80周年の記念ムード、10月は四中全会・第15次5カ年計画への期待ムード、その後は第15次5カ年計画の分析学習のムードの中で、短期的な景気減速の言葉は余り表に表れませんでした。
この時期の仕事
この時期の仕事は、振り返ってみれば、「何かに備える」ばかりでした。2025年上半期は「トランプ相互関税の発動」と「米中関係悪化のリスク」。2025年下半期は「日中関係悪化のリスク」(映画、終戦、抗日80年、高市新総理)、「米中関係再悪化のリスク」、「高市首相発言のリスク」などです。2025年はコロナ禍が終わって3年。1年目の2023年はコロナ禍が終わったばかりで、駐在員の多くが交代。外交・ビジネスが再稼働。1年間準備(引継ぎ・関係復元)だった(周りに同様の方は多かったと思います)。2年目の2024年は外交・ビジネスが本格稼働。そして3年目となる2025年は、ビジネスが本格稼働してきた中で、大阪万博を機会とした日中高層の往来実現が日中間のビジネス加速を後押しする。そういう年になることを願って2025年はスタートしたのですが、トランプ大統領が就任してこの期待はほぼ完全に瓦解。「備える」(またいろんなところからの質問に「答える」)に徹することになってしまいました。
加えて、世界は、「先進国が雁の先頭になって新興国を引っ張る」、多国間主義や国際協調、国家間の関係改善を広げる方向性から、リーダー不在というより、リーダーが関係を壊していく状況になっていました。日本は米国に追随していますが、中国は米国と対立的(2025年末の時点では、米国から見て「うまくやっている」関係ですが)なので、米国に追随せず、引き続き多国間主義や国際協調、国家間の関係改善を志向しました(とはいえ、ウクライナや中東問題への関与は大きいとは言えない)。この方向性の違いは、日中間の理解の格差を広げました。日本では、トランプ大統領の「米国ファースト」を何とか理解し、「日米同盟の維持・深化こそ国益」ということを国内に広げ、中国がやっている多国間主義や国際協調を、「債務国の罠」(の再燃)とか、「威圧」、「覇権」の動きとして、理解しようとする傾向がある一方、中国では、国力に見合わない、外交関係(隣国関係)的に無理のある、日本の日米関係の過度な傾斜(中国対抗的な動き。特に高市政権発足後)に、現実的な日中外交を期待しつつ(これの最たるのが10月末の日中首脳会談)、11月以降、不信が急速に強まっていった。しかし、日本では、中国のこの変化を中国の日本に対する過剰な反応とみようとしました。
この半年は、こういう理解の乖離をどう伝えるのか。そこにも苦労しました。北京で私の仲間になってくれている欧米企業の方々や外交官・専門家の言葉や分析、国内外(日本以外)で報道されたり、研究されたりしている在外中国企業の動きからは、日本人に語られることのない中国がみえてきます。特に、中国でビジネスをしている欧米企業は、政治の影響など傾向的な傾向を受けつつも、産業・企業別に個別の動きをしています。北京がワシントンDC化していると以前のご挨拶で書いたかと思いますが、欧米企業は、個別企業の利害で独自に動く傾向が強く、いわゆるロビーイングが活発です。日本企業よりも現地化が進んでいてもさらに現地化する勢いがあります。また、欧米企業の中国コミュニティーは、家族帯同が基本。日頃の企業同士のミーティングや、大使を招く年末のパーティーは若者・女性も多く、ビジネス・コミュニティーには多様性が目立ちます。おじさんが「厳しい」と言われる中国に単身赴任するのが当たり前になっているような日本企業とは違います。さらに、中国には多くの外国人がやってきています。中国は元々フランス、スペイン、米国などと並ぶ世界トップレベルの観光大国。12月に出張で北京⇒上海⇒東京⇒上海⇒北京と弾丸出張をしましたが、その時も臨席の多くは外国人。欧米の方は、日本旅行の延長で中国旅行、中国旅行の延長で日本旅行に行く方が多いようで、日中間の航空路線が減ると、欧米人の日本旅行が減ってしまうのではないかと心配になりました。中立性と俯瞰性を心掛けた日中事情の解説を、日本からの出張者、日本政府の関係者、メディアの方などが面会に来られる度、講演などの度にお話ししておりますが(逆に日本の事情を中国の専門家などに話します)、日本の中ではなかなか中国の生の話は伝わっていないようです。日中の生の交流が、中国から日本への一方通行になっているからのようです。
