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        季節のご挨拶2026年夏

        2026年7月

         

        みなさまこんにちは。鈴木貴元です。

        この7月1日で北京在住11年目に入りました。米国赴任からだと12年半が過ぎ、十二支を一周しました。

        この半年は、仕事がさらに忙しかったです。コロナ禍が明けてから3年。日中の人の往来は、2023年のコロナ禍明けの在中駐在員の大幅な入れ替え、翌2024年の円安による中国人旅行客の訪日急増と日本人ビジネスマンの訪中急増によって正常化が進んだ後、昨年2025年、大阪万博の開催などもあって公式的な往来も復活すると期待しましたが、同年11月以降、日中関係が大きく悪化し、公式的な往来の復活への道はふりだし以前に戻り、その後、イラン戦争の開始とその影響で国際環境も急変。日中の往来は大きく減少していきました。そしてこうした状況を受けて、私の本業では、経済・社会の分析もさることながら、米中・日中関係の観察、中国での財界・シンクタンクの観察の方がさらに多くなりました。ちなみに、北京一般のチャイナウォッチは、昨今「Pekinology」、「中国学」が活発になっていて、北京大学、清華大学、中国人民大学等の研究者や、元ブルッキングズ研究所の研究者で現在香港大学を拠点に活動されている李成氏、シンガポールを拠点にコンサルタントをしているスティーブン・オークン氏などが表での議論を盛り上げています。北京の場合、政府に近いインナーの方々と、一般のチャイナウォッチングのサークルには壁があります。前者には、共産党政治と外交を結びつける役割があり、後者には、それを議論や宣伝などで広める役割があるのかと思います。北京の言論サークルには巨大な中国の政治・官僚機構と、世界中のチャイナウォッチャーが集まってくるので状況を抑えるのは、自分の専門外までみようとすれば本当に大変です。ともあれ、これらの動きをSNSやセミナー、ヒアリングなどで観察し、そのインプリケーションを還元することをしてきました。

        また、私の勤めるこちらの会社では、日中関係が厳しい今こそ、中国事業を底上げしていこうという状況になりました。そこで社内アドバイザリーとでも言える仕事が増えました。総合商社は、製造業や他のサービス業と異なり、「守り抜かないといけない」事業(本業、社業)が明確に存在しません(得意分野があるとかは別として)。これはある意味厳しいです。新規事業を行う際などに、どこに貢献するのか、どことシナジーを生むのかなど、事業の貢献を考えるための収益以外の評価軸が定まっているようで定まっていないからです。会社として明確な本業、社業を持っていた方が、いろいろな事業をする際に思考手法がシンプルになります。「薬屋は薬を売る」、「車屋は車を売る」。「総合商社は?部門収益?多様に設定?」。そんなことも些か悩みながらやっていました。

        このようにこの半年は、マクロ経済やら社内の各種事業やらを見つつ、米中関係、日中関係、国際関係などやらを幅広にみてきました。話題は、景気、技術、「中国おばけ」、トランプ訪中、日中などでしょうか。個人的には、華北・東北地方を中心に旅行に行って、ウニづくし、砂漠リゾート、天津の山など、ちょっとゆっくり過ごせる休日を試してきました。

         

        景気について気付いたこと(テクニカルな話ですみません)

        7月中旬に最新のGDP統計が発表されます。第1四半期に前年比+5%をみせた実質GDP成長率はどうなるのか?ここはあまり話題になっていませんが、きちんと説明し、予想するのは難しくなっています。2026年通年の見通しについては、直近、イラン戦争も、インフレ圧力もありましたが、+4%台前半から半ば(+4~4.5%)ほどというのが大まかなコンセンサスとなっています。しかし、それがどのような経路を描くのか?と言われると、通年成長率の予想から逆算して、第1四半期の前年比+5%から四半期毎に同+4%→+4%→+4%(通年で+4.3%)とか、同+5%→+4%→+4.5%→+4.5%(通年で+4.5%)とかになります。また、足元が予想外に堅調で同+4.6%位ではないかという見方もあり、これを取り入れると、同+5%→+4.5%→+4.5%±0.2p→+4.5%±0.2(通年で+4.6%)と言った経路になって、景気は「ここしばらく低調で、その後、顕著に加速することはない(俗にいう「L字」)」という結果になります。

