第42回
習近平とプーチンの共通点:日本の取るべき進路(後編)
浜田和幸
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それ以外にも中国の動きは素早い。
例えば、核問題で欧米諸国と対立したイランについても、6か国協議の合意が得られ、イランへの経済制裁が解除されることが決まると、最初にイランとのエネルギー開発と輸入契約に着手したのは中国であった。
習近平国家主席はイランのロウハニ大統領との素早い会談をまとめ上げ、イランにとって最大の原油輸出国となったのである。
もちろん、中国はイランに対し、鉄道、道路に止まらず鉄鋼、
自動車、電気、ハイテクなどの産業支援策を打ち出したことは言うまでもない。こうしたスピーディな対応は中国の持ち味であろう。
同様にロシアも、北方領土を含め、極東方面における大規模なインフラ整備事業について、日本にも参加を呼び掛けてはいるものの、中国や韓国、北朝鮮といった国々からの投資や合弁企業進出がはるかに速いスピードと大きな規模で進展中である。
日本との関係改善を狙うロシアは福島原発の除染や廃炉に向けて、技術の提供を申し出ているが、日本側の反応は遅く、プーチンは
日本より中国にシフトする意向を強めているようだ。
更には、原油価格が世界的に低下している中において、ロシアの経済発展の最大の原動力であるエネルギー資源の売り込みが厳しい状況に陥っている。
加えて、追い打ちをかけるように、欧米諸国はウクライナ問題を理由に、ロシアへの経済制裁を継続中である。
そうした中、中国がロシアに対し、天然資源の輸入拡大という形で、ロシアの生命線を維持している側面を無視するわけにはいくまい。
互いに国際的な非難を浴びることがあるものの、それゆえにこそ、中国とロシアは、かつてないほど強力に依存関係を深めつつあるわけだ。
習主席とプーチン大統領の相互依存関係は資源開発やテロ対策を
主眼とする「上海協力機構」に止まらない。
中央アジアのインフラ整備に始まり、エジプトの首都移転計画や
アフリカ、中東地域においても同様の動きが進んでいる。
サウジアラビアが掲げる「サウジ・ビジョン2030」は2030年までに「脱石油社会」を目指そうとするものだが、ロシアも中国も積極的な関与を展開中だ。
確かに、モスクワでは批判勢力が反プーチンの狼煙を上げることが時折あるにせよ、全ロシアでいえば、国民の間での高い支持率は衰えることがない。
その背景には、プーチンの政権下においては、国民の懐具合が確実に豊かになっていることが影響している。2005年にはロシア人の平均月収は8555ルーブル(約2万1000円)だったが、
2010年には2万1193ルーブル(約5万3000円)と倍増。平均年齢も65歳から71歳に延びた。一般国民からの支持が固いのもうなずけよう。
それだけ国民の支持があれば、大胆な行動に走ることも十分にありうる話だ。
ウクライナ問題に関して、欧米に対して一歩も引かない姿勢が見てとれる。
プーチンは「ロシアと変貌する世界」と題する論文の中で、「中国との連携を軸にシリア情勢、イランや北朝鮮の核問題など、欧米とは一線を画す」姿勢を鮮明に打ち出している。
要は、プーチン大統領は、崩壊した旧ソビエト連邦を自らの手で蘇らせたい、との歴史的野望を秘めているのである。
「ソ連崩壊は20世紀最悪の地政学的な悲劇だった」と主張して
止まないプーチン。
「ユーラシア同盟」の名の下で旧ソ連の復活を模索している。
「中国の夢」と称して、4000年、時には5000年の歴史を背景に、中華思想を実現しようとする習近平の路線と共通する部分が多いのも当然であろう。
実際、上海協力機構においては、中国とロシアが旧ソ連邦の中央アジア諸国を含め、テロ対策や安全保障の面から地域の安全と発展を進める動きに加え、ユーラシア同盟との連携も視野に入ってきている。
インドやベトナム、モンゴルなども組み込み、合同の軍事演習や
資源開発、インフラ整備プロジェクトが相次いで始まりだした。
残念ながら、こうした動きに日本は全くと言っていいほど食い込むことができない状態が続いている。
それだけロシアや中国の動きに疎いのが日本なのである。
現在のところ、こうしたプーチンの強い姿勢は国民の間で高い
評価を得ている。
また、各地で激化しているイスラム過激派集団との戦いにおいても、ロシアはアメリカ以上にISの掃討作戦には人とカネを投入しているようだ。
こうした民族独立の動きをけん制する強硬な姿勢も中国の習近平との共通点と言えるだろう。
プーチンは毎年年末になると、内外の記者を集めた恒例の会見を行う。
出席するジャーナリストの数は毎年増える一方で、2015年には1400人が集まった。
どんな質問にも、その場で答えるというのがうたい文句である。実際、2人の娘の結婚相手の話題から国内の汚職疑惑、そしてシリア情勢やアメリカの大統領選挙に至るまで、メモも持たず、テレプロンプターの助けもなく、一人で乗り切った。今年も間もなく恒例の記者会見の時期となる。どのような受け答えがなされるのか、興味深い限りだ。
一方の習近平だが、彼の父、習仲勲はかつて毛沢東から「民衆から出た民衆のリーダー」として抜擢された「期待の星」だった。しかし、冤罪を負わされ16年間も投獄生活を余儀なくされる。その間、習近平は辺境の地で過酷な青年時代を過ごした。生き抜くために欠かせない、人心掌握というサバイバル術を身に付けたようだ。
今日、中国最大の課題は幹部の汚職と富の海外持ち逃げである。拝金主義がまん延し、貧富の格差も広がる一方だ。
中央、地方を問わず、党や政府の幹部の地位を悪用したビジネスが横行している。
このままでは世界との競争に勝てないどころか、内部崩壊のリスクも高まる一方であろう。環境汚染も深刻であるが人心荒廃はより深刻なもの。
習近平はことあるごとに次のように語っている。「実業の世界に入るか、あるいは官僚の世界に入るか、2つの選択肢がある場合、官僚の世界を選んだ限りは、金儲けなど忘れることだ」。
自らに語りかけているようにも見えるが、実際には、彼自身を取り巻く金銭スキャンダルも多々あるようだ。
しかし、メディアコントロールが効いているせいか、今のところ、習近平もプーチンも国民からの信頼と期待をつなぎとめている。
巨大な暴走列車と化している中国を操る習近平。
第3次世界大戦の勝利のためには核使用も厭わぬそぶりを見せるプーチン。
ともに日本の隣国の最高指導者である。
その日々の動向に無関心でいるわけにはいかない。
習近平の掲げる「中国の夢」、プーチンの訴える「ソ連復活の夢」。それらの歴史的着地点を見極めつつ、両国との信頼関係をいかに
構築するか、そのためのビジネスチャンスをどのように掴むか、日本人の知恵が問われている。
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