BIS論壇 №.516 『骨董事始め』 中川十郎 2026年5月27日
商社のインド・ニューデリ駐在時代、東京本社の非鉄金属部長から下記指示が来た。会社の重要得意先の社長がインド向け消火用スプリンクラーおよびハンダ売り込みに訪印される。この社長は東大経済学部河合栄次郎教授門下の秀才で、ビジネスだけでなく、東西の芸術文化にも詳しく、特にイランとインドの古美術。骨董の有名な収集家でもある。鎌倉の自宅の山に収集された古今東西の美術品、骨董の美術館も所有。さらに発展途上国の美学生に奨学金を提供。日本への留学の支援もしておられる。東西の骨董に関する著書もある。さらに国際ロータリークラブの国際理事長としても活躍中である。
ニュ-デリでのビネスが終了したら、印度博物館、美術館、骨董店など訪問希望故、注意しつつ同行されたい。ただし好き嫌いが激しい方故、社長の接待、対応にはくれぐれも留意するようにとのことであった。
商談終了後、社宅にお招きし、妻が日本食を準備した。応接間に入るなり、一瞥し、商社の支店長にしては本棚に本が少なすぎ、ろくな本もないと一喝された。さらに立てかけてあるゴルフ道具を一瞥し、「宗教、芸術の宝庫のインドにきて週末日本人同士でゴルフやマージャンにうつつを抜かすなどもってのほかだ。ゴルフもマージャンもやめて週末は博物館、美術館、骨董店を訪問し、インドの美術、芸術を勉強すべきだ」と力説された。
以来、妻ともども練習していたゴルフをきっぱりやめ、この社長のアドバイスに従い、週末は妻ともども美術館、博物館、骨董店を訪問し、インドの美術、宗教の勉強を始めた。
さてこの社長が、インド骨董店で求められた1500年の歴史を有するという3体の仏像を航空会社が重いので1体しか受け入れないということになった。社宅に2体の仏像を持ち込み、3か月骨董屋から借りたので、3か月朝晩眺め、魅力を感じたならば購入しなさいと筆者とニュデリ支店次長にアドバイスがあった。この仏像に引き入れられ、本物ではないかと信じ、この仏像を購入することを決めた。以来インド駐在中、細密画、真鍮の仏像なども購入を始めた。インドより帰任後、この仏像を自宅の玄関に置き、40年間日夜鑑賞し、インド駐在時代を懐かしく思い出している。
この社長には気に入られ、以後、筆者の駐在先のブラジル、カナダ、米国NYを訪問いただき、一緒に現地の博物館、美術館、骨董店を訪問。長年にわたり、夫婦ともども骨董収集をご指導頂いた。そのおかげで我が家では海外駐在8カ国、20年間に収集したかずかずの骨董に囲まれ、海外の思い出に浸っている毎日である。
この噂を聞かれたアジア民族造形学会会長さんが先日、我が家をご訪問され、8月の同学会で「わたしの骨董事始め」と題し、講演させていただくことになった。不思議なご縁に
筆者を骨董の道に案内いただいた千住金属・故 佐藤千寿元社長に深謝する次第である。