        難しいのは、今の景気減速をどうみるか?です。足元の景気を悪化させた出来事と言えばイラン戦争があり、これは購買力を低下させるインフレの原因、消費・投資意欲を減退させるショック要因となりました。足元、戦闘停止が続けばその逆が起こる、またはすでに起こっているのかもしれません。しかし、イラン戦争がなくても、中国の消費・投資は調整局面に入っていたので、すぐに上向くことは難しいと思われます。また、消費・投資が大きく下に向いても、政府は強い支援策で成長を支えるつもりはないようです。政府は景気をふかすことの負の影響(債務問題、内巻問題、地方の規律の問題など)を懸念する一方、AIなどのイノベーションに強い自信を持っており、短期的な景気政策を控える姿勢をみせています。政府が発表した4、5月の統計は、そこからGDP成長率を機械的に試算すると前年比+3%台であり、内需が非常に弱いものでしたが、実態がどれほど弱いのか、そこは数字と政府の説明の内容がずれていて、政策見通しをやりにくくしているところがあります。

        そこに関連して、最近の統計の発表では、主要各統計に於いて、ヘッドラインとなる平均の数字と、各統計の中で新しいカテゴリーの数字が好調などと伝えられています。例えば、サービス業に於いて、企業向けサービス業及び家計向けサービス全般の好調が伝えられています。しかし、その統計は断片的であり、サービス業のヘッドラインの数字と、数字が発表されている企業向けサービスを使って、家計向けサービスの数字を逆算してみると、家計向けサービスの伸びは小幅にとどまっている可能性が高いことがわかります。中国の最近統計は、各項目の肝心なところに不透明さがあり、発表されている統計は各項目とも「二極化」という、好不調が入り混じった姿になっていますが、それは発表されている以上に経済が両極化しているかもしれないのです。

        統計のテクニカルな話になってしまいましたが、こういう統計の読みにくさがあると、景気の資料や予測の数字を立てるのが大変になります。政府専門家による解説会などに複数参加すると、景気や政策の個人的な考え方の違いがみえてきますが、そういう考え方の違いが一般の人の情報の場に表れてきにくいというのは、なかなか不便です。レポートを書く時には、数字の分析、数字に対して中国の一般の人や政府内外の専門家がどうみているのか。政府専門家の間での議論にどのようなものがあるのかをみますが、日本の景気討論会や国会の議論にあたるものが少ないだけに(SNSでの評論とかは多いですね)、情報を集めるのも、比較してみるのも難儀に思います。

         

        スマートウォッチからスマートグラス、AIからフィジカルAIへ

        昨年の春節の最大のヒット商品はスマートウォッチでした。今年の最大のヒット商品はスマートグラスのようです。これは、昨年のような春節土産商品にはならず、セミナーなどを録音して議事録を自動作成したり、同時翻訳を行ったりと、ビジネスニーズで売れているようです。また、同時翻訳のイヤホンなども売れているようです。ただ、普通のメガネやイヤホンとの区別がつかず、購入した後、皆さん本当に使っているのか、私にはよくわかりません(これを使っている私の友人は1名しかいません)。スマホでも録音、同時翻訳、議事録作成ができるので、わざわざメガネにしなくてもと思ったりします。必要性がどれほどあるのかも疑問に思いましたが、それはともかく、仕事の場でのこうしたグッズ、アプリは急速に多様化しているようです。(ここから少し脱線しますが)私はゆっくりAIに慣れていっていますが、インターンの若い方などはよく使いこなしています。ただ、AIの難点として「正しさのチェックが難しいなあ」と、中国経済の資料を作って思っています。今年は新しい5カ年計画の初年度で、各地方政府や各部局が、この1、2カ月の間だけでおそらく合計2,000ページを超える文書を発表しています。まとめの文章を、AIを使って作ってみましたが、自分の記憶や認識と違う記述が各所にあり、結局使えるかなと思った部分は、自分で資料を読み返し、チェックができた部分だけでした。AIは膨大な情報を一見きれいに処理してくれますが、AIはきれいなアウトプットを出すために妄想するようです。「ハルシネーション」というようです。個人的な見解ですが、中国政府の統計文書の場合、1つのデータセットの中に「未公表」が多い。伸び率だけ発表して実数値を公表しない場合が多い。1つのデータ発表の中に「前年比」、「前期比」、「年初来累計前年比」など異なる方法での比較が整理不十分な状況で混在している。過去のデータの修正について説明する文章が資料としてほとんど出されない。各統計数字の意味についてのクロスでの解釈がほとんど示されない、など誤解や理解を阻害する状況が元々にあり、この状況でAIを使ってできることは、今のところ一部をまとめることくらいかなと思っています(それ以上のことをやると、仕事が幾何級数的に増えてしまう感じです)。

