第44回
日本の目指すべきエネルギー開発の道:なぜベトナムは日本の原発を拒否したのか(後編)
浜田和幸
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今や日本のODAの最大の受入れ国はベトナムとなっている。
実現していないが、新幹線の輸出計画もあった。
この新幹線の輸出計画は棚上げされたままだが、日本はベトナムにおける初の原子力発電所の建設計画に名乗りを上げ、2010年にはベトナム南部の原発計4基の内、2基分を受注することに成功し
ていた。
残りの2基はロシアが受注。
事業費だけで1兆円を超えるビッグ・プロジェクトで、日本にとっ
てはベトナムの電力供給を安定的に支援する上での象徴的な原発
輸出計画であった。
2030年までには、計14基の原発が建設、稼働するとの計画も打ち出されていたため、日本とすれば継続的にベトナムへの技術移転が進むものと、期待が膨らんでいた。
しかし、福島第一原発の事故を受け、日本からの原発移転に関する政府間協議は棚上げとなってしまった。
ベトナム政府に言わせれば、東日本大震災の凄まじい被害を目の当たりにし、「地震や津波に対する安全性確保の観点からも、再検討の必要がある」との理由で、着工時期が先送りされたのであった。ところが、この11月、ベトナム政府は、原子力発電所の建設計画そのものを白紙撤回するという方針を固めたというのである。
日本にとっては、寝耳に水である。日本とすれば、新興国における初の原発技術移転となるわけで、インフラ輸出に弾みがつくものと期待が先行していたため、ベトナム政府の突然の方向転換に戸惑うばかりだ。
しかし、ベトナムの国情を考えれば、こうした方向転換の可能性は十分に想像できたはずである。
ASEANの中でも、メコン流域の国々が集まり、近年はメコン川流域の経済発展を加速させようとする動きが活発化していた。
2016年10月にも、ベトナムの首都ハノイにはカンボジア、ラオス、ミャンマーの首脳が集まり、ベトナムの政府の指導者と共に「メコン地域経済協力戦略サミット」が開催された。
この場では、アジア開発銀行(ADB)の融資を受け入れ、メコン・デルタ地帯でのインフラ整備について各国が協力して取り組むことが合意された。
この合意に至る過程では、様々な産業分野での協力のあり方が検討されてきたものだ。
農業、漁業をはじめ、運輸、教育についても整備計画が話し合われた。
こうした事業を共同で進めるにあたっても、電力需要は各国とも増大する一方である。
とはいえ、原子力発電に関しては各国とも慎重な意見が大勢を占める傾向にある。
日本の福島原発事故の影響は、この地域にも大きな不安材料となっていることに日本では十分思いが至らなかったようだ。
実は、日本の原発事故をきっかけに、ドイツでは脱原発のエネルギー政策が国是となった。
太陽光や風力、バイオマスといった自然再生エネルギーで原発と同等、あるいはそれ以上に安全な電力確保の道が示されているからだ
そうしたドイツの試みはベトナムでも大きな関心を呼ぶようになった。
恵まれた自然環境を誇るベトナムである。
豊かな水利資源や太陽光にも恵まれ、海上での風力発電の条件も極めて良好なお国柄だ。
また、南北に長い海岸線の各地で温泉が確認されており、地熱発電の潜在的可能性も高い。
こうした環境を活かし、海外からの技術移転や投資は自然との共生路線に沿うものが望ましいのではないか、との議論が巻き起こってきたのである。
ある意味では当然の流れと言えるだろう。
日本は新幹線や原発という最先端の技術力を売り物に、ベトナムやアジア諸国への経済技術外交を推進してきたが、どうやら受け入れ国の実情や他の競合勢力の動きを十分に把握せず、独り相撲を演じてきたのではないだろうか。
また、地球環境の今後を見通す力に欠けていた面があったのではなかろうか。
ベトナムによる日本製原発への白紙撤回は大いなる教訓とすべきである。
日本の海外ビジネスのあり方を真摯に再検討すべき時だ。
折しも、インドのモディ首相が来日し、安倍首相との間で原発を輸出できるようにする原子力協定の締結で最終合意し、調印式が行われた。
インドは2032年までに原発の発電能力を10倍に拡大する計画を明らかにしている。
日本発の原発輸出に弾みをつけたい安倍首相のようだが、ベトナムの教訓を学んでいないようだ。
ドイツですら2011年の福島原発事故を受け、2022年末までに原発の全廃を法律で決め、自然再生エネルギーに舵を切った。そして、既にその成果を着実に上げている。
原発の安全管理や放射性廃棄物の保管や処理に伴う膨大な経費をグリーンエネルギー開発に回した結果である。
わが国もそうした方向を目指すべきはなかろうか。
次号「第45回」(12月2日発行)もどうぞお楽しみに!
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