世界の最新トレンドとビジネスチャンス
第84回
未開発状態の日本の医療ツーリズム:東京オリンピックを発展の
チャンスに(後編)
浜田和幸
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ボランティア医療通訳者はある意味では「言葉の救急車」と位置づけられる人達なわけですから、その育成や待遇にはもっと気を配るべきでしょう。そこで厚生労働省では、外国人向けの医療受診の際の説明資料の作成や、医療通訳者の育成のためのカリキュラムを作成、また多言語対応のできる拠点病院を2020年までに全国30箇所整備するための準備に取り組む始めたところです。
「医療は文化である」との発想の下、市民ボランティアの手を借りながら、日本と世界の文化の橋渡し役を支援しようとする動きであり、大いに期待したいものです。もともとオリンピックは創設者のクーベルタン男爵に言わせれば、「スポーツと文化と教育の融合の場」。近年は各種競技のスピードを競うあまり、文化や芸術といった面での交流の場としてのオリンピックの色彩が霞んでいます。
健全な肉体と精神を追求する機会であるならば、競技に参加する選手だけでなく、選手やサポーターを迎え入れる国民全体にとって、「健康とは何か」を考え、実行する場としてのオリンピックを再構築する時ではないでしょうか。
2020年の東京大会が、そのきっかけになってほしいものです。そうすれば、年間50兆円近い医療や介護に投入されている税金も減らすことができ、消費税の増税なども必要なくなるでしょう。来る10月22日投開票の衆議院選挙では消費増税の是非や、増収分の使い道が論点の一つになるでしょうが、増税そのものを不要なものとする上でも、国民一人一人の健康増進運動が欠かせないように思われます。
いずれにせよ、今や日本も世界も国境の垣根を越えて、人や物や情報が飛び交う時代になっています。まさに「グローバル化時代花盛り」といえるでしょう。時にはやっかいな病原菌が入り込む場合もあります。しかし、日本にとってはいまさら鎖国時代に逆戻りできるわけはなく、外国人がもたらす経済、文化的刺激を受け入れる方がはるかに意味のある選択肢のはずです。とはいえ、4000万人もの多くの外国人が日本を訪れることになるわけですから、彼らが安心して日本滞在を満喫できるような「おもてなし」を提供する必要があることは論を待たないでしょう。
この点、日本には世界を納得させる歴史や文化に根差した自然な「おもてなし」があり、その極意には事欠かないといえるでしょう。オリンピックに限らず、わが国を訪れる多くの外国人が日本式おもてなしに感動しているのですから。海外のテレビやネットでは、そうした日本人があらゆる生活の局面で見せる気配りを盛んに取り上げているほどです。まさに「クール・ジャパン」は海外の日本ファンの合言葉になっていると言っても過言ではありません。
実は、日本を訪問する外国人に加え、わが国には現在200万人を超える外国人居住者がいます。また、海外から受け入れている「技能実習生」の数は20万人を超えているのです。わが国の進んだ技術や技能を学び、母国に帰った後、日本で身に付けた技術を自国の経済発展のために役立てようとしている人達のことです。
これまでは実習期間が3年を上限とされていましたが、受け入れ企業や実習生からの強い要望もあり、2015年度からは5年間へ延長することが可能となっているため、日本各地で主に途上国からの技能実習生がこれまで以上に長期に渡り日本人と共に生活し始めているのです。
更に言えば、わが国の大学で学ぶ留学生の数は今のところ20万人ほどですが、やはり2020年を目標にこの数を30万人に増やそうという目標を文部科学省では掲げています。このように多様な外国人がさまざまな目的を抱え、わが国を訪れているわけで、日本経済にとっても彼らの存在は欠かせないものとなっています。彼らも日本の「おもてなし」の魅力を海外に情報発信してくれる宣伝マンの役割を担ってくれるからです。
島国・日本にとっては、異なる文化や宗教、或いは価値観を持つ外国人の存在は貴重です。日本の歴史や文化をより豊かなものにする国際交流の場が増えるわけで、日本人の内なる国際化を進める上でも大きな財産となる可能性を秘めていることは言うまでもありません。
これだけ多くの外国人が日本で生活を営み、日本式「おもてなし」を日々経験しているのですが、短期の訪問客と同様に、「最大の悩み」とも言われるのが、先にも述べたように医療分野でのコミュニケーションなのです。
医療ツーリズムを活性化させるために、2011年から、日本政府は外国人向けに「医療滞在ビザ」を発給し、通常の観光ビザより長期の滞在あるいは複数の訪日が可能となる体制を組み始めています。その上、経済連携協定が加速する中、日本で働く外国人看護士の数も増加中です。
わが国では世界に冠たる国民皆保険制度が機能しています。
日本人が季節ごとの旬の食材を楽しむという「食文化」と、いつでもだれでもどこでも診療や治療を受けられる「国民皆保険制度」が車の両輪のごとく稼働することによって、わが国は世界でも羨望の的となっている「健康長寿大国」の地位を得ているわけです。こうした食文化や医療体制といったハードとソフトの資源を世界と共有できるかどうかも、今後の日本の国際的な貢献を探る上で注目すべきテーマと思われます。
既に述べたように、メディカル・ツーリズムの分野ではシンガポール、マレーシア、タイ、インドなどが先行しています。
日本は遅れてレースに参加するわけですが、その成否を左右するのも、医療通訳の力が大きいと思われます。医療通訳者も文化と言葉の両方の架け橋として、その制度的発展が期待されているわけです。官民をあげて、医療ツーリズムを盛り上げていくことが、地域の活性化にもつながるはず。また、医療通訳ボランティアの質的向上と待遇面での改善も喫緊の課題といえるでしょう。
次号「第85回」もどうぞお楽しみに!
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