        話を元に戻しますと、AIが普及してきた中で、今年はフィジカルAIがビジネスの中では流行っています。去年の夏の二足歩行ロボットマラソンはまともに完走できたものはわずかでしたが、今年は人間を上回る世界新記録を樹立。期待は高まりました。実際の仕事がちゃんとできるかと言われると、モノを運んだり、選んだりするくらいと、「あまり良くない出来」との評価のようですが(モノに触れたり、空間を認識する能力はまだまだとの評価のようです)、例えば、物流に必要なコストは、世界的にGDPの1割相当。中国ではそれよりも高い状況です。そこに従事する労働者は段々と高齢化。人員減少・効率化の必要性を考えれば、二足歩行かどうかはともかく、自動化・ロボット化などによる解決は一つの解決策と考えられます。自動化、ロボット化は精密作業とか、高付加価値作業から始めるというイメージがあるような気がしますが、今は一般的な作業とか、低付加価値な作業から始めるのがむしろ有用になっているように思います。これは、ロボットの生産コストが劇的に安くなってきていることと、ロボットに求められる機能が「作業」から、「移動+作業」になってくる中で、「移動」することで効率性を得られる部分にも付加価値がでてきていることからきていると思われます(ロボットと人をトータルでどう使っていくかという観点で効率化や作業目標の達成を図るのであれば、ロボットの足元の性能の良否の問題は必ずしも本質的な問題ではないと感じます)。

        これにより、昨今、中国では生産や作業の工程の全面的な見直しが起き、各所にダークファクトリーの試験工場が出来、未成熟であるものの、より広いフレキシブル・マニュファクチャリングシステムが出来ようとしているようです。中国の設備投資は米国を上回る世界1位です。いまだに産業とインフラの投資だけでGDPの3割(1000兆円以上)を占めています。そこで大型投資が数年続いて起きてくることは、さらに厳しい生産競争と思われます。ただそこをよく見ると、決して全て最先端技術で競争が起きている訳ではなく、生産現場を「最適にまわす工夫」のように思います。中国はここで世界の先を行ってしまうのでしょうか?ここは本来日本人の得意な領域なのではないかと思うのですが。

        一方、中国の民衆のロボットブームは、今年はやや下火になっていると思います。ショッピングセンターでロボットがダンスをしたり、カンフーをしたり、ボクシングをやっていたのは去年の話で、今は少なくなりました。春節に天津のショッピング街でロボットがダンスをやっていましたが、誰も振り向いていなかったのが少し印象的でした。ロボットの浸透の速さを感じました。

         

        「中国おばけ」の話

        中国の調査の仕事していると、「気をつけてくださいね」というようなことをよく言われます。中国語で「調査」という言葉には機微な意味が含まれており、トランプ1.0の頃から、エコノミストの間では、扇動するようなレポートについては当局からお呼びがくると言われていました。私のいる部門が「経済研究チーム」となっているのも、そのためです。ともあれ、実際に何も起こらなくても、、、「何か怖い」というのが、昨今の、特に海外からみた中国の印象であり、その印象は益々増えています。ただ、日本では何でも「怖い」となってしまうようなので、「いったい何が怖いのか」というのを分析することになりました。特に投資に関して業務上のインパクトが多いため、投資まわりをみましたが、いくつもの再発見がありました。

