2019/10/04発行
世界の最新トレンドとビジネスチャンス
第179回
アジア、世界を襲う水と食糧不足の危機:今こそ日本の出番!(後編)
浜田和幸
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現在の灌漑システムはおおむね50年から70年の寿命を経ており、既に耐用年数が過ぎたと言っても過言ではない。各地で水が漏れだしており、農地に必要な水量が行き届かないという状況が見られる。灌漑設備の更新や補強が早急に必要とされているが、人口膨張国であればあるほど、各国とも財政状況が厳しく必要な手立てが講じられないままとなっている。
思い起こせば、2007年、アジアやアフリカ各地で食糧を求める住民の暴動が発生したことも記憶に新しい。40を超える国々で、飢えた国民が食糧品を扱う店を襲ったり政府の備蓄倉庫を襲撃したりする事件が相次いだ。当時の状況は「これから巻き起こる大規模な食糧争奪戦争の予兆に過ぎない」と言えそうだ。実効ある緊急対策が講じられない限り、アジア各国で食糧を求める飢えた農民や住民によるデモが巻き起こるに違いない。
こうした社会不安が広がれば、テロ組織が暗躍する可能性も一段と高まるだろう。アジア各国で社会主義体制が終焉を迎え、自由主義経済が広まった結果、多くの農民たちが自らの手で灌漑に取り組む動きが一斉に活発化した。それまでは、国や地方政府が灌漑のインフラ整備に責任を担っていたが、国家のくさびが取り払われた結果、農民たちはこぞって自前の灌漑施設を導入するようになったのである。彼らが頼ったのは主に中国製の安い灌漑用の「地下水のくみ上げポンプ」であった。多くの農民たちはこぞって地下水をくみ上げ、自分たちの田や畑に水を引いたのである。
中長期的な見通しもなく、とりあえず目前の水需要を満たそうとして、多くの農民たちが勝手に好きなだけ地下水をくみ上げてしまった。政府はほとんど介入する力を失っており、農民たちのなすがままで、何ら水資源を効果的に管理するという体制を構築することができないまま今日に至っている。
その結果、水資源は瞬く間に枯渇するようになってしまった。中国でもインドでもこの数年の間に地下水はほとんど汲み上げられてしまい、湖や池にとどまらず、長江や黄河といった大河でも断流化現象が見られるようになっている。水なくして生命は育たない。農業にとっては種も土も太陽の光も重要な要素ではあるが、水こそすべての作物や生命の源である。
中国やインドを中心にし、多くの農民たちが水不足による悲劇の主人公となっている。経済的に破綻し、自殺や身売りを余儀なくされている農家も急増しており、各地で大きな社会不安の原因となっているようだ。
その一方で、アジアの発展途上国の間では国民の食生活に大きな変化が押し寄せ始めている。日本でも経験したように、食の欧米化が進むようになったのである。伝統的に米を中心とした食生活がアジアでは主流となっていたが、このところ急速にパンや肉を中心とする食文化へ変化するようになってきた。
問題はこうした欧米の食生活を維持するために、はたまた小麦や牛肉、豚肉などの肉類を育てるためにも、大量の水が必要とされることである。今後ますます大量の水がなければ、肉類の確保は難しくなるに違いない。アジアでも欧米文化が広まる中で、大量の水を必要とする肉食文化が大手を振って広まりつつある。
25億人に達すると予測されるアジアの人口が必要な食を確保するためには現在の2倍の食糧が必要とされる。そのためには、これまで以上に貴重な水資源を有効活用することが必要とされる。その切り札となるのが既に述べたような日本の造水技術であり、節水技術と言えるだろう。アジアの中でも特に人口増加の著しい中国とインドにおいては、海水の淡水化プラントや汚水の浄化施設などへの投資が「焦眉の急」となっている。2019年、中国の東北三省では降水量が例年の55%に減少してしまった。
見方を変えれば、これこそ「日本がアジアのために救世主となる大きなチャンス」である。日本の水関連技術が今ほど求められている時はない。こうした水関連技術をどのような形で世界の食糧問題の解決に活かすことができるかどうか。日本の存在感が試されているといえよう。と同時に、「水一滴一滴が命のしずく」という日本的価値観を世界に広めたいものだ。
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