ともあれ、今の仕事は、マクロ経済・産業・安全保障解説、社内6タクスフォース対応、中国会社経営・企画対応、北京財界・政府対応、メディア対応などと、内容と対応先が広がっていて、会社も家も資料がうずたかく積み上がる状況になってしまいました。私の部の組織も渉外、マクロ、産業の3つの機能に再編して対応するようになりました。また2026年は組織拡充の予定です。益々忙しくなりそうです。
2025年の大転換
米オバマ政権の終わり、私がワシントンDCにいた頃。米国はアジアへPivotとか、中国が一帯一路を発表したことに対して、Reconnecting Asiaとか、アジアへの関与とか、中国・アジアの時代にどう関わるのか。米中リーダー競争が鮮明になってきていました。それから10年。米国は西半球に閉じこもろうとしていると言われるようになっています。米国が東半球への関心を弱めていくと、米中それぞれの勢力圏が出来てくる。トランプ大統領は2025年10月の米中首脳会談で「G2」という言葉を使い、12月末の日経新聞での藤井彰夫氏の論説では「Gマイナス」という言葉が出てきました。
トランプ大統領個人なのか、米国という国なのか、そこははっきりしませんが、米国視線からすると、中国と競争する方向から、中国と平行線で、独自の勢力圏を作っていく方向になるようです。西太平洋は、米中の境目になるようですし、米国の物資輸送にとって重要な航路なので、米国は引き続き重視するとみられているようですが、「それは何のため?」になるのでしょうか?「米中が平行である」。別の言い方をすれば、「米国は中国に(民主化などで)迫っていかない」のであれば、米国にとっての西太平洋の重要性や意味合いは、日本やフィリピンなどに遠く及ばなくなるかもしれません。
米国の利害がアジアで薄れるのであれば、「第1列島線」、「第2列島線」と言っている防衛のラインはさほど意味がなくなるかもしれません。アジアだけなら東シナ海、南シナ海での衝突や危機の防止が最重要になり、中国が列島線を越える越えないを言うことの当事国(日本やフィリピンなど)としての意味合いは、おそらくこれまでとは全く違うものになります。この点については、日本ではまだほとんど考察されていないように思われます。日米同盟は日本の安全保障、国家存続の前提になってしまっているからです。日米同盟が希薄になる可能性が高まってきてしまっている中で、希薄になった(またはなくなった)後の日本が考えられていないのは、危険かなあと思います。ただ、日本以外の国は普段からさほど米国に相手にされていないので、元より中国とのバランスが一定程度考えられています。
日本はまじめな国民性なので、二重基準とか、バランスとかは苦手なのかもしれません。米国と戦争すると、「ストライク」は「良し」になるのが日本ですから、安全保障と経済を分けるのは難しいのかもしれません。一方、米中摩擦の当事者の米国は、中国に幅広い進出を行い、日本の2倍以上の販売を行い、それでいて安全保障リスクもうまく避けています。
本当にGゼロ時代になるのかわかりませんが、日本にとっての本当の利害と防衛とはなにかを、国民経済の状況、国際情勢の変化の中から、幾パターンも考える必要が出てきているのかと思います。まあこれは「G」と付けられる主要国の考え方が同じ方向に変化していることが前提とされてしまっていると思いますので、言葉にするほど国家関係が大転換したことではないのかもしれません。でも、80年代末で東側諸国の秩序が終焉してしまったように、2020年代半ばで西側諸国の秩序が変質してしまったとしても、旧東側諸国が西側諸国の秩序に加わろうとしてから35年にもなるわけですから、あまり不思議ではないですね。