        一つ目は、米中日それぞれにとって、社会や国家の脅威には、かなりの差があることが再認識できたことです。米国は経済、外交、軍事、金融、技術などどれをとっても世界トップであり、米国にとっての脅威は「覇権的立場や優位性が「薄れる」こと」です。米国の経済や軍事の優位性が外部から崩れる懸念は「政治的分析としては存在」しますが、目の前にある実際的な懸念ではないように思います。一方、中国は、経済、外交、軍事、金融、技術などの実力を、自ら強固に保証できるようになったわけではなく、また、領土・領海の問題や統一の問題もすぐ隣の国・地域との関係で揺らいでいます。中国が感じている脅威は、経済や軍事の力の保証に対してもそうですが、外部の動きへの懸念もなお実際的な懸念と言えそうです。しかも、歴史的に外国に自立を奪われたという意識が根強く、彼らにとっての外部からの脅威の懸念は、数値化できるのだとすれば、大きな数値を示すと思われます。そして、日本は、各種の実力が低下しており、それがさらに低下することと、領土・領海の問題、地域の安全保障の問題にぐるりと囲まれていることを脅威として感じているようです。

        よりざっくりと言えば、米国と日本はパワーを奪われることそのものに関心があり、中国はパワーを得る機会を奪われることに関心がある。米国の懸念は、中国や日本に比べて実際的な懸念ではなく、日本と中国の感じる懸念は、すぐ周りの外部関係(お互い)において実際的になっている、ということでしょうか。

         

        少し脱線しますが、こうした状況を土台として、米国と中国は、足元、脅威の絡み合った糸を、対話の枠組みを作ることでひとまず落ち着かせています。5月のトランプ訪中です。「脅威だ脅威だ」と互いに言い合っても何ら安定しない。米国にとっての脅威と中国にとっての脅威は、目標や重要性のポイントが重ならないところが多いので、妥協、ディールを促すところがあったのかとも思います。他方、中国にとっての脅威と日本にとっての脅威は重要性のポイントが多く重なり合っています。妥協よりも競争、対抗が起きやすいところがここにあるのかと思います。これが日本にとっての「中国おばけ」の核心だと思います。日中は利害が実際的に共通するところが多いので、競争、対抗が起きやすく、本来より多くのコミュニケーションが必要なのですが、今は逆の方向に向かっています。しかも、様々なところで不利、不都合に出会いやすくなっている日本は、米国を利用して中国を抑止する状態を維持しようとしているのでしょうが、その大義を形作っている「自由で開かれた民主社会」などの考え方が、今や米中日の間で相対的なものになってしまっています。アセアンなどはご近所ですが、明確に日本の味方になってくれません。日本からみた「中国おばけ」は、日本の自己認識・立場認識の不十分さも大きく働いていると結論づけられるかと思います。これはとても大きな問題です。

         

        二つ目は、各国にとっての「おばけ」の大きさは、「場合」によってさらに異なるということです。一般にセンシティブになるのは、国家や個人の情報に関する分野、食品やエネルギーといった生命・社会維持に関する分野です。ただし、食品やエネルギーの自給率が100%を超の米国と、同じく8~9割に達している中国、それに対して、数割にも達しない日本では「センシティブさ」が異なります。他方、米国はカナダやメキシコ、南米と陸続きで、それが自動的に経済圏を形成するものの、米国ではこれが「移民問題」となる。一方、中国は10数カ国と陸続きで、ミャンマーの少数民族問題、中央アジアの宗教問題などと隣り合わせながらも、道路、鉄道、パイプラインなどを越境させて新しい経済圏を形成させようとしている。陸上国境のセンシティブさは米中では大きく異なります。目を転じて、中国とベトナム、中国とフィリピン、中国と日本の海上国境については、関係双方の認識はすれ違っていて、しかも、すれ違いの度合い、争っている度合いは、それぞれ異なり、日中関係では大きな問題になっています。「中国おばけ」の問題は一つの論理では片付けられないことが改めて頭で整理できました。

        三つ目は、「中国おばけ」作業を通して、米国、中国、日本の経済安全保障の制度を比較整理していく中で、いつの間にか中国で経済安全保障制度が体系化され、内外貿易、対内・対外投資ときめ細かく整備され、制裁を受ければ報復する状況がてきていたことがわかりました。国会での与野党対立も、世論も希薄な中国ならではのスピードと体系化なのかなと思いました。

