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2018/11/02発行
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133回
トランプ大統領が警戒!“革新”投資実業家ジョージ・ソロスの
実力(後編)
浜田和幸
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米中戦争という最悪のシナリオを回避するためには、中国を国際的な金融及び安全保障の中にいかに組み込むかという国際政治上の知恵が求められる。日本では知られていないが、ソロス氏の「オープン・ソサエティー」は中国においても、様々な活動を展開してきた。中国国内の民主化や自由主義経済を推進することを目指しているようだが、中国政府はそうした動きを警戒し、様々な介入や嫌がらせを続けているという。
もちろん、ソロス氏は、「こうしたロシアや中国の見方は誤解と偏見に基づくもの」と一笑に伏していることは言うまでもない。それどころか、中国政府から要請があれば、中国の抱える環境問題やエネルギー問題などの解決はもちろん、このところ一進一退を続ける北朝鮮との関係においても「打開策に必要な資金援助も惜しまない」とまで発言している。こうした発言や動きはトランプ大統領の警戒心を高めているようだ。共和党支持者の差し金と疑われるようなソロス氏への嫌がらせや脅迫が相次いでいる。去る10月下旬にも同氏のニューヨークの自宅に爆弾が送り付けられた。
とはいえ、修羅場を生き抜いてきたソロス氏は一向に動じる様子がない。中国に関しても、投資家として今後も機会を逃さず投資の拡大を目指しているとの発言を繰り返す。しかし、肝心の中国政府の壁はいまだに厚いようだ。さまざまな障壁があるとはいえ、中国市場で大きな成功を収めている外国の投資家は数限りない。彼らはそれなりに中国当局と妥協しつつ、お互いのメリットを追求するサバイバル戦士ばかりである。慎重に検討するという姿勢に終始する日本とは大違いだ。
政治的課題に関してもソロス氏は独自の考えを育んでいる。
例えば、北朝鮮が進める核兵器開発についてである。ソロス氏によれば、「核兵器開発のリスクを回避するのは、持てる国も持たざる国も、例外なく全て国際的な監視体制下に置く」という核不拡散条約の締結が必要であるとの主張を展開。
このような新たな条約の下で、ある国が核兵器を先制攻撃的に使用する決定を下した場合、迅速かつ確実に摘発できる状況を作り、それらの保有核兵器を封印できるような仕組みにしなければ、根本的な問題の解決は難しい。もっともな主張である。
加えて、高度濃縮ウランは既に大量に存在しているわけで、自前の製造に頼らなくとも、既存の核分裂物質の入手は十分可能である。これでは、全く安心できないだろう。であるならば、さらなる条件が不可欠となるはずだ。それは核兵器の製造に必要な核分裂物質の生産と処理に関しても、国際的な監視体制を実施するという項目である。
ソロス氏によれば、「そのタイミングを確実に予測することはできないが、現状が続けば、いつ核戦争が勃発してもおかしくない」との結論になる。重要なことは、このような極めて危険な時代に我々が生きているという現実を認識することであり、そうした危機を回避するために、新たな条約締結に至る道筋を明確に打ち出すことが求められるというわけである。
中国は国内において、不平、不満分子によるデモや爆破事件などテロ行為の急増を抑えるため、「中国の夢」というスローガンの下、国内での愛国主義運動を強化。普遍的な民主化の概念を封じ込める動きが加速している。そのため「中国における民主化の限界が見えた」というのがソロス氏の見立てである。
とはいえ、逆説的ではあるが、ソロス氏の分析では「中国を関与させない国際政治は歴史的に禍根を残すことになる」との視点も無視できない。そうした観点から中国のリスクとチャンスを言葉巧みに宣伝する稀代の投資家の真意を把握することは無駄ではないだろう。
一方、ソロス氏はメディアの使い方が天才的だ。自らの情報に内外のメディアが飛びつくような極秘情報をちりばめる手法には、世界のジャーナリストたちもついつい乗せられてしまう。ロシアによる力ずくのクリミア併合や東部地区への軍事進攻により危機的な状況に直面するウクライナの内部情報を織り交ぜながら、「新生ウクライナを救え」と題するキャンペーンを展開。すると、「ニューヨーク・タイムズ」はじめ影響力のあるメディアも民主主義を標ぼうする立場上、こぞって彼の主張を転載せざるを得ないというわけだ。
特に注目すべきは、ドルに代わる国際決済通貨として、人民元の可能性を国際的に宣伝し、世界銀行やIMFを巧みに動かし、ウクライナへの投資を加速させている点である。過去平均100倍のリターンを手にしてきたソロス氏ならではの、新たな国際政治の混乱を逆手にとるという手法がどこまで成功するものか。大いに注視する価値がある。
また、ソロス氏は、ゴールドマン・サックスとも連携し、日本のアベノミクスにも深く関わるようになっている。日本銀行を通じて金融緩和という名の大量の資金を市場に投入することで、年率2%のインフレを実現しようとする安倍総理にとって、ソロス氏のアドバイスは極めて心強いものとなっているようだ。
いずれにせよ、天才投資家ソロス氏にとって安倍総理は動かし甲斐のある政治家と映っているようだ。かつてソロス氏は自らを「一種の神ではないかと思ったことがある」と告白。それほど強烈な自己愛にもつながる自信があってこそ、大英銀行を跪かせるほどの金融プレーで勝利し、その後も世界の金融マップを塗り替えるほどの技を発揮しているから見上げたものである。不動産王から転じた「アメリカ・ファースト」のトランプ大統領とヘッジファンドの運用で英国銀行を屈服させたソロス氏の戦いは日本の株式市場にも無視できない影響をもたらすに違いない。
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