第52回
地球環境の変化と環境技術の開発競争:風力発電先進国
オランダに学ぶ(後編)
浜田和幸
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しかも、現在、日本は新たに43カ所の石炭火力発電所を計画ないし建設中だ。
わが国は最新鋭の石炭火力発電の技術を有するとしているのだが、新たに発足する「緑の気候基金」による融資を活かして、日本製の石炭火力発電所を途上国に建設する計画を進めている、との一方通行的な国際的な批判を受けている。
というのも、日本は既にインドネシアの石炭火力発電に10億ドル、インドやバングラディッシュの石炭火力発電にも6億3千万ドルの融資を行っているからだ。
2009年のコペンハーゲン・サミット以降、国連に報告された300ほどの環境対策融資案件で、石炭火力発電を対象にしたのは日本だけである。
わが国の外務省は「高効率の日本製石炭火力発電は、地球温暖化対策上も効果が高い」とし、「日本が技術移転をしなければ、効率の悪い石炭火力発電により、一層温暖化ガスが排出される危険がある」と主張。その点は間違いなさそうだ。
とはいえ、こうした日本の主張に対し、国連の気候変動対策の責任者であるフィグエレス代表をはじめ、欧米諸国から批判の声が高まっているのはなぜか。
実のところ、地球環境の先行きを考えれば、いくら効率が高いとはいえ、「化石燃料に依存する現状から再生可能エネルギーへの移転を促す融資に重点を置くべきだ」というのが世界の主流派の意見となっているからである。
ドイツも同じように石炭火力発電所への融資は継続しているが、日本とは違い、気候変動対策融資とは位置づけていない。
日本だけが、気候変動に有効な対策として石炭火力発電所の普及に「緑の気候基金」をはじめ、新たな「気候ファイナンス」を活用しようとしている点は、今後一層世界から厳しい目を向けられることになりかねない。
それ故に、新たな「緑の気候基金(GCF)」の役割を検討するに当たっては、支援資金の金額の決定や、融資の方法、また実際に資金が有効に活用されているかどうかをしっかりと監視する体制の構築を考慮せねばならない。
中国は資金提供を受ける「途上国扱い」となっている点も再検討が必要であろう。
ことさら石炭火力に依存する度合いの高い中国にとって、日本の誇る石炭火力発電技術が地球温暖化対策上、効果が高いというのであれば、日中関係の改善の観点からも協力の可能性を検討すべきだ。
そのためにも、GCFが技術面で連携する「気候技術センターネットワーク(CTCN)」において、日本の技術力がより正当に評価され、GCFの融資先の選定においても、国際的な批判が日本に向けられないように働きかけを強化せねばならないのである。
日本には究極のクリーンエネルギーと目される水素燃料の技術もある。
今こそ技術と資金の組み合わせで、日本独自の「攻めの球温暖化外交戦略」を推進する時だ。
加えて、日本からはすごい技術が生まれようとしている。
何かと言えば、風力発電だ。
しかし、既に各地で稼働している風力発電装置とは大違いのもの。驚くなかれ、台風のもたらす運動エネルギーを使って発電に生かそうという画期的なものである。
このところ、日本を襲う台風の数も規模も拡大する一方である。
日本各地に甚大な被害をもたらしているのは、ご存知の通りだろう。
そこで、何とかしよう、と日本のエンジニアたちが立ち上がったというわけだ。
これまで自然再生エネルギーとしては太陽光や風力が利用されてきているが、日照時間や風向きなどの制限があり、なかなか主流派にはなれなかった。
実際、日本政府は太陽光発電を普及させようと高値の買い取り価格を設定したのだが、投機的な側面もあり、思ったようには上手くいっていない。
本当は日本では太陽光より風力の方が豊かであることに着目すべきであった。
しかも、風力発電一つをとっても、問題があったのも事実だ。
つまり、現在稼働中の風力発電のタービンが全て欧州製をモデルとしており、日本の状況に適合していなかったということなのである。
そのため、台風というまたとない風力源がありながら、これまで設置されたタービンはその力を活かすことなく、逆に台風によって破壊されてしまうという状況が一般化していたのだった。
こうした事態を憂慮し、新たな発想で問題を解決しようとする動きが具体化してきたのは逞しい限りだ。その中心は2013年に誕生した「チャレナジー」という会社である。
この会社が開発した風力を電力に変える全く新しいタービンは、上手く稼働すれば1回の台風で日本が必要とする50年分の電力を集めることができるという。成功すれば、世界初の「台風タービン」になる可能性を秘めている。
プロペラを持たず、回転する円柱に風が当たる際に発生する揚力を使って発電するという日本発の特許が売り物だ。
とにかく、風力を侮ってはいけない。風車で有名なオランダでは100%風力発電で走る電車が人気を博しているくらいだ。オランダの鉄道会社NRでは2017年1月の時点で連日60万人の乗客を風力発電の電車で輸送している。
もちろん、ディーゼル・エンジンで走る電車も存在しているが、その数は減少傾向にある。
当初、オランダでは2018年までに風力発電の電車を軌道に乗せるとの目標を立てていたが、既に1年前倒しでゴールを達成したわけだ。
風が吹かない場合に備えて、NRでは風力発電会社エネコと協力し、隣国のスカンジナビア諸国やベルギーからも風力発電を購入することで、安定供給体制を確立したという。
今後はヨーロッパ全域で風力発電のネットワークを構築することになりそうだ。
気候変動への対策ともなる風力発電は正に再生可能エネルギーの主役に躍り出つつあるといえるだろう。
オランダだけで2200基の風力タービンが稼働し、240万世帯の電力需要を賄っている。
日本も神風ならぬ台風の通り道に位置する地の利を活かした「風力大国」を目指す時であろう。
今回紹介した「チャレナジー」は2016年、沖縄に最初の試作機が設置されたばかり。
どこまで台風の力を活用できるものか、その実証結果に期待が寄せられている。
もちろん、台風のような強風がなくても、微風でも十分発電できる能力が備わっているのだから心強い。
日本気象協会や新エネルギー・産業技術総合開発機構も支援体制を組んでいるほど。
実は、パリのエッフェル塔にも風力発電機が設置されているのである。
その例に倣って、2020年の東京オリンピックに向けて、東京タワーや、新たに建設される国立競技場にも、台風タービンを設置してはどうか、と夢が大きく膨らんでいるところだ。
日本発のグリーンエネルギーの切り札になることを期待したいものだ。
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