        ともあれ、中国おばけ議論は続いています。目標は、中国事業の議論(仕事の場合はリスク対応のチェックなのですが)において、中国リスクの根拠不明な部分を明確化し、迷信の部分にきちんと対応することを論理化、マニュアル化することです。法制度や日中関係の事案はどんどん積み上がっていくわけですが、会社の事業のみならず、一般的な日中関係についてもよりうまく説明できるようになれば、世の中の一助になるのではと思っています。

         

        華北・東北巡り

        この半年の中でのお休みは、中国国内では近場の華北・東北をちょろちょろしてみました。まず、お正月に行ったのはすぐ隣の天津。同地で最も古いホテルに泊まりました。ホテルの地下階にはそのホテルの博物館もあり、英国人による開業以降、天津の発展とともに営業を続けた様子が展示されていました。私が泊った部屋は、中国の元有名外交官が愛用した部屋。日中戦争の間は、共産党軍が連絡のために使っていた部屋でした。その2つ隣には孫文が泊った部屋、ほかにも多くの有名な内外要人が泊った部屋があり、ホテルの廊下は、チャイナドレスや中国服を着て記念撮影する人があちこちにいて、100年前の雰囲気を味わうことができました。

        その後に行ったのは大連。空港と街の中心地の間にある地元の市場にいって生ウニをたくさん食べました。市場をぶらぶらしながら、適当に食べ歩くのはいいですね。またその後、数年前にオープンして、今や廃墟的になった京都をモチーフにした観光地(中心地から60㎞)を見に行きました。「少しは人がいるのかな?もしかしたら意外と流行っているかも」などと考えていってみましたが、日中関係も影響しているのか、全部合わせて2、30人位しか人はいませんでした(清明節です)。京都風の町の周りには日本建築風の別荘が数百戸あり、民宿などにして一部が使われていましたが、歩いていけるところには店はほとんどなく、なかなかシュールな観光地でした。開業時には、北海道十勝の豚丼とか、日本の珍しいお店もたくさん誘致していたようですが(たしか、開発には数十億円かかったときいています)、「日中関係の微妙さとはこういうものなのだな」という典型をみることができました。

        さらに内蒙古のオルドスにもいきました。労働節です。緑化が進んできており、砂漠をみにいきましたが、砂漠のレジャー施設の周りはすでに緑化が進んでおり、砂漠は人工的に残されたものでした。バギーにのって斜め45度で走ったのが面白かったです。オルドスの街は中心部に王府井百貨店などが誘致され、そこに来る地元の方の車も高級外車が多く、さすが中国有数のお金持ち街という感じでした。郊外の鎮(小さな町)にもいってみましたが、これまで見た中で一番清潔で整った町でした。オルドスは石炭・石油の産地であり、住民へのサービスレベルはかなり高いものでした。ホテルでモンゴルの宮廷の服を着て、宮廷料理を食べながら、踊りのショーをみるというのに参加したり、花火大会に参加したりしましたが、お客さんの半分くらいは河北省と陝西省。それに北京市、天津市あわせて7,8割という感じでした。夜の10時過ぎまで音楽に合わせて踊りと花火が続き、なかなかのエンターテインメントだったと思います。中国の地方のエンタメでは、馬をたくさん使ったショーをやったりしますが、ここにも盛大な馬のショーがありました。オルドスを中心に外モンゴル国境近いところから、陝西省近くまで南北を主な軸にみてまわりましたが、どこに行っても面白いアトラクションがあり、退屈は全くしませんでした。

        ついこないだは、天津郊外のパン山にいきました。ここは鉄道が一日数本しかとまらず、しかも高速鉄道はとまらないので、鉄道だけで行くと北京から普通に2,3時間。北京からの距離は80㎞ほどしかないのですが、非常に不便なところでした。乾隆帝の碑というのがツインピークになっている一つの山頂の近くにあり、もう一つの山頂には10元で10回つくことができる鐘がありました。そこからは北京の街がみえるんです。家の近所のCITICビルと中央電視台のビルがはっきりみえました。改めて北京が平たいところにあるのだなと確認できる登山でした。

