2018/07/06発行
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世界の最新トレンドとビジネスチャンス
第117回
新局面を迎えた中国の「一帯一路」経済圏構想(前編) 浜田和幸
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言うまでもなく、中国の目指す「一帯一路」新経済圏にはヨーロッパに限らず、中東やアフリカも含まれる。昨年、1500人のお供を連れて日本を訪問したサウジアラビアのサルマン国王だが、東京から北京に移動すると、中国との間で日本以上に経済、軍事の両面にわたる協力関係の強化に努めた。
特に、新疆ウイグル自治区などにイスラム教徒を多数抱える中国にとってはサウジアラビアの持つ治安関連情報と影響力は是が非でも手に入れたいもの。既にテロ対策を専門にする特殊部隊の合同演習も始まった。
現代版シルクロードの成功には周辺の治安維持が欠かせないからだ。
他方、脱石油社会への変革を模索するサウジは「サウジ・ビジョン2030」を打ち出している。実は、この中期・長期計画にとって、習近平の「一帯一路」は補完効果が期待できるため、両国は50を越える協力プロジェクトに合意した。
独裁的な王室体制には内外から懸念の声も上がっているサウジとは共通点も多く、サルマン国王は習近平主席との間では日本で見せた以上の笑顔を振りまいていた。トランプ大統領の下で、「アメリカ第一主義」と銘打った孤立主義に走りそうなアメリカと対照的に、サウジアラビアも中国もこの「一帯一路」と「サウジ・ビジョン2030」を合体させることで、より開かれた通商貿易体制をアピールしようと試みている。
昨年、北京で開催された「一帯一路」国際サミットを成功させるため、習近平指導部は準備に万全を期してきた。日本からは経団連の榊原会長はじめ、安倍総理の補佐官も二階氏に同行する形で参加。これまで日本企業はこの「一帯一路計画」には関心は寄せてきたものの、具体的な関与については「様子見」状態であった。しかし、前回のサミットをきっかけに流れが変わり始めた。
日本では認識されていないが、中国が標榜する「パートナーシップ相手国」に日本は含まれていないのである。習近平国家主席が海外を訪問する際、訪問先の国との間で「パートナーシップ関係」にあるかどうかが、常に話題となる。残念ながら、日本と中国は「戦略互恵関係」にはなっているが、「パートナーシップ相手国」にはなっていない。
実は、「一帯一路」計画こそ、そうしたパートナーシップ相手国を増やしたい中国にとっては、是が非でも参加国を更に増やす上での最大の外交上の武器と位置付けられているのである。いわゆる経済大国でパートナーシップ相手国となっていないのは日本を除けばアメリカのみである。
そして、ようやく大きな変化が生まれそうになってきた。本年5月、東京で開催された日中韓首脳会談の折に実現した日中首脳会談では日中両国が第3国において共同プロジェクトを推進するためのフォーラムを官民合同で設立することが決まった。
これこそ、「一帯一路計画」への日本の参加を後押しさせようとする政策に他ならない。
アジアのみならず中東、ヨーロッパ、そしてアフリカにも経済圏を拡大しようとする中国の夢に、日本も遅まきながら与しようとする動きであろう。
それと機を合わせるように、日本の中小企業で中国とのつながりを模索する経営者による「日中一帯一路促進会」もスタートした。
この促進会では中国の得意とする人工知能(AI)から宇宙開発ビジネスと一帯一路計画がどのように結びつくものか、様々な分野の専門家を交えて研究を進めている。中国は「サイバー空間や宇宙におけるシルクロード」計画も提唱しているほどである。これらも「シルクロード」という歴史的遺産に新たな時代に相応しい価値を吹き込もうとする中国的なアプローチに他ならない。
その意味では、「一帯一路」計画は世界を変えるようなアイディアや人材が交流する場に成長する可能性を秘めている。
そうした共同作業の機会を最大限に生かすことができれば、当面の朝鮮半島の非核化に関する難題も克服されるに違いない。
要は、柔軟な発想で研究を重ね、具体的な共同建設事業を成功させることである。
アメリカのポンペオ国務長官も述べている。
「中国に北朝鮮のレアアースを独占させるわけにはいかない。
一帯一路計画に朝鮮半島を組み込むというのなら、アメリカもロシアも一枚かませてもらう」。
日本は満鉄時代に朝鮮半島の中国との国境近辺の地下資源の探査を行い、どこの国よりも地下資源の情報を確保してきた。
中国やロシアは言うに及ばず、アメリカですら喉から手が出るほど欲しい「足で稼いだ」データである。
これを有効活用すれば、日本は朝鮮半島の非核化と一体化する経済開発事業で絶対的に有利な立場から関与できるようになる。
日本の創造的外交が期待される所以である。
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