街歩き
2025年の下半期は、中国国内は出張ばかりでした。夏休みは、熊本の阿蘇山をみてから、大阪万博に行きました。熊本にいったのは、上海―熊本線が新しく就航し、九州がより行きやすくなったからです。ただこの路線、熊本空港がものすごく風に弱いので、なかなか大変でした。私が乗った時には、熊本空港がみえるところまで飛んできたあと、有明海から雲仙の上を5周くらいぐるぐるした後、結局上海に戻るというなかなか珍しい経験をしました。結局この路線は10月から運休。3カ月だけの路線となりました。
博多から熊本への新幹線(結局上海から福岡に飛びました)には、中国の方はそこそこ多かったと思います。みなさんすごい情報力ですね。日本の情報はだいたい小紅書にビデオや写真があるので、すぐに代替経路や必要な情報をとってどんどんスマホでチケット取ったりして動くんです。ともあれ、熊本も阿蘇もいたのは、日本の方を除くとほぼ中国の方でした。
大阪万博は、湖南省の日に中国館に行きました。中国館はデジタルを使った展示物の解説がよかったですね。小さな国の展示は文化財や歴史展示のデジタル化をするまでの技術がないですから、情報量が少なく、正直見どころがよくわからなかったですが、中国館はちゃんとみると30、40分は必要だったので見ごたえがありました(日本館や米国館は3日前の午前0時に予約が始まるという、若者と熱狂的万博好き以外には不親切・不便なシステムでみることができませんでした。上海万博の時は裏口入学を良くさせてもらったので、頼めばよかったです)。
ただ、万博全体は、中国で人型ロボットや自動運転などを見慣れている自分としては珍しさというのが少なかったなというのが正直の感想です。人型ロボットは近所のショッピングセンターに行けば毎週のようにロボットのダンス、カンフー、ボクシングなどをやっています(ボクシングは、ロボット同士だと楽しいです。人間とやると幼稚園児にさえ負けてしまう(またロボットは人間に危害を与えないようにできている)ので、実力は知れたところです)。
出張では、広東・香港も多かったですが、上海を行ったり来たりしていました。2025年の会社での注目の一つはIPで、丸紅は小学館との合弁で漫画キャラクターのグッズ販売・生産、ライセンスなどを手掛ける会社を設立し、中国と米国を主要市場としています。それで各地の漫画・アニメなどの市場を見て回ったりしました。食品、耐久財などの販売が主にネットに移行してしまう中で、グッズ販売は実店舗販売の比率が比較的高く、ショッピングモールの主要な店子になってきています。キャラクター・デザインコラボがいろんな商品・サービスで普及し、漫画・アニメだけでなく、古いブランドとかとのコラボ増え、商品がきれいになったのが良くみられた風景でした。キャラクターラッピングしたお店や、コラボ商品をおまけにした飲食店などが目立っていたと思います。VRなどを備えたゲームセンター、子供向けの小遊園地など、一定規模の投資を必要とする施設を目玉にするよりも、低コストなグッズ屋とロボットイベント、そしてすし屋を集客にするのがショッピングモールの流行いなっていると思います。グッズ屋は、パッと見が華やかでかわいく、それでいて特別な機械設備が必要でないので、コスパがいいのかな(在庫コストが主要なコスト)と思いました。
また街を見ていて増えたのは、広告ディスプレイですね。北京では会社のロゴ・マークをビルの上につけるのにも規制が厳しいので、あまり多くないのですが、それ以外の地方に行くと、広告ディスプレイが目につきます。展示会のブースなどでも、プラスチックのボードみたいなので説明をする展示から、様々なディスプレイに動画・静止画、メッセージなどを載せる形での展示になってきました。ディスプレイ産業は、既に過当競争が終わり、生き残った寡占的なメーカーが安定的な低価格でディスプレイを供給する体制になってきており、飽和したテレビ、スマホ需要に続き、広告用が成長市場になっているようです。大型ディスプレイの低価格化⇒キャラクターブームのような形で普及が進んでいるのかなと思います。