        華北・東北の近場は、これまでもぐるぐるしましたが、昨今はちょっと不便系を探してみました。赤いトレーラーヘッドのトレーラーが土ぼこりを立てて、周りに何にもない農村部を列になって爆走する風景はこんな近くにもまだあったのですね。オルドスでは、炭鉱から出てくるトレーラーがそうでしたが、パン山の旅行でも、河北省の回族自治区の中を走った時には、同じようにトレーラーがたくさん走っていました。私はそういう風景をみるのが好きなので、うれしかったですね。また、そういう風景をみていると、中国960万㎢は「まだまだ開発・整備されておかしくないところがいっぱいあるなあ」と思うと同時に、「ここを開発しても誰も来ないだろうな」というところが非常に多いことも改めて感じました(人口が10倍とはいえ、日本の可住地面積が全体の2割程度、中国は開発すれば可住地になるところは半分くらいあるでしょうから、「平らで開発できそう」という意味での中国の面積は日本の50倍くらいはあるといえそうです)。普段中国経済を観察していて、この国の都市から農村までがどのように発展していくのか見ていますが、開発されず手付かずで残る場所が、日本よりももっと高い割合で残るのだろうなあと思います。

         

        日本と中国の違い

        日本に戻ると「中国大変ですね」と言われます。また、日本の中国に関するテレビをみると、中国がまるで日本と違った社会のように言われます(政治的からのイメージなのでしょうが)。先日、日本の方が拘束される出来事があり、それに関する日本の政治家の方のコメントを聞くと、拘束された人が拷問でも受けたようなトーンで心配を述べていました。この時代に於いてどういうイメージで中国をとらえているのでしょうか?イメージのギャップは大きいのだなと思います。日本に頻繁に来ている中国人の対日イメージでも、昨今ではAIなどで作った日本映像が増えていて、事実・意見などとともにそこからデフォルメ・想像された勝手なイメージがごっちゃになっているようにもみえます(日本側の中国情報は日本の評論家的視点から情報が相対的に多く、中国側の日本情報は日本から出てきた「とんでも「日本」事情」が相対的に多いように思います。どちらも情報の一部を切り抜いてああだこうだ評論するものですが、一次ソースに近いところでみているのは中国側の情報で、日本の情報は二次ソースが多いですね。これは往来の量の差が影響していると思います)。ただ、「自分や家族のために働いて、おいしいもの食べたり、きれいなものをみたりできる平穏な社会に暮らしている」という一般的な人間の像はどちらの国も変わらない。それが日中の90数%(残りの違いの中に互いの歴史や文化、いろいろなものがありますが)。中国に住んでいてそう思います。

        社会主義は、「資産を持たない」、「土地が公有」とか言いますが、市場主義の中で、「都市計画によって土地利用に大きな制限をかけたり」、「高い相続税をかけたり」というところと程度の差があれ、効果としては同じであり、「政治にどう民主を反映させるか」というところでも、詰まるところ「これが正しい民主の形態」というのはありません。一応民主化度を計測する指標がありますが、「幸せか不幸せか」という別の尺度でみると、中国は幸福度が結構高く、政治用語での比較は誤解を招きやすいということに気づかされました。

        中国小売りチェーンNO1は米国のウォルマート。マクドナルドとケンタッキーはどんな街にもあり、漫画・アニメショップ、キャラクターショップがショッピングセンターの目玉になっています。これはすでによくみる光景です。今は中国文化ブーム(国潮)と言われていますが、外国発のものは深く浸透しています。そういう共通性から日中の関係改善または安定化ができないものか?と思います。

         

