2018/08/03発行
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世界の最新トレンドとビジネスチャンス
第121回
東京オリンピックの成功を左右する”医療通訳“による”
おもてなし“(後編)
浜田和幸
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日本が誇る和食の文化や歴史的な伝統芸能を満喫してもらうためにも、万が一、病気になった場合に、自国の言葉で症状を医師や看護士に伝えることができるかどうかは大きな問題である。こうした外国人の不安を解消するため、わが国では全国で2000人を超える医療ボランティアと呼ばれる方々が、さまざまな医療の現場で活動している。ある意味では「言葉の救急車」と位置づけられる人達に他ならない。
北海道の「エスニコ」と呼ばれるボランティア団体から「MIC神奈川」、「多文化共生センターきょうと」、「伊賀の伝丸(つたまる)」、「みのお外国人医療サポートネット」、「鳥取県国際交流財団」など全国各地の自治体が地元NPOなど市民団体と協力し、市民ボランティアとしての医療通訳従事者の育成に取り組んでいる。神奈川県の場合、近年、年間4200件を超える医療通訳を派遣した実績を誇る。
では、どのような言語の通訳が求められているのであろうか。
神奈川県の場合には、一番需要が多かったのが1579件のスペイン語。次いで1237件の中国語、次が1225件の英語であった。また、387件のポルトガル語や177件のタガログ語など、多言語の通訳が求められている。国際的な共通言語は英語ではあるのだが、英語の通じない外国人は意外に多いことが、このデータからも読み取れる。多言語通訳の必要性があるわけだ。
しかし、このような医療通訳に対して、神奈川県が支払っている報奨金は1時間で1000円、しかも交通費込みという。専門性の高い仕事であり、人の生命にかかわる大切な役割でありながら、報酬面では極めて厳しい状況といえそうだ。公募を通じて集まってきたボランティアの人達の好意にすがり、ある意味で過酷な仕事を担わせているのが実態といえるかも知れない。身分の保障もなければ、万が一、医師と患者の意思の疎通がうまくいかないことによる問題が生じたときの対応等、国際化する日本の中で医療通訳者の直面する課題は根が深いと思われる。
神奈川県の場合、現在、登録しているボランティア医療通訳の数は180人。全国の約1割の医療通訳者に当たる。しかし、これから外国人の数が増えるにつれ、医療通訳者の需要が高まることは避けられない。にもかかわらず、1000万人を超えるマーケットに2000人のサービス提供者というのでは、明らかに人材不足であろう。
そこで厚生労働省では、2014年度から特別予算を計上し、外国人向けの医療受診の際の説明資料の作成や、医療通訳者の育成のためのカリキュラムを作成、また多言語対応のできる拠点病院を2020年までに全国30箇所整備するための準備に取り組み始めている。
「医療は文化である」との発想の下、市民ボランティアの手を借りながら、日本と世界の文化の橋渡し役を担おうとする動きであり、大いに期待が寄せられている。オリンピックは創設者のクーベルタン男爵に言わせれば、「スポーツと文化と教育の融合」に他ならない。
近年は各種競技のスピードを競うあまり、文化や芸術といった面での交流の場としてのオリンピックの色彩が霞んでいる。健全な肉体と精神を追求する機会であるならば、競技に参加する選手だけでなく、選手やサポーターを迎え入れる国民全体にとって、「健康とは何か」を考え、実行する場としてのオリンピックを再構築する時ではなかろうか。2020年の東京大会が、そのきっかけになってほしいものだ。
わが国では世界に冠たる国民皆保険制度が機能している。日本人が季節ごとの旬の食材を楽しむという「食文化」と、いつでもだれでもどこでも診療や治療を受けられる「国民皆保険制度」が車の両輪のごとく稼働することによって、わが国は世界でも羨望の的となっている「健康長寿大国」の地位を得ているわけだ。こうした食文化や医療体制といったハードとソフトの資源を世界と共有できるかどうかも、今後の日本の国際的な貢献を探る上で注目すべきテーマであろう。
メディカル・ツーリズムの分野ではシンガポール、マレーシア、タイ、インドなどが先行している。日本は遅れてレースに参加するわけだが、その成否を左右するのも、医療通訳の力であろう。医療通訳者も文化と言葉の両方の架け橋として、その制度的発展が期待される。
来たるべき2020年の東京オリンピックの機会に「食文化と健康医療」という観点からも知識や経験を競い合うチャンスが生まれるような仕掛けを工夫したいものだ。
次号「第122回」もどうぞお楽しみに!
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