他方、中国では観光のための景観づくりが、地方政府やデベロッパーなどのリードで行われており、建物・インフラの新築・改修、付属設備やサービスの整備が進んでいます。カメラ写りの良いモニュメントや交通サインの設置、夜のドローンショー、プロジェクション・マッピングの実施など観光地の総合エンターテインメント化がみられます。中国の観光地は巨大な整備が多いので、日本の「手作り観光地」のような整備とはかなり違います。中国の方は「風格のある感じ」をどちらかというと好むので、観光地と一般生活の場はほぼ切り離されています(北京の「胡同」のような生活空間が観光地になっているのは比較的珍しいです)。中国本土は年間6,000万人ほどの外国人が訪問しています。中国と日本で観光誘致競争が起きているのかと思いますが、長期的見てどちらに軍配が上がるのでしょうか?このあたりはこれから注目されるのではないかと感じています。
このお正月は、天津に2日ほど行きました。初めは日本の地方(夏に続いて九州)に行こうと思ったのですが、予約した飛行機がキャンセルになり、近場に行ってみることにしました。天津にはASTOR(利順徳)という孫文や溥儀など英国租界が始まったころに営業を始めたホテルに泊まりました。低層階の部屋には各部屋にどういう有名人が泊ったかのプレートが貼ってあり、説明が書かれていました。地下には博物館があり、英国租界の始まりから新中国後のことまで解説されていました。ちょっと驚いたのは、ASTORホテルは新中国建国後一度、天津大飯店という名前になり、建物の外観なども英国風にみえるようなところを現代的な外観に変えたものの、改革開放後、経営をもとに戻し、外観もスペイン人設計士の下で復元したそうです。また、このホテルの周りも英国租界時代の外観に復元。とても落ち着いたいい感じの景色でした。ただ、ちょうど泊った時は、シューベルト音楽祭の予選が行われており、夜の10時までドラムやオペラが鳴り響く。音楽はいいのですが、廊下やロビーに予選に出る演奏者がたくさん集まっており、ちょっと落ち着かない感じでした(なやましかったのは、北京に帰ったら腰をひねってしまい。その後は本当の寝正月になったことでした)。
北京のこれから
新年に際してこちらの皆さんが気にしているのは不動産です。私がエコノミストをしているので会う人はたいてい不動産の話をしてきます。2025年の不動産販売は推定ですが、8億㎡を下回り、ピーク比で55%の減少となりました。投資金額も前年に比べて2割近く減り、不動産業界は今整理のラッシュです。超大手企業はつぶすわけにも行かないので債務整理をしており、このニュースが出ることで、不動産のムードを悪化させています。販売悪化⇒業界悪化⇒販売悪化の悪循環は2026年も続く見通しです。だいたい話を聞いていると、北京や上海などはピークから3、4割の値下がりという感じです。もっと下がっている郊外物件(別荘物件では9割値下がり)もこちらで聞きます。
北京の日本人は昨今4500人まで減ったようです。中国在住は9.3万人です。こうした減少の中で日本人の集まるたまり場はどうやら1か所になってきています。この人数まで減ってくると、日本人が主体となって何かやる。日本人という単位を招いて何かやるというのが難しくなっていきます。英語を話すグリーンカードホルダーの現地幹部が商工会議所を支える米国や、欧州を核にまとまる欧州各国、大きな華僑・華人集団が支える東南アジア各国のように、日本人を支えてくれる日本人以外の日本ステークホルダーは北京には多くありません。日本語を話す中国の方は多いですが、日本企業の現地化は相対的に遅れていて、日本語を話す中国の方=日本のステークホルダーになり切れていません。しかも昨今の政府間摩擦で日本の立場をTaka noteしてもそれを自分の利害の一部として受け止める中国の方はかなり少数です。北京からもっともっと情報発信が欲しいなどとお願いされることがありますが、普段の両国間のコミュニケーションが希薄になっている中で、一部の専門家の情報発信だけでバイアスが直るなんてことはありません。特に日本は多数派(声がでかい方)が正しいとみる傾向の強い国です。