        日本の「17の戦略」について

        日本では17の産業について300兆円以上のお金を投じる振興策が行われるようですが、技術的優位性や重要資源の確保といった、戦争における抑止力や継戦能力に注目するところが多いようです。ただ、日本の国力がそれだけで高まるのか疑問です。10年前に中国に来た時の日本の為替は対ドルで110円くらい、対人民元で15円くらい、現在はそれぞれ160円、23円ですから、日本の輸入物価は、ドルベースの輸入物価分だけで2、3割は上がっているはずですから、円ベースでの輸入物価は1.8倍から2倍くらい上がっているはずです。円の購買力はものすごく下がっています。そこで重要なのは、「輸出競争力」ということになるのかもしれませんが、それと同じく重要なのは「輸入を抑えること」です。食糧、エネルギー、情報サービスなどでしょうか?これらは、特に一部の商品・サービスは品質が上がっていくわけでもなく、サブスクの値上げと同じような形でお金の流出になります(具体的にできそうなことは、食糧増産、物流・流通改善、再エネ・原子力の活用(再エネ機器は中国製が安いですね。やっぱり)、国産アプリの利用、国産カードの利用等、もっとできることはないでしょうか)。日本は対米黒字があるといいますが、対米黒字の多くは日本に還元せず、米国に滞留しています(最近は金融投資も)。また日本のモノの黒字の多くは自動車関連であり、日本の幅広い産業が利益を得ているとは言い切れません。円がここ数年で安くなったのは、この貿易・マネーの構造的脆弱性(産業、金融、外交を含めた過度な米国依存)に多く起因していると思います。日本政府はこの構造にもう少し手を付けてもいいのかなと思います(インフレが続いても実効レート高になっている米国の為替・金融問題は日本がどうこうできるものではないと思いますが)。いくら技術で優位を作っても、その利益が円安で相殺されては骨折り損です。海外との競争で日本を強くするなどというのであれば、それは競争相手である海外の貨幣単位「ドル」で語るべきで、日本でいくら投資をしても、円の価値が1ドル=170円、180円と下がっていっては、10年に1度の大きなドル高・自国通貨安圧力で、成長の成果がアッという間に吹っ飛んでしまう新興国の状況と同じです。日本が今陥っているのは、円の実力が「価格で」下がっているのみならず、相場形成が新興国と同じパターンに成り下がってきているかもしれないということなのかと思います。経済、特に金融の世界で日本の実力は「ちょっと大きい新興国」くらいになってしまっているかもしれないということです。日本の安全保障の「今の」状況を考えると、それは分かり切ったことで「しょうがない」ことなのかもしれませんが、「日本の実力を強化する」ということを技術や重要資源だけの問題に還元するのは稚拙かと思います。日本の方とお話しすると、「何か決め手があれば」と発想する方が多いのに気づかされます(今の17の戦略もそれに近いかもしれません)。何か一点突破すれば、そこから次がみえてくるという発想です。しかし、一点突破ができなければ、その次はいつまでもみえてきません。米国は「強いものが法律・システムを作り、使う国」。中国は「どんどん変わっていく国」。どちらも共通するのは「変わっていく」こと。日本はゆっくりとかわってきましたが、それが今の国際競争に適応したものなのかは疑問です。ここで重要なのは、個別の技術や企業の適応ではなく、日本の経済・社会というシステムの適応です。日本にいるほとんどの方は外国のことなど気に留める必要はありません(他の国をみていると、日本よりももう少し「適応」に気に留めているように感じます。企業誘致やODA・国際支援誘致などの視点でしょうか)。でも、日本という国は、その基礎となる食糧やエネルギー、情報インフラ、金融システムなどを海外に依存しています。味方であるはずの米国が日本の発展基盤である貿易システムを阻害するような時代です。戦略の意味をもう少し、海外の状況も踏まえて考えていく必要があるかなと、日本の外にいて思うところです。

         

        これからについて

        早期退職の対象者になる年齢になりました。定年までこちらに居てもよいと言われていますが、最近体力が追いついてきません。いろんなことをやるのは経験になってよいのですが、さすがにオーバーヒート気味です。とはいえ、この半年で「トランプ時代の中国」がみえてきて、そのなかでの日米中の経済構造も、技術、金融、世界からの評価などで当面どのように位置づけられそうなのかもみえてきました。これからは、自分自身のソフトランディングを考えていこうかなと思っています。

         

        おもいつたこと長々と書きましてすみません。

        ともあれ皆様引き続きよろしくお願いします。

         

        鈴木貴元

        北京市朝陽区西大望路3号C903

        +86-138-1105-5271

        丸紅(中国)有限公司勤務

        +86-10-6518-7788(内線180)

         

        普段の公開レポートは丸紅ホームページに出しています。

        たまに日本にも行きますが、そろそろお世話になった方々にご挨拶などしたいので、皆様の近況などご様子をいただければ。お時間あるときに思い出していただけると幸甚です。

         

         

         

        制作協力企業

        • ACデザイン
        • 日本クラシックソムリエ協会
        • 草隆社
        •                 AOILO株式会社

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