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         2019/04/05発行

        世界の最新トレンドとビジネスチャンス

        第159回

        ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━地球温暖化で危機に瀕する種子バンク:切り札は遺伝子組み換え!?(後編)       浜田和幸

        ウェブで読む:https://foomii.com/00096/2019060710000054771

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         しかし、好事魔多し。人類の救世主となるはずのこの「種子バンク」は存在の危機に瀕している。この種子貯蔵庫が建設されたのはスピッツベルゲン島のスバルバルという場所。北極点から1100キロメートルほどの距離にある。極寒の地であり、周りには誰も住んでいない。まさに氷に閉ざされた世界といえよう。島自体が永久凍土の一部を形成しており、マイナス18度が最適といわれる種子の保存にとっては理想的な環境と目されていた。

         

         たとえ、貯蔵庫内の冷凍システムが故障したような場合でも、永久凍土層に位置するため、気温がマイナス3.5度以上に上がる恐れはない。しかも、地震の恐れも皆無だ。その上、海抜130メートにあるため、グリーンランドや北極の氷床が溶けても施設が水没するような可能性は限りなくゼロに近い。

         

         そして、地下130メートルに完成した収蔵庫は鋼鉄で補強された厚み1メートルのコンクリート製の壁で覆われている。かつ4重の装甲・気密扉と電子キーで守られるという厳重さ。核攻撃を受けても大丈夫といわれるほどの堅固な作りが自慢であった。

         

         そこまで厳重な貯蔵施設は世界でも見当たらない。ところが、この人類の未来の生存に欠かせない「ノアの箱舟」に危機が迫っているのである。日本では全く関心の対象外となっているようだが、実に由々しい事態といえるだろう。なぜなら、地球上で最も安全なはずだった場所が、意外にももろいということが発覚したからだ。

         

         完成当時には、アメリカの有力雑誌「タイム」が「人類の歴史において6番目に位置する偉大な発明」と絶賛した種子バンクだった。それが、10年も経たずして、このままでは使い物にならないとの烙印を押され、抜本的な設計の見直しが必要となってしまった。とても人類の未来を託せる代物ではないことが判明した。ビル・ゲイツ氏はじめ関係者も真っ青であろう。

         

         その原因は想定外のスピードで進む地球温暖化である。その結果、頼みの綱であった「永久凍土そのもの」が溶けだしてしまった。これには関係者一同が茫然自失である。2018年の時点で、貯蔵庫の建物は健在ではあるが、周囲の氷が猛烈な勢いで溶け始めており、種子バンクが水没する恐れが現実のものになりつつある。既に貯蔵庫の入り口近くからは大量の水が浸入し、貴重な数百万種類の種子が台無しになるまで水が迫っている。

         

         人類の未来を救うはずの種子バンクが水没の一歩手前に陥ってしまった。こんな皮肉な結末はないだろう。もともとノルウェー政府と共同でこの事業を進めてきたGCDT(世界生物多様性信託基金)のバウラー博士曰く「我々は毎日のように作物、生物の多様性を失いつつある。将来の農業のため、そして気候変動や伝染病などの危機から人類を守るため、あらゆる環境に適応する種子を保存する必要がある。言い換えれば、あらゆる危機に生き残る種子を集めたフェールセーフの金庫にしたい」。

         

         しかし、そうした目論見の背後には「アグリビジネスの利益追求」という狙いが隠されていた。どういうことかと言えば、農薬や化学肥料、そして種子をビジネスとするモンサントやシンジェンタ、カーギルなどは在来種より収穫量の多い高収量品種を化学肥料や除草剤を投入することで実現しようと目論んできたのである。

         

         今回の「現代版ノアの箱舟」計画についても、大手のアグリビジネスにとっては願ってもないビジネスチャンスと受け止められてきたのである。なぜかと言えば、遺伝子組み換え作物の特許を有する多国籍企業にとっては、「ターミネーター」と呼ばれる技術特許は富を生む源泉になっているからだ。

         

         というのは、この技術が組み込まれた種子を蒔いて育てても、できた種子は発芽しないように遺伝子を操作されているのである。ということは、一度この種子を導入した農家は毎年必ず、新たな種子を買わなければならないわけだ。農家は種子メーカーの言いなりにならざるを得ない。

         

         2008年に完成して以来、この貯蔵庫には世界中から種子が集められた。保存期間は概ね数千年の単位である。小麦であれば1700年、大麦なら2000年、トウモロコシは2万年もの長期保存が可能とのことであった。2017年の時点で400万種類近くの種子が保存されていた。コメと麦だけに限っても20万種類以上が貯蔵されている。最終的には450万種類、総計20億個の種子を集める計画であった。この最終ゴールは現在地上に存在する種類の2倍を集めるというもの。ということは、既に絶滅した種や地球外の種にも収集範囲を拡大するという遠大な構想であった。

         

         人類最大の種子バンクであるが、既に述べたように、地球温暖化の波に飲み込まれようとしている。人類の共通財産であるべき食物をコントロールし、莫大な利益を得ようとした動きに自然界が鉄槌を下したのであろうか。想定外の事態に直面し、ノルウェー政府はビル・ゲイツ氏らとも協議の上、応急の補強工事を始めることを決めた。2018年の春から開始し、2019年末までには完成させるという。果たして間に合うだろうか。

         

         自然の摂理に逆らうような人間のご都合主義は、まさにトランプ流と同じ。自然界の種子を絶滅させ、高額の遺伝子組み換え作物に変えさせた人類の欲望は止めを知らないようだ。今からでも遅くはない。あらためて自然の恵みに感謝し、人工的な遺伝子組み換え技術に依存せず、本来の自然に依拠した人間性を取り戻すきっかけにすべきでなかろうか。そうした人類全体の生存を賭けた戦いにこそ日米は共闘戦線を組むべきであろう。日本は「アメリカ・ファースト」の一翼を担うのではなく、「人類共存最優先」へ舵を切る時だ。

         

         

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        著者:浜田和幸

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