世界の方向は良くも悪くも当面米国と中国が大きな影響を与えます。他の国の独自の動きもありますが、多くのところで「ウエイト付け米中加重平均(α1×X1+α2×X2、但しα1+α2=1)」で外交を行おうとするでしょう。そこでいえば、加重平均のX2に当たる中国の行動を直に見ておくことは有用で、それを見る日本のステークホルダーが日本人を含めて極めて少ないというのは、中方や他国の方と協調的な行動をするうえで非常に不利になるかなと思います。2025年はこれをかなり強く感じました(日本的には、野球のストライクは「良し」ですが、その姿勢では加重平均値のより正しい値は取れないのです)。
永住権
2025年のチャレンジは永住権取得でした。仕事、所得、納税、職歴、学歴、職場などいろいろな証明を作り、電子申請をしました。北京では永住権の申請は11月~12月の2カ月間。特別なホームページが開設され、そこに申請をしました。中国側の領事サービスセンターさんも、こちら側の弁護士さんも一応大丈夫であろうといってくれましたが、会社の名目が丸紅中国の渉外・調査(こちらの言葉では研究)の事務所(営業と北京会社の事務スタッフを除いた丸紅中国直属の北京事務所メンバーは5人のみ)ですから、審査の担当さんから、そこの部分について「ん?」という連絡をもらいました。審査期間は半年以上とみられており、私の手に身分証が来るのは2026年の半ば以降です。でも永住権がとれると、WeChatやアリペイの決裁が日本でもできるようになったり、金融投資がしやすくなったりといろいろ利点があります。私の駐在生活もまだまだ長いので良い経験となりました。
終わりに
久しぶりに1週間にわたる腰痛になりました。昔は概ね夏のオリンピックイヤーに引っ越しとか大きなことが起こり、それを機会にぎっくり腰になるというパターンを繰り返していましたが、2020年の東京オリンピック(21年に延期)、2024年のパリオリンピックは元気に過ごせたので「もう大丈夫」と思いきや、10年ぶりの腰痛となり、「鍛えないといけないなー」と思いました。今回のご挨拶が遅れたのも、本当の寝正月をやってしまったからで、本当であれば、通州に昨年12月26日に正式オープンした「湾里」という超大型ショッピングモールを見に行ったり、博物館周りなどをしつつ、ご挨拶をするという予定でしたが、読むべき資料がかばんにぎっちり詰まったまま、なんとか1週間たってご挨拶を仕上げる羽目になってしまいました。
2026年は、状況はかなり厳しいですが、良い仕事環境を会社の中にも外にも作っていきたいですね。私の場合難しいのは、相変わらずなのですが、『中国どう?』、つまり、地球の2割の人口の中国という国を短い言葉で表現することです。今の世界のデータベースには映画にして12兆本分のデータがあるそうです。私は毎朝家を出る前に4種類の新聞を読み、中国と日本のニュースを見、会社でさらに別の新聞やメールサービスを読みます。加えて、オフィスには週刊誌、月刊誌、いろいろ届きます。最近は目を通す打率が低下してきており、インプットの完成度が低下していることが悩みです。
ともあれ一先ずがんばります。あと4年ちょっとで定年で、早期退職制度の対象になってしまいました。日本でも中国でも何かいい次の機会はないかなと思っています。
皆様と皆様のご家族にとって良い年になることをお祈り申し上げ、引き続きよろしくお願いいたします。
鈴木貴元
北京市朝陽区西大望路3号藍堡国際公寓南区C903
丸紅(中国)有限公司経済研究チーム/丸紅株式会社グローバル総括部(株式会社丸紅経済研究所)勤務
普段のレポートは一部丸紅HPに掲載しております。








