2020年3月6日発行
世界の最新トレンドとビジネスチャンス
第194回
トランプ大統領もかなわないインドの強かな国際交渉力(後編)
浜田和幸
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「アジアの時代」を象徴する狙いを込めて、日米が主導して推進してきたTPPも、トランプ大統領の鶴の一声でアメリカの参加は見送りになった。「アメリカ・ファースト」の掛け声の下、アメリカは内向きの姿勢を強めている。状況は異なるが、参加は間違いないと思われていたインドがRCEPを辞退したことで、安倍首相が「最も信頼している」と豪語してきたトランプ大統領に止まらず、モディ首相からも袖にされたということだ。
とはいえ、注意すべきリスクは他にも生まれつつある。
中国の南シナ海からインド洋にかけての「海のシルクロード」構想である。中国の南シナ海における軍事基地化の本当の狙いは何なのか。中国は新たに建設した飛行場にジェット戦闘機を送り込んでいるようだが、その目的は何か。
しかも、配備されつつある戦闘機はロシア製のSU-35と目され、世界最高の性能を誇るもの。アメリカも一目置く存在だ。
アメリカを誘い出した上で、ロシアとも結託し、超大国アメリカを潰す戦略に舵を切ったとでもいうのであろうか。
言うまでもなく、財政赤字に苦しむアメリカはアジア太平洋地域において、その海軍力が「ハウス・オブ・カーズ」と揶揄されるごとく脆い存在になりつつある。
そうしたアメリカや日本にとっての「不都合な真実」を見越した上での中国的深慮遠謀のなせるワザなのか。
もちろん、別の見方もあるだろう。
しかし、いずれにせよ中国は単なる資源獲得に止まらずアメリカを抜く超大国への道を目指していることは間違いなさそうだ。
言い換えれば、世界の覇権国家を目指しているといえよう。この点を見誤ると、アジアの安全保障環境は崩壊する。
中国は岩礁の基地化を通じての広範な領有権を追求しているだけではないからだ。
その点でも、中国の真意を読み解く必要がある。
とはいえ、中国は武漢発の新型コロナウィルスの感染拡大で政治的にも経済的にも厳しい状況に直面している。
習近平主席は「中華人民共和国建国以来、最大の危機だ。
人民戦争の覚悟で戦い勝利せねばならない」と異例の激を飛ばしている。
どのような形で終息するのか先が見えないが、こうした感染症は中国に限らず、アメリカのような先進国でも、アフリカの途上国においても毎年のように頻発。アメリカでは昨年、インフルエンザで1万4000人が命を失っている。
最も注目すべきは、現在拡大中のウィルスは生物化学兵器の可能性も指摘されることであろう。
自然界には存在しない変異を重ねるウィルスではないかとの疑いも出ているからだ。国際社会が生物化学兵器の禁止条約を厳守すると同時に医療面での最新の知見を共有し、一刻も早い感染拡大の防止と治療体制の確立を図らねばならない。
実は、2019年10月、武漢では4年に1度の「世界軍人競技大会(軍人オリンピック)」が開催されていた。
第二次世界大戦の戦勝国の軍人が肉体的限界に挑戦しつつ、お互いの理解と友好の精神を涵養するのが目的である。敗戦国の日本には参加資格がないのだが、中国はもちろんアメリカ、ロシア、イギリス、フランスなど多くの欧米諸国の軍人アスリートが集った。
注目すべきは、その場を活用する形で、アメリカと中国の細菌兵器の研究機関同士で「大規模な感染症発生シミュレーション」も実施されていたことだ。まさに今回の新型コロナウィルス「COVID-19」の発生を見越したような動きであった。アメリカも中国も「自然発生的なウィルスを装った生物化学兵器の可能性」を常に視野に入れているからこそ、お互いの研究レベルを探り合っているのである。
であるならば、インド太平洋戦略やアジア・アフリカ経済回廊構想を進める立場にあるインドと日本は中国やアメリカにも働きかけ、国際的な感染症防止の体制を打ち出すべきであろう。日本とインドが協力すれば、安全保障からエネルギー、鉄道、医療、税制まで幅広い分野での戦略的シナジー効果を狙える。インドとの間で「ビジョン2025」を結んだ日本とすれば、アメリカやロシア、そして中国とも巧みな多角外交を展開するインドと連携し、人類共通の敵となった新型コロナウィルスに立ち向かう共同戦線を構築するチャンス到来と受け止めるような発想の転換が求められる。
実は、インドがRCEPからの離脱を決めた背景にはロシアと中国の影が見え隠れする。
ロシアの進める「ユーラシア経済連合」と中国の進める「上海協力機構」と「一帯一路構想」にインドは引き寄せられているようだ。このままでは、急成長を遂げるアジア市場で日本はビジネスチャンスを失いかねない。強かな中国やインドの上を行くような日本独自の交渉方法を確立する必要がある。その意味でも、現下の新型コロナウィルス対策は日本がインド太平洋諸国との関係を飛躍的に進化させる好機としなければならない。
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