2020年5月1日発行
世界の最新トレンドとビジネスチャンス
第201回
アメリカが敵視する中国、北朝鮮、イランが進めるデジタル通貨戦略(前編)
浜田和幸
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世界中が新型コロナウィルス(COVID-19)という「見えない敵」の猛威の前にたじたじとなっている。
日本もアメリカも感染の拡大が収まらず、「ロックダウン」の影響で多くの経済活動が中断や停滞を余儀なくされてしまった。
このままでは戦後最悪の不況が避けられない状況だ。2020年の東京オリンピック・パラリンピックは2021年への延期が決まったが、パンデミックの第2波、第3波が起これば、中止という選択肢が現実的になるだろう。
これまで人類は様々な感染症と向き合ってきたが、今回のケースはいつ終息を迎えるのか、全く先が見えない。しかも、自然発生なのか人工的な生物化学兵器なのか、その発生源すら特定されていない。特効薬やワクチンの開発も各国の研究機関や製薬メーカーがしのぎを削っているが、ビル・ゲイツ氏曰く「早くても2021年になるだろう」とのこと。もちろん、効果の期待される治療薬の開発に係わる企業の株価は急騰を続けている。
それどころか、世界3大富豪(ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾス、ウォーレン・バフェット)の資産は過去3週間で2820億ドルも膨らんだという。その結果、過去30年で彼らの資産は110倍に増えたことになる。また、ゲーム関連の企業も好調に推移しているところが多い。とはいえ、富豪の間でも悲喜こもごものようだ。
たとえば、在宅勤務やテレワークが増えた結果、フェイスブックの利用者は急増し、今や世界で30億人がインスタグラムやワァッツアップなど、同社のアプリを使うようになった。しかし、若手の大富豪ザッカーバーグ社長曰く「利用者は増えているが、収入は大きく減っている。経済活動が低迷し、先行き不透明感が影響し、自動車から旅行産業まで宣伝広告費を切り詰めるようになったからだ」。
グーグルやツイッターも同じ事態に直面している。
要は、人やモノの移動が大きく制限されるわけで、これからは単なる「グローバル化」ではなく、「ニュー・ノーマル」と呼ばれる新たなビジネスモデルが必要とされているのである。そのカギを握るのは「デジタル革命」を受けて立つという「経済安全保障」的な発想だ。
その先行きを象徴するかのように、「ポスト・コロナ時代」の金融や国際貿易の在り方を一変させるような動きが静かに始まった。ある意味では、国際関係そのものを覆す可能性を秘めている。「デジタル革命」の嵐が間近に迫っている。その震源地は今回のコロナウィルスと同じで、中国に他ならない。
これまで国際貿易の決済は90%近くがアメリカのドルで行われてきた。各国の外貨保有の60%はドルである。そして世界の通貨流通量でいえば、ドルが44%で圧倒的な強さを誇っている。ドルが「国際機軸通貨」と呼ばれる所以である。ちなみに、ユーロは16%、円は11%、ポンドが6%、豪ドル、スイスフラン、カナダドルがそれぞれ3%。
人民元に至っては2%に届かない。これでは中国は面白くないはずだ。なぜなら、現在でも世界第二の経済大国を自負し、2049年の中華人民共和国建国100周年までには「アメリカを抜いて世界第一位の座を目指す」と公言しているからである。「国力のバロメーター」でもある通貨がこれほどマイナーというのでは、「中国の夢」も覚めてしまう。
習近平国家主席とすれば、起死回生の意図を秘め、デジタルの世界で覇権を取ろうという戦略に舵を切ったと思われる。よく知られているように、中国では現金に代わってスマホを使って商品やサービスを購入することが既に一般化している。現金志向の強い日本とは大違いである。アリペイやウィーチャットペイが広く普及しており、本土でも香港でも、タクシーやレストランの支払いはデジタルで行うことが多い。ただし、これは中国に銀行口座がなくては使えない。
中国の人口は14億人を超えているのだが、2億人以上の大人は銀行口座を持っていないといわれている。つまり日本の全人口以上の人々がアリペイもウィーチャットペイもクレジットカードの銀聯カードも、銀行口座がないために使えないわけである。
そこで、中国政府は銀行口座がなくても使える「デジタル人民元」を普及させようとの大方針を決定したわけだ。中国人民銀行はじめ4大銀行とチャイナ・モバイル、チャイナ・テレコム、銀聯カードを発行するチャイナ・ユニオンペイ、ファーウェイの8社がデジタル人民元ビジネスを始めることになった。
しかも、アリペイやウィーチャットペイが使えるところでは、デジタル人民元も必ず使えるようにしなければならないという法律まで整備したのである。本気で中国政府はデジタル人民元の普及に取り組み始めたようだ。中国では中央集権型のP2P(個人対個人)決済を想定しており、日本で普及しているSuicaと同じ原理である。もともとはソニーが開発した技術であるが、JR東日本の持つ巨大なデータベースで管理する仕組みに他ならない。中国はこの仕掛けを学び、いわば「Suicaの人民元版」を目指しているわけだ。
アメリカが安全保障の観点から最も警戒しているファーウェイもこの取り組みの中心的存在となり、存在感を高めている。ファーウェイの端末にはデジタル人民元が使えるウォレット機能が付いている。人民解放軍の出身である創業会長、レン・チェンフェイ氏は飛行機のチケットもタクシーの支払いも自社製のウォレットを愛用しているという。
中国に限らず、世界中で銀行口座は持っていないがスマホは持っているという人は多い。インドやブラジル、アフリカなどでは、人口の80%から90%は銀行口座がない。そんな国でも国民の大半はスマホなら持っている。そうしたスマホ人口にデジタル人民元の網をかぶせようというのが中国の「ポスト・コロナ戦略」なのである。
2020年4月、中国政府はデジタル通貨普及に向けての計画を発表した。それによれば、この5月から国内の主要4都市において、公務員の給与の一部をデジタル人民元で支払うという。この発表を受け、中国国内の主要市場では関連する企業の株価が急騰し、2日連続で取引停止となったほどである。
その背景には習近平国家主席が自ら音頭を取る「ブロックチェーン大国化」の意図が隠されている。この4月末、
習主席は「コロナ克服宣言」と、延期していた全国人民代表大会の「5月22日開催告示」と共に、ブロックチェーン関連の224事業にゴーサインを出した。フィンテック関連の事業が多いが、ウォルマート・チャイナ、アリババ、バイドウ、チャイナ・モバイル、中国商業銀行などが受け皿となっている。もちろん、推進企業の先陣はファーウェイとテンセントである。
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